法律事務所からのメッセージ      ~新型コロナウイルスと法律家の課題~

                       文責 弁護士梓澤和幸

はじめに

私たち弁護士からのメッセージに関心を寄せてくださる皆さん。

おひとりおひとりに弁護士という職業に携わるわたくしたちからの言葉をお届けします。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、新型インフルエンザ等対策特別措置法で定められた緊急事態宣言が4月7日に発せられてから、1か月が経過しました。
外出の自業要請、飲食店の営業時間の短縮要請などから零細、中小企業の経営状況は深刻です。またアルバイト、フリーランス労働者の休業、解雇による減収は深刻です。音楽家、俳優、などの生活への影響も見逃せません。

緊急事態宣言の下で、法律家であるわたくしたちが憂慮するのは、「抵抗を許さぬ沈黙の強制」です。
感染拡大を防止し、生命を守るために、もの言わずに自宅に閉じこもる生活スタイルが余儀なくされています。ワクチンがなく有効な治療薬が存在しない現在、感染予防だけが新型コロナウイルスに対抗する道であることは否定しがたいことです。そのためにウイルスのキャリアーである(またはその可能性ある)人間がお互いの接触の機会を最小限にする必要性は否定できません。

しかしながら移動の自由や集会、表現の自由という、人と人がつながり、談笑し、意見を交流し、社会の動向について議論し、やがてはこの国の将来の選択をしてゆくという権利、主人公たる権利の尊さは捨てることができないという信念に後退があってはならないと自戒しております。

参照 ドイツメルケル首相の国民向け演説

弁護士 梓澤和幸のHPに和訳文掲載)

コロナ禍は乗り越えた、しかし、格差は拡大し、沈黙の強制はもっと強くなり、子供たちの瞳から輝きが消え、人々の表情に笑顔は見えなくなったということにしてはなりません。

命、健康も、暮らし、そして自由も必ず取り返すという強い志を共に抱いてゆきたいと考えます。

私たちはそのために次のことを発言し、そのための機会を作り、必要な場合にはアクションを起こしてゆきたいと考えます。

第1 医療に関する問題

継続する発熱、倦怠感、のどの痛みなど思い当たる症状があるのに、保健所がPCR検査をやってくれないという悩みや相談を聞きます。

検査が何かの力で抑制されていることはほぼ明らかです。高熱、呼吸困難などの症状があるのに、新型コロナウイルスへの感染データが検出されないことから、適切な施設に入所できなかったため生命を失うという、不幸な結果に至った事例が報道で伝えられています。感染者の把握は市中感染の拡大防止のためにも重要です。「感染させてしまう」「感染させられる」このどちらをも避けたい、という気持ちはごく当然の思いです。

保健所に連絡してもらちが明かないというようなときにも弁護士はお力になれるはずです。
また自覚症状のない感染者、軽症感染者の施設拡充、重症者ベッドの確保、医療用マスク、呼吸援助医療機器の充実、感染症医療に従事する医師、看護師などへの特別手当の拡充など、誰の身に起こるかわからない感染後のケアについて弁護士や弁護士会としても発言を活発にしてゆく必要を感じております。

第2 補償について

1 事業者に対する補償について

経産省のホームページに持続化給付金についての説明があります。

前年の同一月の売り上げを50パーセント下回った場合、200万円(法人)または100万円の協力金を支給すると案内されています。

持続化給付金


また、東京都のホームページにも東京都感染防止協力金についての説明があります。

東京都では休業要請に応じて営業を自粛する飲食店に対して、一店舗50万円、複数店舗を休業する場合には100万円を支給するというものです。
東京都の給付金には受付期間が6月15日までとされていることに注意が必要です。

東京都感染拡大防止協力金


ここで大切なことは、支給は営業(財産)権制約の補償として行われるという法律的性格を持っているという理解です。

憲法29条3項には財産権を公共の目的で制約するときは正当な補償をしなければならないとされています。これはただの理屈ではなく支払いが行われない個別の事例があるとき、法律的な手続き(裁判)によって支給を請求できるか否かにつながってくる問題です。補償を要求することは権利であり、給付金はお恵みではなく、国や都の義務なのです。

2 一人10万円の特別定額給付金について
紆余曲折を経て一人10万円の特別定額給付金が決まりました。
この給付金は本来目前の生活困難の救済目的のために設けられたものですが、支給が遅くなるという懸念があります。これは国からの給付金ですが一部自治体では立て替え払いをして後に自治体が国から回収するというシステムをとっているところもあります。地元市会議員などの協力を得て、窮状にある人々を救うためこのような制度を導入することを地元自治体に求めてもよいと思います。

この給付金について、次のような懸念事項があります。

イ. 一つは生活保護受給者家族などの問題です。

この給付金は経済状況悪化のもとで住民一人ひとりの困窮を救済するためのものです。この給付金を受領しても収入とみなして生活保護給付金を減額してはならないという問題です。生活保護問題全国対策会議(代表尾藤弘喜弁護士)はこの点に懸念を持ち、厚生労働省に「一律に収入認定しない処理基準を設定してほしい」という要望書を提出していましたが厚生労働省はこれを受け入れました。雇用保険、年金受給家族についても同様の扱いをされるとされています。

しかし生活保護問題は楽観を許しません。今後企業経営の悪化などから失業家庭が増加することが予測されます。生活保護申請にあたり、自治体窓口で申請を抑制する自治体担当公務員から侮辱的な扱いを受けたとの報道が過去になされています。このような事例に遭遇した時、弁護士会、個々の弁護士が救援に当たる必要は大きくなると考えます。

ロ. 次に在住外国人への給付の問題があります。

日本人の配偶者、定住在留資格。永住権を持つ外国人は支給を受けられます。難民申請中の外国人は適法な滞在者なので受給できるはずです。
期限後滞在者(不法滞在と言われます)は受給できないとされています。

ハ. DV被害者である女性やこどもの受給上の困難があります。

このような場合避難先の市町村に早く事情を申告し、DV加害者である世帯主銀行口座への振り込みが行われないよう届け出る必要があります。

第3 高齢の方々が置かれている状況

わたくしども事務所では高齢の方々が抱えておられる問題にも取り組んできました。任意後見、法定後見、など後見事務の問題。遺言相続などの問題など。
高齢者が入所されている介護老人保健施設、介護付き老人ホーム、特別養護老人ホームではコロナ感染防止のため、家族も後見事務を担当するわたくしたちもご本人に面会をゆるされません。
その条件の中で、外部と接触できないストレスや介護に対する苦情や要望を後見人や家族に伝え、施設に改善をはかっていただくうえでの困難も生じています。
こうした状況の中で、後見役を務める弁護士として、施設に文書で改善を求めたり、ネットを駆使しての改善要望をめぐる会議を行ったりなどの工夫も行ってまいりたいと思います。

また、高齢の方が施設の中で遺言を残したいと考えられても、公証人の施設への立ち入りが可能になるか、緊急時の遺言の方法を定めた危急時遺言はどうなるか、これらの方法が難しければ自筆証書遺言の道を探るか、などこの状況特有の研究と工夫の必要もあるかと思います。
大切なことは高齢の方々がこのような状況の下でも尊厳をもった日々を送れるかどうかです。高齢になることは人生の最も大切な時期を迎えることだからです。そのために弁護士は力を尽くしたいと思います。

おわりに

前に述べましたように、いくつかの困難を救済する制度が設けられていますが、生活の不安なしにコロナ感染を防止し、コロナ以降の自らと社会の方向を見出してゆくにはまだ一層の制度の充実を図る必要があり、国、都道府県、市長村などに要望してゆくべきことは少なくありません。

弁護士はそのような制度充実とともに何より給付の具体的現場で、住民のみなさまの側に立ちサポートしてゆく役割を自覚しております。

わたくしども法律事務所は千代田区、中央区などの都心部や国分寺など三多摩地域においてもスズラン通り地域開発問題、神田駅高層化問題、築地市場移転、中央区再開発問題などの住民運動の支援、訴訟活動などに従事し、地域の事業者、住民の方々と力を合わせて問題の解決のために微力を尽くしてまいりました。

また、中小企業家同友会など中小事業家の団体とも協力、情報交換してまいりました。顧問として継続的相談にあずかっている企業も少なからずあります。少なからぬ事業者、住民、の方々と交流させていただきました。

そうした交流の中で知り合った方々から今回のコロナ禍の中での経営の困難とそれを克服しようとする工夫や気概にも接しております。わたくしどもはこうした方々に共感共苦し、必ずやこののちの再生をともに獲得すべく尽力したいと願っております。

今医療に携わる人々の厳しい状況については報道でも伝えられております。

弁護士もまた人々が困難におかれているとき、座してこれを見過ごすことはできません。
どうぞ何かのお悩み、ご相談事などあればご遠慮なく事務所までご連絡いただければ幸いです。

東京千代田法律事務所
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