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会社をつくったら●年続けなきゃ

下北沢にある餃子の王将の4階に事務所があった。
その時2階に住んでいた知的障害のおっちゃんがいた。

僕らは「もみ男」さんと呼んでいた。
もみあげがとても特徴的な人だった。

彼はよく2階の階段の踊り場から路面に向かって乗り出し叫んでいた。詳しくは覚えていないが、政治や軍事関連の話が多かった気がする。「よくそんな情報を知ってるなぁ」と感心するくらいマニアックな内容だ。時に優しく、時に激しい語り口になることで巷ではわりと有名だった。

僕はよく彼に挨拶をした。
素通りすることもできたし、名演説を遮るのは憚られたが、僕は彼と話をするのが好きだった。

どんなに激しい剣幕で路面に叫んでいても、
後ろから「こんにちは!」というと
一瞬で明るくなり「こんにちは!」と応えてくれる。
時に世間話をし、時に挨拶を終えてすぐに演説に戻った。

ある日の会話を僕はよく覚えている。
もみ男さん「君、仕事は何やってんの?」
僕「映像をつくる仕事をしています!」
もみ男さん「ふーん。会社?」
僕「はい、会社としてやってます!一応、社長です!」

それから彼は僕にとって一生忘れられない言葉を言った。

もみ男さん「会社を始めたらね、3億年は続けなきゃだめなんだよ」
僕「3億年?3百年じゃなくて?」
もみ男「うん、3億年」

もみ男さんは真顔で僕に言い返した。
「夏休みの宿題は夏休みが終わるまでにやるべきだよ」
というくらい当たり前のような口調で言われた。

僕はしばらく考えて
僕「うん、わかった3億年続ける」と応えた。
もみ男さんはそれを当然のことのように受け止めて、
また演説の世界へと戻っていった。

階段を登りながら、自分の気持ちが晴れやかになるのが分かった。
「3億年続く会社をつくる」
それは小さい悩みが全部吹っ飛ぶくらいの潔さをもって生きていくことと同義であった。

今から3億年前といえば「白亜紀」や「ジュラ紀」を超えて、恐竜が出現するよりさらに前の、爬虫類的な何かが出現したとされる謎の「ペルム紀」である。

2010年、好きだった映像制作を仕事にしてやってみたいと思い独立し、フリーランスの期間を2年経て、会社をつくってみた。
今年の11月、会社設立して10周年になる・・・
という話がもはや1ミクロンレベルの進捗でしかない。
それでもいい。その方がいい。

今ナチュパラに関わるメンバーはもはや全員が創世記メンバーにくくられる。そして僕は創世記メンバーの一人としていろんな種を蒔いておきたい。それがたとえどんなに小さな芽であっても、あるいは芽が出ていなくても、3億年後にどのくらい成長したかを天の上で見守り、振り返り、ほくそ笑む楽しみがある。

先日、スタッフのそんみちゃんが数年前の(いや、つい最近の)写真を送ってくれた。ああ、自分は今、夢の途上にいるのだと思って嬉しかった。


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