
“不動産×シェアキッチン” 新しい価値の創出
フードデリバリーの配達ドライバーたちが、大きなバッグを背負いながら街中を移動する光景を日常的に見かけるようになりました。フードデリバリーは、アプリで近隣にあるさまざまな飲食店の料理を注文できるという手軽さから、2018年頃からじわじわと広がり、現在はすっかりと定着したように思います。
そんな中、東急リバブルでは2021年2月より、フードデリバリーに特化したクラウドキッチン(飲食スペースを設けない、デリバリー用の料理をつくるためのキッチン施設)事業をスタート。六本木に1号店であるCITY KITCHEN 六本木をオープンしました。
■初期コストを抑えることができ、一緒に伴走してくれる
最初に、CITY KITCHENの入居者であるA’FO合同会社(エーエフオーゴウドウガイシャ)CEOの柏原誉嗣雄さんに、お話を伺いました。
——CITY KITCHEN内で運営している店舗について教えてください。
デリバリー専門店のFood Pointでは「キーマカレー」「タコライス」「チキンオーバーライス」の3ブランドを展開しています。同じくCITY KITCHENに入居している“デリステーション”さんとフランチャイズ契約を結び、デリバリーメニューブランドを提供いただく形で飲食事業をスタートしました。
デリステーションの展開するフードデリバリーブランド
——どのような経緯でCITY KITCHENを知ったのでしょうか。
1か月ほど物件探しをしたのですが、居抜きでは予算が合わず、他社が展開するシェアキッチンだと売り上げに連動して手数料を取られるのがネックで……。そんなとき、デリステーションさんが入居するCITY KITCHENの存在を知りました。
——入居の決め手は何でしたか?
一番はコスト面です。飲食店を開業する場合、一般的には家賃と敷金、内装工事費、保証金、備品などの初期コストがかかります。CITY KITCHENは厨房設備が整っているので、基本的には月額の賃料と水道光熱費だけで済みますし、開業資金は100〜200万円程度に収まります。売上に連動した手数料のシステムもないので、それが決め手になりました。
——コストのほか、魅力を感じたところはありますか?
細かなこともひとつずつ相談しながら進められるのがありがたいです。リバブルさんもシェアキッチン事業が初めて、こちらも飲食事業が初めてなので、一緒にトライ&エラーをしながらやっていけるのは心強さを感じます。
——具体的に、どのような取組を一緒に行ったのでしょうか?
リバブルさんでの社内販売です。渋谷本社の社員の方からランチの予約を受け、ドライバーさんを手配していただき、渋谷本社までお届けするという仕組みです。今後はテストメニューの試食などもご協力いただけたらと思っています。
——今後の展望を教えてください。
最初のうちは、ドライバーさんとの連携がうまくとれなかったり仕入れの量を間違えたりとオペレーション面の苦労もありましたが、今はようやく慣れてきました。
CITY KITCHENには手数料のシステムがないので、どのメニューが売れるかなどを最初に試すにはうってつけの環境です。試行錯誤しながら、徐々にブランド数を増やしていきたいと思っています。
■初期費用は従来の10分の1。トライしやすい低コストがメリット
続いて、CITY KITCHENを運営するアセット事業本部 開発統括部 戦略事業部 運営企画グループ グループマネージャーの生井久貴さんに、事業の狙いやアイデアの着想のきっかけ、今後の展望について伺いました。
——あらためて、CITY KITCHENとはどのような施設でしょうか?
デリバリーやテイクアウトをメインで扱う飲食店向けのシェア型キッチンです。空いたワンフロアにキッチンを並べ、イートインを省いたキッチンスペースを提供しています。カウンターの配置などデリバリーやテイクアウトに特化した設計にしているのも特徴です。
——一般的な店舗用物件や、ほかのシェアキッチンと比較したメリットはなんですか?
最大のメリットは、初期費用をかけずに飲食業を始められることです。飲食業を始める場合、内装設備や敷金などで1,000万円ほどの初期費用がかかることもめずらしくありません。それに加え、飲食店は開業から1年で3割、3年以内に7割が廃業するというハイリスクな業界です。CITY KITCHENの場合、初期費用は従来の10分の1ほどで済むので、トライがしやすい環境です。
また、売上に連動した手数料がかからないのも特徴です。他社のシェアキッチンは、売上金額に応じた手数料を取るところが多いです。たとえば売上連動手数料が5%のシェアキッチンでは、月の売上が200万円の場合、月の賃料に加えて10万円(200万円×5%)の支払いが追加で発生します。CITY KITCHENはそうしたシステムがないので、コスト面のメリットは大きいかと思います。
——コスト以外に、CITY KITCHENならではのメリットはありますか。
販路の提供です。こちらはまだ試行錯誤ではありますが、先日東急リバブルの社員に向けての特別販売会を行いました。社員からの評価も良く、今後も継続して実施していく予定です。
今後、保有しているマンション居住者やシェアキッチン近隣のオフィスへも販路を拡大できればと考えております。
■Uber Eatsの流行から着想し、アイデアを提案
——CITY KITCHENは2021年にスタートした新しい事業ですが、どのような経緯で立ち上がったのでしょうか。
元は、私が社内の新規事業提案制度を使って提案しました。私は当時、新築マンションを販売する部署を経て財務部にいたのですが……。
——財務部から新規事業、ユニークなキャリアですね!
そうかもしれません(笑)。2019年8月に企画を提案し、社内で表彰されたのが秋。それから事業化検討に向け、11月〜12月頃に具体的に動き始めました。
——着想のきっかけを教えてください。
今から6、7年前、日本で民泊サービスが広まったとき、「なぜこのようなサービスを不動産会社は生み出せないのだろう」と思いました。世の中の変化を敏感に捉えていく必要性を痛感しました。
その後、Uber Eatsの配達員を街中で見る機会が増えてきました。アメリカではフードデリバリーやクラウドキッチンが増えていると知り、これは民泊サービスが広がったときと同じような感覚で日本でも広がるのではと直感しました。そこからアイデアを深めていきました。
——社内での表彰後、オープンに向けてどのように動いていったのでしょうか。
2019年末から、飲食店の方やゴーストレストランを運営する方にインタビューをしたり、物件を見たりと、本格的に準備を進めていきました。2020年秋にはある程度物件を絞りこみ、年末には社内の最終承認が降りました。2021年1月に物件を仕入れ、3月にオープンし、現在に至ります。
■不動産×シェアキッチンが生み出すバリュー
——不動産会社がシェアキッチンに取り組む意義について、どのようにお考えですか?
社内にある不動産という資源を、価値を高めながら有効活用できることに意義を感じます。不動産は立地がとても重要視されていて、基本的には駅近であるほど価値が高くなります。しかしながら、社内に集まる不動産は駅近のものばかりではありません。デリバリー専用のキッチンであれば駅近が必須条件ではないので、住宅として活用が難しい物件でも価値を高めることができます。
——ロゴも、不動産(ビル)とキッチン(鍋)の組み合わせが印象的です。ネーミングやロゴには、どんな思いが込められていますか。
キッチンはそもそもお店や家など「その場で食べる人のため」のものですが、デリバリーの普及によって、近隣の人に料理を届ける「街のキッチン」になることができます。街のインフラになりたいという思いを込めて「CITY KITCHEN」という名前をつけました。
ロゴには、東急リバブルの企業カラーであるブルーも入れつつ、「不動産会社」「街」「キッチン」のイメージを盛り込みました。
——六本木の物件を選んだのはどうしてですか?
港区や渋谷区はもともとデリバリーの需要が多いエリアです。フードデリバリーは単価が高くなりやすいので、所得水準が高いエリアでの展開が有利と言われています。Uber Eatsさんが日本に初進出した際も、始まりはこのエリアでした。
——ゆくゆくは他のエリアへの展開も?
そうですね。フードデリバリーの市場は年々拡大していますので、他のエリアにも展開していきたいと考えています。初期費とリスクを抑えたCITY KITCHENが増えれば、さまざまなエリアで展開したい飲食店事業者の方にとっても事業拡大のチャンスになりますし、店舗近隣の居住者の方へも新しいお店のデリバリーメニューを届けることができるようになります。
また、通常の飲食店だと、物件の契約が3年〜5年で縛られることが多いため柔軟に動くことが難しく、どうしても場所にとらわれてしまいがちです。CITY KITCHENにはそうした縛りが少ないので、「始めやすく辞めやすい」という強みを打ち出していきたいと思っています。
——飲食業にチャレンジするハードルが下がりそうですね。
CITY KITCHENは2ヶ月前に申告してもらえれば途中解約することができます。初期費用が高い、店舗物件の契約期間が長いなど、従来の飲食業の負の部分を改善していくような柔軟さを掲げていきたいですね。
■スタートアップと「共創」して、新しい価値を生んでいきたい
——CITY KITCHENの展望を教えてください。
「共創(=共に創る)」という考え方をとても大事にしています。CITY KITCHENの入居者はスタートアップの会社さんが多いので、彼らと一緒に新しい価値を作っていきたいと考えています。
——具体的にはどのような取組を考えていますか?
社内のリソースをもっと活用できればと考えています。今取り組んでいる渋谷本社での社内販売以外にも、六本木や麻布の自社店舗に届けられる仕組みや、麻布十番や芝公園にある当社保有のマンションの居住者にお届けできる仕組みが作れないか、とか。リバブルならではの販路を今、検討しているところです。
——フードデリバリーは、これからも成長が期待できる領域でしょうか。
コロナ禍でフードデリバリーの利用者が増え、かんたんに頼めるという認識が広まったことで、コロナ後もデリバリーの需要は続くと考えています。今、Uber Eatsさんや出前館さんをはじめ、各社が資本を投入して消費者の生活スタイルを変えようとしています。時代の変化に合わせて、CITY KITCHENの事業をこれからも広げていきたいです。