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短編小説x写真【ブラックホールにも春が来る】渋谷のものがたり 6/5

あの男が、蹴られた腹いせに家族に暴力を振るったら―?
背筋がゾクッと震える。
私は、間接的に罪なき子供を死に追いやっているのかもしれない。

「ごめん。仕事の弱音なんて吐いて」
「いえ……」

やっぱり連絡先を交換しなければよかった。
一緒に居るべきじゃない。私と彼女の間には、見えない境界線がくっきりと引かれている。

その時、大きな怒鳴り声が聞こえた。
あたりを見渡すと、近くで一人の男がわめいている。

「カナミちゃん、あれって…」
「酔っ払い…ですかね」

「何?あの人、何してるの?」
「やばいよ。警察呼んだ方がいいんじゃねえの」


歩道橋上_ぶつかるDSCF1913

周囲もざわつき始め、のどかな昼下がりが一変、公園は不穏な空気に包まれる。
男が小さな子供の方に向かった時、とっさに体が動いた。

「カナミちゃん!?」
「いてててて!何すんだ、この野郎!」

歩道橋で睨むupDSCF1946

ダッシュで駆けつけると、ためらいなく男の手を掴み、振りかぶって橋の欄干に叩きつけた。

押さえつける_小DSCF1892

「お兄さん、悪いお酒飲んじゃったの?通報される前に家に帰った方がいいよ」
「い、いてて、痛ぇって!わ、わかった!わかったから離してくれ!」

聞くと、酔っ払って気が大きくなっただけらしい。
駅までの道を教えてやると、男はあっさり帰って行った。

「カナミちゃん、大丈夫?」
「はい。あれくらい平気です」
「…い、今のって、護身術?速くて全然見えなかった…」
「?あっ……」

マズい、ついいつもの癖で―。
私にとっては日常茶飯事でも、暴れる男を取り押さえるなんて普通じゃない。

けれど私の心配をよそに、なぜか彼女の顔はみるみる明るくなっていく。

「武術の心得があるんだね。知らなかったからびっくりしちゃった」
「いや、今のは、武術ってほどのものじゃなく……」
「ねぇ、カナミちゃん。良かったら、私の仕事を手伝ってみない?」
「………はっ?」



続く

第一話はこちら
https://note.com/tokyogirlsstory/n/n2c96f16a8e5e
文章を考えてくれた新田さんが、制作裏話をこちらで紹介してくれています。本編の方で使わなかった写真などもこちらに掲載しているので、是非こちらもよろしくお願いします!
東京ガールズストーリーさんが公開中の短編小説×写真のショートストーリー「ブラックホールにも春が来る」のシナリオを書いたのでその裏話を語る。
https://note.com/nittamayu331/n/ne43940d71c9e


writer.   新田まゆ. https://note.com/nittamayu331

photography  江部公美
  https://vimeo.com/user20809234   
hair & makeup  Hinata Sakurai  https://www.instagram.com/h__ppppp/

featuring.      山田佳奈実
 https://www.instagram.com/yamada_kanami
インスタグラム.      https://www.instagram.com/tokyo_girls_story

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