スタートアップが死なないために

ポール・グレアム（Paul Graham）が執筆したエッセー「How Not to Die」の日本語訳になります。

2007年8月

（これは夏最後のYコンビネーターの夕食で私が行った講演である。通常、最後のディナーにはスピーカーがいない。どちらかというとパーティーだ。けれども、もし私がいくつかのスタートアップを回避可能な死から救えるのなら、雰囲気を壊す価値があるように思えた。だから、直前になってこのやや厳しい話を手早く作った。私はこれをエッセーとは言わなかった。ディナー前に2時間しかなく、書きながら最速で考えていたので、私はこの話を書き留めていた。）

数日前、私は自分たちが出資した会社の約3分の1が成功することを期待しているとある記者に言った。実際のところ、私は控えめであった。私は成功率が半分くらいであることを望んでいる。もし50％の成功率を達成することができるのなら、それは素晴らしいことではないだろうか？

これの別の言い方は、あなたたちの半分が死んでいくということだ。このように言い表すと、まったく良さそうに聞こえない。実際には、私たちの成功の定義は創業者たちが金持ちになることであるので、あなたがこのことに関して考えるのは少し変である。私たちが出資したスタートアップの半分が成功すると、あなたたちの半分はお金持ちになり、残りの半分は何も得られないだろう。

死ぬことをただ避けることができれば、あなたはお金持ちになる。これはジョークのように聞こえるが、実際には典型的なスタートアップで起こることのかなり良い説明である。これは確かに Viaweb で起こったことを説明している。私たちはお金持ちになるまで死ぬことを避けていた。

Viaweb も本当に死に近かった。買収されることについて話をするために Yahoo を訪れていたとき、自分たちが生き続けるために必要な新しい資金調達ラウンドから手を引こうとする投資家を説き伏せるため、すべてを中断して Yahoo の会議室を1つ借りなければならなかった。つまり、金持ちになる途中でさえ、私たちは死神を追い払っていたのだ。

チャンスが準備に出会うことで成る幸運に関する引用を聞いたことがあるかもしれない。あなたは今準備をした。あなたがこれまでにしてきた仕事は、実際にはあなたを幸運を得る立場に置いている。会社を死なせないことであなたはお金持ちになれる。これはほとんどの人たちが持つ以上のものである。それでは、死なない方法について話そう。

私たちはこのＹコンビネーターのプログラムを現在5回やり、多くのスタートアップが死ぬのを見てきた。これまでに約10個。彼らは通常騒々しく英雄のように死なないので、彼らが死ぬときに何が起こるのか私たちは正確には知らない。ほとんどの場合、彼らはどこかではうことをやめて死ぬ。

私たちにとって、差し迫る死の主な兆候はあなたたちから連絡をもらわないときである。スタートアップから数カ月間連絡をもらわなかったりスタートアップの消息を聞かなかったりしたとき、これは悪いサインである。元気にしているのか聞くメールをスタートアップに送って彼らが返信しないとき、これは本当に悪いサインである。これまでのところ、これは100％正確な死の兆しである。

その一方で、スタートアップが定期的に新しい取引やリリースをしたり、私たちにメールを送るかＹコンビネーターのイベントに姿を現したりする場合、彼らはおそらく生き続けるだろう。

これは考えが甘いように思われるだろうが、つながりが両方向に働くかもしれないことに私は気づいた。もしかすると私たちがあなたたちから連絡をもらうようにあなたたちが計らえば、あなたたちは死なないだろう。

これは思ったほどそんなに考えが甘いものではないかもしれない。毎週火曜日に私たちや他の創業者たちと夕食をとると、あなたたちはそうでないときよりも多くのことをやり終えることにおそらく気づいたかもしれない。なぜなら、毎回の夕食が小さなデモデーであるからだ。毎回の夕食が一種の締め切りだ。私たちと定期的に連絡を取り合うという単なる成約は、あなたたちに事を起こさせるよう促すだろう。なぜなら、私たちと話した前回から何も新しいことをしていないことを私たちに伝えるのが恥ずかしく思うからだ。

これがうまく機能すれば、それは驚くべきハックになるだろう。ただ私たちと定期的に連絡を取り合うだけでお金持ちになることができるのなら、これはかなり素晴らしい。クレイジーに思われるが、これが機能するだろう十分な可能性はある。

確率変数は他のＹコンビネーター出資の創業者たちと連絡を取り合うことである。現在、サンフランシスコには彼らの近所がある。あなたたちがそこに引っ越すと、夏の間ずっとあなたたちをより熱心に働かせた同僚のプレッシャーが影響を及ぼし続ける。

スタートアップが死ぬとき、死の表向きな原因はいつもお金が尽きるか重要な創業者が立ち去るかである。しばしば2つが同時に発生する。しかし、根本的な原因はたいてい創業者たちがやる気をなくすことであると思う。取引をしたり新機能を送り出したりして一日中働くスタートアップが、請求書が払えなくて、インターネット・サービス・プロバイダーがサーバーのプラグを引き抜いたという理由で死ぬのをあなたたちが耳にすることはめったにない。

スタートアップがキーをたたく途中で死ぬことはめったにない。だからタイピングし続けよう！

単に金持ちになるよう頑張り続けているのに、そんなに多くのスタートアップがやる気をなくして失敗するのなら、スタートアップを経営することはやる気をなくさせるようなものと見なす必要がある。これは確かに真実である。わたしは同じ経験をしたことがあり、これが私が決してもうひとつのスタートアップをやらない理由である。スタートアップの最悪な時期は信じられないほどに悪い。Google でさえ物事が絶望的に思える瞬間があったに違いない。

このことを知るのは役立つはずだ。ひどい気分に時々なることを知っていたら、ひどい気分になったときに「痛い、ひどい気分だ、あきらめる」とは思わないだろう。誰にとってもこのように感じるのだ。そして、あなたがただ頑張り続ければ、物事はおそらく良くなるだろう。スタートアップが感じる道のりを説明するために人びとが使う例えは、少なくともジェットコースターであって、溺れ死ぬことではない。あなたはただ沈んでいくだけではない。ダウンの後にはアップがあるのだ。

人を不安にさせるように思えるが、実際のところスタートアップで普通なもうひとつの感覚は、自分のやっていることが機能していないという感覚である。あなたがこの感覚を感じると予想できる理由は、あなたがすることはおそらく機能しないからである。より一般的には、あなたが何かをローンチしても誰も気にしないのだ。このことが起きたときに、自分は失敗したと思い込まないで。これはスタートアップにとっては普通のことだ。だけど、ダラダラと過ごしてはいけない。繰り返すんだ。

私は、少なくとも誰かが本当に愛するものを作ろうとするポール・ブックハイト（Paul Buchheit）の提案が好きだ。少数のユーザーが心から喜びを感じるものを作るかぎり、あなたたちは正しい軌道に乗っている。あなたたちを本当に愛してくれる少数のユーザーさえいることは、自分たちの士気にとっても良いだろうし、スタートアップは士気で動く。それだけでなく、あなたたちに何に集中すべきか教えてくれるだろう。彼らがあなたたちに関して愛するものは何か？　あなたたちはそれをもっとすることができるのか？　このようなことを愛する人たちをあなたたちはどこでもっと見つけることができるのか？　自分たちを愛するコアのユーザーがいるかぎり、あなたちがしなければならないことはそれを拡張することである。しばらく時間がかかるかもしれないが、あなたたちがコツコツ努力するかぎり、最終的にはあなたたちが勝つ。Blogger と Delicious の両方のサービスがそうした。両方とも成功するのに数年かかった。しかし、両方ともコアの熱狂的ユーザーから始め、エバンとジョシュアがしなければならなかったのはそのコアを徐々に成長させることだった。現在、Wufoo は同じ軌道に乗っている。

だから、あなたたちが何かをリリースして、誰も気にしていないように思えるときは、もっとよく見なさい。あなたたちを本当に愛してくれるユーザーはゼロか、それともあなたたちを本当に愛してくれる少なくとも小さなグループはあるのか？　ゼロになる可能性は十分にある。その場合、プロダクトを微調整し再試行しなさい。あなたたちの誰もが、順列の中のどこかにある少なくとも1つの勝利を含む空間に取り組んでいる。試し続けるだけで、あなたたちは勝利を見つけることができるだろう。

してはいけないことについて言及させてほしい。1つ目のしてはいけないことは他のことだ。「〇〇だけど、私たちはスタートアップを続けるつもりだ」で終わる文を自分自身が言っていることに気づいたとき、あなたたちは大きな問題に直面している。ボブは学校を卒業するつもりだけど、私たちはスタートアップを続けるつもりだ。私たちはミネソタに戻るつもりだけど、私たちはスタートアップを続けるつもりだ。いくつかのコンサルティング・プロジェクトを引き受けるつもりだけど、私たちはスタートアップを続けるつもりだ。あなたたちはこれらの文を「私たちはスタートアップをあきらめるつもりだけど、私たちは自分たち自身が進んでそれを認めるつもりはない」と単に言い換えたほうが良いかもしれない。なぜなら、これらの文はほとんどの場合このことを意味するからだ。スタートアップはとても困難なので、スタートアップに取り組む前に「〇〇だけど」が先行することはできない。

特に、大学院に行ったり、他のプロジェクトを始めたりするな。気が散ることはスタートアップにとって致命的だ。学校に行く（または学校に戻る）ことは死の大きな兆しである。なぜなら気が散ることに加えて、あなたたちに自分がやっていることに対する言い訳を与えるからだ。もしあなたたちがスタートアップだけをしていて、スタートアップが失敗した場合、あなたたちは失敗する。もしあなたたちが大学院にいてスタートアップが失敗した場合、あなたたちは後に「ああ、そうです。大学院にいたときに、このスタートアップが片手間としてあったけど、それはどうにもならなかった」と言うことができる。

自分の唯一の職業であるものに、あなたたちは「どうにもならなかった」のような婉曲表現を使うことはできない。人びとはあなたを許さないだろう。

Ｙコンビネーターに取り組むことから私たちが発見した最も興味深いことの1つは、数百万ドルを得るという希望よりも、格好悪く見えるという恐怖によって創業者たちがより動機づけられることだった。だから、もしあなたたちが数百万ドルを獲得したい場合、失敗が公開され恥をかかせるだろう立場に自分自身を置くことになる。

私たちが Octopart の創業者たちに初めて会ったとき、彼らはとても賢いように思えたが、特にコミットしているようではなかったので、成功する大きな賭けのようには思えなかった。2人の創業者たちの内の1人はまだ大学院にいた。スタートアップがテイクオフしているように見えた状況で、彼はドロップアウトした。これはよくある話である。それ以来、彼は大学院をドロップアウトしただけでなく、胸を横断する「ビリオネア」という言葉が印刷された全身姿で Newsweek に登場した。彼はもう失敗することができない。彼を知る誰もがその写真を見た。高校で彼を侮辱した女の子たちはその写真を見た。彼の母親はおそらくその写真を冷蔵庫に置いた。今失敗することは考えられないほど屈辱的だろう。この時点で、彼は死と戦うことにコミットしている。

私たちが出資したすべてのスタートアップが、彼らを次世代の億万長者として記述する Newsweek の記事に登場することを強く望む。なぜなら、彼らは誰もあきらめることができなくなるからである。成功率は90%となるだろう。私は冗談を言っていない。

私たちが Octoparts を初めて知ったとき、彼らはのんきで陽気なやつらだった。今彼らと話をすると、彼らは厳しく決心しているように見える。電子部品販売業者は、自分たちの独占価格を維持するために彼らを押しつぶそうとしている。（2007年に人びとがまだ厚い紙のカタログから電子部品を注文することがあなたに奇妙に思える場合、それには理由がある。販売業者は価格をオンラインに載せることで生じる透明性を防ぎたいのだ。）私たちが彼らをのんきな状態から厳しく決心している状態に変えたことに私は少し悪く思う。しかし、これは領域を伴うものである。もしスタートアップが成功すれば、あなたは数百万ドルを獲得し、あなたはそのようなお金をただ求めるだけでは獲得しない。あなたはある程度の痛みを必要すると見なさなければならない。

Octoparts にとってどんなに厳しいことになろうとも、彼らは成功するだろうと私は予測している。彼らは自分自身を全く違うものに変える必要があるかもしれないが、ただはうことをやめて死ぬわけではない。彼らは賢く、有望な分野に取り組んでいる。そして、彼らはただあきらめることができない。

あなたたちみんなが既に最初の2つを持っている。あなたたちはみんな賢く、有望なアイデアに取り組んでいる。最終的にあなたたちが生きるか死ぬかは結局3つ目の要素にかかってくる。それは、あきらめないことだ。

だから、私は今あなたたちに言う。不運はやってくる。これはスタートアップでは常にあることだ。何かの災難が発生することなく、ローンチから流動的になる確率は1000分の1だ。だから、士気をくじかせるな。災難が襲ってきたとき、これがポールが話していたことなんだと自分たち自身にただ言い聞かせなさい。ポールは何をしろと言った？　ああそうだ、あきらめるな。

ポールグレアム（Paul Graham）の日本語訳エッセー｜Jack｜note