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『リンドバーグ』完結記念!アントンシク先生インタビュー

恐竜のような生き物「リンドバーグ」が、飛行機のような羽根を背に付け大空を舞う……ゲッサンにて創刊号より連載を開始した『リンドバーグ』は、その驚きの設定と、冒険・成長・未知の世界といったド直球なファンタジー要素を取り込み、「新しくもどこか懐かしい」雰囲気を漂わせる作品です。我々は連載終了直後に作者アントンシク先生を直撃、改めて約4年間に渡る連載を振り返って頂きました!

1章:恐竜が飛行機のように空を飛ぶ!奇抜な設定の意外な着想元
2章:和名のリンドバーグ!?世界観はどこまで広がっていたのか
3章:彼らの冒険はまだまだ続く!!最終8巻について
4章:率直に振り返る反省点と今後について

恐竜が飛行機のように空を飛ぶ!奇抜な設定の意外な着想元
『リンドバーグ』という作品で、1番最初に浮かんだアイディアはどのようなものでしたか?

アントンシク先生(以下アントンシク):中学高校時代は漫画家になるつもりなんてまるでなかったんですけど、自分の考えた設定や何かの構想、とっかかりみたいなものをノートに描きだすのが好きだったんですよ。それで、前の連載である『ガゴゼ』が終わって「さて次何しよう?」と考えていた時に、ふと思い立ってそのノートを見直してみました。そうしたら、その中に1枚、若者とおじいさん二人による飛行機モノみたいなイラストがあったんです。たぶん当時は、『バックトゥザフューチャー』のドクとマーティーの関係性みたいなのを頭に浮かべながら落書きしたんだと思います。それはイラストだけで、それ以外文章も何も書かれていなかったんですけど、それを見ていたら飛行機モノっていいかも、とふと思ったんです。

作品作りのきっかけは、1枚のイラストから始まったんですね。そんな作品の中でも一番目を引くのは、恐竜のような生き物「リンドバーグ」が、人工の羽根と合体して飛行機のように空を飛ぶという設定ですが、そのアイデアはどのように思いつかれたのですか?

アントンシク:1番初めのイラストはいたって普通の複葉機でした。ただ自分の場合飛行機とか車とか、そういうカッチリしたものを描くのがすごく苦手なんですよ。逆に有機的なもの、自然物を描く方が好きなんです。飛行機モノを描こうと思ったものの、肝心の飛行機をそのまま描くのは面倒くさいなと(笑) それなら自分が描きやすい、生き物と組み合わせちゃえばいいんじゃないかと思ったんです。

作画による制約からあの設定が出来たというのは面白いですね!また、カバー裏のラフを見たところ、最初リンドバーグは恐竜ではないような姿だったようなのですが。

アントンシク:最初は主人公のパートナーとなるプラモのデザインを考えていて、犬みたいな感じで描いていました。ところが、「犬が翼をつけて空を飛ぶって必然性がまったくないなー」とどうもしっくりこなかったんです。うーんどうしようと行き詰まっていた時に、そういえば竜やドラゴンなら空を飛ぶというイメージとぴったり合うな、と思いついたんです。

ドラゴンという架空の生き物から、恐竜という現実にいた生き物へとシフトしていったのはどうしてですか?

アントンシク:竜やドラゴンって首が長くて頭が小さいイメージがあるじゃないですか。それが複葉機のガッチリとした機体とは合わないんじゃないかというのが気になりまして……首が短くてずんぐりむっくりしたヤツで考えていたら、自然と恐竜のような姿になり、第1巻辺りのリンドバーグはそういうタイプで出していきました。ただ描いているうちに、首が長くてもいいんじゃないかと思ってきて、途中から出し始めた感じです。それがキリオのロンドリィとか、ティルダ姫が乗っていたヴェガとかですね。

描いているうちに、当初想定していた設定が変わっていったのですね。

アントンシク:リンドバーグの形状は特に変わっていきましたね。キリオのリンドバーグも、複葉機にこだわらずやり方に自由度が出てきた頃に生まれました。最初は複葉機という設定にこだわるあまり、アイディアが堅くなってしまってあまりしっくりきてなかったんです。
他にも、同じリンドバーグでも見た目やバランスがしっくりこなくて細かいマイナーチェンジを繰り返しました。最初と最後で、同じリンドバーグでも大きさとかがちょっとずつ違ってきてたりします(笑)

作中では小型のリンドバーグだけでなく、戦艦型や飛行船型など、様々なタイプのリンドバークが登場します。

アントンシク:デカいものが空を飛ぶというのをやりたいというのと、ビジュアル的にインパクトのあるものをと考えたとき、大きい船やエルドゥラのようなリンドバーグがあった方が良いだろうなと思って出していきました。自分はFF(ファイナルファンタジー)世代でもあって、飛空船みたいなのにも憧れがあるので、艦隊戦を描いてみたいという気持ちもありましたね。海と比べて、空に浮いている飛行機の上で横付けして乗り込むのって相当危険だとは思うのですが……

その点、登場人物のシャークが飛行機の上を飛び移りながら戦うシーンがありましたよね。あれはハッタリの効いた演出でとても好きです(笑)

アントンシク:現実的には絶対にあり得ないんですけど、漫画ではそういうハッタリが大事ですよね。実写やアニメの映像で、実際にぴょんぴょん飛び移る動きを映してしまうと、ちょっと拍子抜けしたり嘘臭くてしらけるところがあるじゃないですか。逆に漫画だとコマ割りによって、飛び移る瞬間を省略できてしまうので、なんとかそれっぽく見せることができます。

ニットの冒険の始まりの地である空飛ぶ島のようなリンドバーグ「エルドゥラ」は、別名のひとつに「ラピュータ」があったりもしましたが、どのようにイメージを膨らませていったのでしょうか?

アントンシク:最初は物語の始まる場所として、とにかく隔絶された世界というのを頭に描いていました。そこで、登るのが不可能な山の谷間に村があり、空を飛ばないとそこから逃げられないみたいな舞台を考えていました。ただそれだといまいちインパクトがないなと感じたので、それなら実は空の上だったという方が良いんじゃないかということで、エルドゥラのアイディアを固めていきました。

ニットの心が、そのままプラモに直接反映するという設定はどのようなお考えで?

アントンシク:『リンドバーグ』というお話を作り始めたとき、人間とリンドバーグが合わさって1つの存在であるという風に、どうしても描きたかったんです。リンドバーグ単体でも飛べないし、人がリンドバーグを制御しないと飛べない。どちらかが独立して空を飛べるようになったら、関係性が対等じゃなくなるなと思っていました。その関係性を、ニットとプラモは更に純化させたものとして、より心の結びつきが強い存在として描きたく、あのような設定が生まれました。

和名のリンドバーグ!?世界観はどこまで広がっていたのか

『リンドバーグ』で使われている用語は、全てスペイン語だったりします。世界観のベースがスペイン語圏の作品はあまり見たことがなく、新鮮に感じました。

アントンシク:英語圏をベースにした作品は多いので、ちょっと違ったのを描きたかったんです。スペインとかそっちのカラっとした西洋、ラテン系のノリを取り入れれば新しく映るんじゃないかと思いました。シャークのキャラクター像なんかも、ラテン系な男の色気を想定して描いたところがありました。
それと、サグラダファミリアとかアールヌーヴォーみたいな美術が好きで、そういうのを漫画の絵にできたら面白いんじゃないかというのもありました。後半はあまり描けなかったんですが、最初のころは家具やドアのデザインをそういう風に意識して描いていたつもりです。

作中の描写に、近世の大航海時代を思わせるようなところがところどころにありました。大航海時代といえば当時の覇権国家はスペイン。そういうのは意識的に取り込まれていたのでしょうか?

アントンシク:スペインっぽい世界観で船を出すとなると、やっぱりどうしても大航海時代を想像してしまうので結果的にそうなりましたね。それに、大航海時代のフロンティア精神が持つワクワク感はすごいので、隠し味として何かのエキスのように入れられたらなあ、というのはちょっとありましたね。

それ以外にも、ファンタジー作品では一から世界観を作らないといけないのが大変だと思います。作中には出ていない裏設定などはありましたか?

アントンシク:本当はいろんな国、文化の違ったところでのリンドバーグというのを、世界各地を周って行くみたいな感じで出してみたかったんですけど、話の進行上そっちの方には行きませんでしたね。東洋的な場所の竜、それこそ和名のリンドバーグを出そうかなと思ったこともあったんですけど、話を広げすぎると世界観が壊れるかなと思って泣く泣くやめました。

作中には魅力的なキャラクターが多数登場します。そんな中、男性側と女性側描いていて楽しいのはどっちでしたか?

アントンシク:正直どっちも楽しいのですが、あえていえば男を描く方が好きですね。女の子を描くのは正直面倒臭いんですよ。絶対に、読者が可愛いと思ってくれるよう描かないといけないので女の子って描ける幅が案外狭いんです。それこそ針の穴に糸を通すような気持ちで描くので、楽しいとはいえ少し疲れてしまいます(笑)
たとえばサインを頼まれたときって、ペンで直描きするじゃないですか。女の子は柔らかさを出すために円形を多用するんですけど、一発描きで丸を描くのってすごく難しいんです。男の場合だと、ゴツゴツと角張っていて、そういうのをエッジ効かせて直線的に描くのはサインのときもすごく楽だったりします。

キャラクターで言うと、リンドバーグで外せない人といえばシャークの存在だと思います。先ほど「ラテン系の男の色気」と仰っていましたが、彼をどのようなイメージで描いていたのか詳しく教えてください。

アントンシク:彼は背中で魅せる、語るという大人像を目指していました。エヴァンゲリオンが流行っていた頃から、漫画界にも子供っぽい大人というのが溢れていて、そういう未成年の葛藤とかを残した大人が多いように感じていました。実際僕も既に30歳を越えましたけど、中身は子供の頃とそうは変わってないので、自分の実体験としてそういう大人像を描きがちになるのだと思います。それなら自分は、あえて完全な大人として子供から憧れられる、ヒーローとしての大人というのを真正面から描こうと思ったんです。子供のころに考えていた理想の大人像というか、下から見上げるような目線で描くのもすごく大事なんじゃないかと。だって、「憧れ」という気持ちは誰もが昔持っていたはずじゃないですか。その理想像を具現化するのは、間違ったアプローチではないと思います。

ここからはストーリーに関する質問をいくつか。
1巻の、いわゆる「落ちもの」―本作ではおっさんが落ちてくるのですが(笑)―的な幕開け、冒険に向けての出発、さらにラストページで更なる世界の謎が提示されるという構成が、単体でも十分面白いほど完成度が高かったのですが、そういう構造は最初から狙われていたんですか?

アントンシク:担当さんは、旅立ちの話は1巻に収まらないんじゃないかと危惧していて、エルドゥラの謎は2巻の始めに見せるのでもいいんじゃないのと提案されました。ただ僕は、絵による「引き」を強く意識していたので、そこはどうしても出したいんだと主張しました。1巻は虐げられていた主人公が、自分の境遇に抗うことよってカタルシスを感じて欲しかったんです。逆にモヤモヤした感じで1巻が終わったら、絶対に2巻を買ってくれないだろうと思ったのでそこは絶対に守りたかったところです。

その後の展開で物語の大きな転機となるのは、シャークの死(※ネタバレにつき反転)です。あの衝撃度の高い展開はどの段階から想定していたのでしょうか?

アントンシク:どちらにせよ、ニットとシャークの別れは描こうと以前から思っていました。シャークがあまりにも完全な存在として物語上にいるので、そいつが傍にいるといつまで経っても主人公のニットが成長しないんですよね。シャークはあくまでニットの成長の導き手として描くつもりでしたが、シャークのキャラが強すぎて、ニットがなかなか主人公にならず随分苦労していました。たとえば連載の途中に、自分の担当さんが編集長に「シャークを主人公に変えたら?」と言われたこともあったそうです(笑)

その事件をきっかけに、作品を2部構成にするというのは考えていましたか?

アントンシク:とにかくニットが幼すぎたんですよね。たとえば恋愛モノとか、何をするにしてもニットが子供すぎて上手く動かなくて。だからちょっと成長させたいな、いろんなことが出来る年齢にしたいなというのは描きながら思っていたので、若干後付け的ではありながら、あのような形に落ち着きました。

物語の一番最後に、物語の起点となるところにまた戻ってくることは想定されていましたか?

アントンシク:それは考えていました。結局探し求めていたのはエルドゥラにあったという結末にしたいなと漠然と思っていましたね。

幸せの青い鳥みたいな。

アントンシク:そのとおりですね。それにモーリンとかナンナとか、1巻以降出なくなってしまったキャラをまた出したいなというのもありました。
ヒロインのことは連載中かなり悩んでいて、一番ヒロインっぽいのは結局モーリンだったのかなと思います。編集さんとも「モーリンと一緒にエルドゥラを出るのはどう」という話をちらっとしていたんです。ルゥルゥやティルダみたいな女の子が個人的に好きなので、描いていて楽しかったのですが、一般的なヒロインではないのでモーリンとエルドゥラを出るのも悪くなかったと今では思います。
それと、「ニットの旅の目的って何だろうな」というのは物語を通して悩んでいました。ニットの原動力ははとにかく「外へ出たい」という気持ちであり、ある意味目的は1巻の時点で達成されているんですよね。それ以降の目的を作るのにすごく苦労したので、それも今では反省する部分です。

先生的には思う所もあるようなのですが、8巻という非常にコンパクトな巻数でお話をまとめたことは素晴らしいと思います。先生としては、とりあえず最後まで描ききれた作品なのでしょうか?

アントンシク:駆け足でしたけど、一応最初に想定していた終わり方はできたんじゃないかと思います。連載始めた時から、最初と終わりの方は何となくぼやーとは考えていました。その間のエピソードはあまり何も考えてなかったので、描きながら変わっていったところも多々あります。途中にもっと描きたかったエピソードはあったんですけど……まあ、まあまあそれはそれとして(笑) 全体的にはよかったんじゃないかと思っています。

彼らの冒険はまだまだ続く!!最終8巻について


ここでは最終巻についてお聞きしていきます。未読の方はご注意を。さて一番最後の最後に、シャーク・エスペランサ・ティルダ3人の間の、「ある秘密」が明かされます。それを―感動を派手に誘う方法もあったと思うのですが―非常にさりげなく演出していましたよね。

アントンシク:本当はもっとページ数に余裕を持たせて、ティルダにエスペランサが打ち明けるシーンとかも想定していたんですけど、いくら考えてもそれを聞いたティルダの反応が思い浮かばなかったんです。他にも、自分が描きたいことを全部つまびらかに描いてしまったら、読者の想像の余地がなくなるんじゃないかということ。全てが明らかにならずに、大人だけが知っている過去の思い出があるという風にしたほうが、大人のミステリアスな魅力が出せるかなということも考えていました。この人の若い頃には、結局何があったんだろうと思わせるのが魅力に繋がったりするんじゃないかと。
あと、大人達が過去の話をしだすとニットたちが置き去りになっちゃうんですよね。キャラクターに語らなせなくとも、読者が「ああ、そうだったんだ」と驚いてくれれば良いことで、主人公達が知らなくても良い謎だったんじゃないかと判断したのであのような見せ方になりました。

彼らの関係性を匂わせる描写は、合間合間に点在していたと思います。

アントンシク:「そういえばこういうことだったんだな、ここのところは」とあとで振り返って読んでもらう程度で良かったのかな、とは思いますね。結局のところ、物語の本筋とはあまり関係のない話ですし。
シャークの若い頃の設定で漫画には載せられなかったところでいうと、女王や親友アルベルトとの関係、黒薔薇七銃士隊と隊長としての関係性、ジャンゴを預けた鬼教官の前ではどんな感じだったのか、とかですね。すごく描きたかったんですけど、そういうところは想像を膨らませてもらえると有難いです。シャークの過去の話も最初から決めていて、いつか描きたい描きたいと思っていたことが結果的に描けなかった。それが逆に、作品のバランスを良くしてくれたと思っています。もし余裕があったら絶対に描いていましたから。

最後に、大きな謎が一つ残されて終わりました。彼らの冒険がまだまだ終わらないということを暗示させる良い演出だったと思うのですが。

アントンシク:実は仮面を被った「オブレ・エルドゥラ・ド」というキャラは、アルベルトなのかメリウスなのか、それとも全然違う他人なのか……3つの案で最後まで迷っていたんですよ。

では、ニットが「誰なんだお前は!?」と言っていたときは、先生自身も……

アントンシク:わかりませんでした。誰なんだろうコイツ、って(笑) それをどうするかで父親のことも変わってくるので、結構ギリギリまで悩んでいましたね。編集さんは「いやあ、父親でいいんじゃない?」ということを言っていて(笑) アルベルトだとすると、あと1巻分しかないのにいろいろエピソード描かないといけなくて大変なんじゃないの?と。
結果アルベルトということにしたので、父親はああいった立ち位置が良いのではと考えました。ニットが父親にまで会ってしまったら(※ネタバレ反転)、ニットの冒険に対する原動力というのが最後まで続かないんじゃないかと思ったんです。アルベルトの若い頃の関係性というのも、今まで描きたくても描けていなかったですし、その辺にも最後の方に触れられたので良かったと思います。

全てのリンドバーグがかつての姿を取り戻す(※ネタバレ反転)、という展開はどのようにして決められたのでしょうか?

アントンシク:人とリンドバーグ、二つで一つという話だったんですけど、空を飛ぶことに人間は必要なくなったとしても、心が通じ合って本当に信頼しあえる存在であれば、その辺りの垣根がなくてもいいんじゃないかと思ったんです。それとドラゴンという姿に立ち返りたいなというか、単純に翼の生えたリンドバーグも描きたかったというのがあるかもしれません(笑)

最後も絵的な要素が関係していたのですね(笑)

率直に振り返る反省点と今後について


最後の章では、今後のことについてお聞きしたいです。まずは次作に向けて、『リンドバーグ』で浮き彫りになった反省点を教えてください。

アントンシク:ファンタジーってがっちりと設定を作るじゃないですか。元々何かを作るときに、世界観から考え始めるような頭になっているんです。リンドバーグのとっかかりは1枚のスケッチでしたが、基本は文章から考えるタチのようで、世界観の設定を文章で膨大な量書いてしまうんですよ。
自分で考えだした設定は作品で出したくなるのが人情なんですけど、それって自分の首を締めることもあるんですよね。細かい設定の話をガッチリ作るのも、作品を作る上で大事なことではあるんですが、本当の意味で細かい話はほとんどの読者にとってはどうでもいいことなんです。

自分の作品作りのため、世界観を掴むために設定を詰めておくのと、実際に作中でその設定を見せるかどうかは別のこと、ということなんでしょうか。

アントンシク:それをいちいち見せようとすると、読者の興味のない話を延々とやることになるので、その辺の匙加減を上手くコントロールできるようになりたいですね。

確かに、『リンドバーグ』の話ではないのですが、世界観の説明ばかりにページ数がかかり、キャラクターの描写が不足してしまうようなファンタジー作品は、学生が描く作品でも多いような気がします。

アントンシク:キャラクターを掘り下げることがあまり出来なかったことも反省点の一つです。リンドバーグでは、最初にこういうことをやりたいというのを決めてからキャラクターを動かすというように、ストーリー重視の物語の作り方でやっていました。たとえばリンドバーグでレースをする話があったんですけど、レースの話をやりたい!と思ったからレースの話を作っただけなんですよね。レースを通してニットと他のキャラクターとの関係が変化したり、ちょっと心が打ち解ける、というようなことを目標に描けば良かったんですが……

ストーリーの流れと、キャラクターの感情の動きが上手く結び付けられなかったんですね。

アントンシク:もちろんあそこが面白いと言ってくれる方もいて非常に有難いのですが、多くの読者の心には届きづらい、ちょっと退屈なストーリーだったかと思います。物語の中で事件をドンドンと引き起こしていけば、それがそのままストーリーになると思っていたんですけど、キャラクターの関係性が変わらなければストーリーが進んでいないのと同じなんですよね。それがわかっていなくて、物語の進行を重視しすぎてキャラにスポットを当てられなかったんです。

そういえば、キャラクターに焦点を当てた日常回のようなものはありませんでしたね。

アントンシク:たとえば、主人公たちが乗っているドラグランジュ号は割と細かく設定していたんですけど、内部の構造を生かしたお話は結局描けませんでした。ストーリーを進めることばかり考えていたんですが、もっと船員たちの日常とかにスポットを当ててあげたかったですね。
「ストーリーの進みが遅い」という批評をされたことがあるんですが、だったらストーリーを速く回すことが面白さなんだと、登場人物とかの日常を完全にすっ飛ばし、ストーリーを進めることだけに必死になっていました。ただ読者が見たいのは、キャラクター同士の交流や関係性なんです。そういう描写を積み重ねて、キャラに思い入れを持ってもらうのがまず一番大事だったな、と今では思います。上記の「ストーリーの進みが遅い」といった不満も、そういった悪循環から生まれたのではと反省しています。

話辛いであろうことを忌憚なく語って頂き、本当にありがとうございます。それでは最後に今後の目標について教えてください。

アントンシク:何も考えずに作品を作ろうとすると、どうしてもファンタジー系になっちゃうんですが、それって自分的にはちょっとコリゴリみたいなところがあるんです(笑) ファンタジー作品だと、たとえば小物一つとっても実際に写真がある訳ではないので、アシスタントさんに描いてもらうにはいちいちちゃんと自分の考えを伝えないといけないじゃないですか。そういう意味では、現実の世界をモチーフにした現代劇を描いてみたいなと思っています。まあ、自分がどんな話を描けるのかわからないのでそこは色々考えてみたいと思います。ミステリーや恋愛ものとか、とにかくいろいろ挑戦したいなとは思っていますね。なんだかんだで、やっぱりファンタジー作品になるかもしれないですけど(笑)