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「型にはまってみるからこそ、自分のいびつな形がわかる」(ゲスト:『ハウ・トゥ アート・シンキング』著者 若宮和男さん)

毎月第2・第4木曜日に開催している、東京ブランディング大学校の定例会。

チカイケ秀夫さん『原体験ドリブン』出版に際し、いま話題の書籍の著者をゲストにお招きし、書籍誕生の裏にある「原体験」を、チカイケさんがライブヒアリングするという企画がスタートしました!

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第一回目のゲストは、昨年12月に『ハウ・トゥ アート・シンキング 閉塞感を打ち破る自分起点の思考法』を出版した若宮和男さん。著書では、ビジネスにも人生にも「アート」が求められている理由を語っています。

今回は『原体験ドリブン』著者のチカイケさんが、『ハウ・トゥ アート・シンキング』著者の若宮さんにライブヒアリング。

書籍誕生の裏には、どんな「原体験」があったのでしょうか?

「アート⇄ビジネス」「大企業⇄ベンチャー」対極な領域を横断してきた

若宮さんは「アート」と「ビジネス」そして「ベンチャー」と「大企業」という、対極に位置する領域を横断してきた異色な経歴の持ち主です。

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建築士として活動した後、東京大学で美学芸術学を研究。2006年からはdocomoやDeNAなどでビジネス領域で数多くの新規事業開発に携わりました。

2017年に「女性の感性でカラフルな世界に」をミッションに掲げるuni'queを創業。女性向けに特化したサービスを展開し、メンバーは全員複業という独自の取り組みをしています。

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現在はuniqueを経営する傍ら、複数社の新規事業開発アドバイザー、渋谷のイノベーション拠点である渋谷QWSのメンター、日経COMECOオピニオンリーダーなどを務めています。

ご自身で書かれた自己紹介noteはこちら。

アートシンキングの重要性を発信している若宮さん。一方で「型にはまることは無駄なことではない」と語ります。他者のやり方に自分を合わせることは、一見「アート」とは相反するもののはず。

しかし「型」にはまることの意味を見出している若宮さん。その真意は…?

以下、チカイケさんと若宮さんのライブセッションをお届けします。

アート作品が「なぜこうあるか?」は合理的に説明できない

チカイケさん(以下敬称略):「アートシンキング」に注目した理由はなんだったんですか?

若宮さん(以下敬称略):僕は新規事業との関わりが長くて。新規事業はめちゃくちゃ失敗するわけなんですけれども(笑)。

失敗する中でも「なんでうまくいかないんだろう?」と自分なりに模索してきた結果、0→1の新規事業をつくることはアートのクリエイションに近い感覚だというところにたどり着いてきました。

どこかにアートシンキングのやり方があって興味を持ったのではなく、自己流を編み出した感じに近いかもしれないです。

チカイケ:新規事業を作ることと「アートのクリエイション」が近いというのは、どういうところで感じたんですか?

若宮:一般的に新規事業を作る時には、「ニーズ」「社会課題」「売り上げ・利益」…自分のためというよりは、「他者起点」で考えているわけなんですよね。

それに対してアーティストは、何かの課題解決だったり誰かのために作品をつくるわけではない。作品が「なぜこうあるか?」というのはあまり合理的に説明できなくて、衝動的なところがあります。

それは起業家にも近いところがあると思います。『ハウ・トゥ アート・シンキング』という本でも「自分起点」の大切さを強く書いています。

アート論は「正解」がない学問

チカイケ:アートの研究では、どんなことを研究されていたんですか?

若宮美学芸術学という学問がありまして、マニアックな学問なんですけども(笑)。

アートの哲学的な意義、つまり「人間がなぜアートを必要とするのか?」ということを哲学する学問ですね。

チカイケ:めっちゃ面白いですね!

若宮:「アートは生きるために必要ない」とよく言われます。もっと優先することはたくさんあるだろうと。

でも実は、有史以来いろんな職業が生まれては無くなっていますが、アートの仕事はずっと続いている。一番長い職業と言っても過言ではありません。人間が生きるために何かが必要だからずっと残っているわけなので、その理由を研究していました。

例えば、昔からある美学として「悲劇のパラドックス」というものがありまして。

人間は、ギリシャ時代から悲しい劇を作ってはそれを観るということをやっているんですけども、幸せな気持ちになりたければ、美しいものやハッピーエンドな物語だけを観ればいいのに…なんでわざわざ悲しい物語なのか?それにはどんな心理学的・哲学的意味があるのか?を考える。それが美学芸術学という学問なんですね。

研究者それぞれが「なんでだろう?」ということを考えて、議論が深まっていく。アート論は正解がないことが特徴の学問です。

チカイケ:スタートアップもある意味「正解」がないですもんね。

世の中に「正解」はない。何を信じ、何を起点にしていくのか?

若宮:本来的には、世の中に「正解」はないんです。

けれども、日本の教育では「正解」があるという刷り込みを受けてきてしまうし、会社に入れば先輩から「仕事はこうやってやるもんだ」という正解を刷り込まれてしまう。最近は無くなってきているかもしれませんけれども。

そうすると、どこかで「チャレンジができない」感覚になってしまう。

「正解」がない時に、何を信じて何を起点にするかは「自分」しかないよねと。自分が起業家としても実体験しているところです。

かつてはゴリゴリのロジカルシンキングだった

チカイケ:大企業には合わなかったですか?

若宮:合わなかったですね(笑)。

チカイケ:(笑)。どういう風に折り合いをつけていたんですか?

若宮:当時は「変えてやる」みたいな気持ちでやっていたところもあったんですけども、組織の中にいると気づかないんですよ、組織の論理に巻き取られ始めていることに。

仕組みを変えるためには、出世しないといけない。出世するためには、会社で評価されないといけない。なので無意識に会社に合わせることをし始めてしまうんですよね。「やべぇやべぇ」と思って、それで辞めました。

チカイケ:さすがです。それに気づいたんですね。大企業時代の印象的なエピソードは何かありますか?

若宮:実は僕、アート研究をやっていながら、docomoに入った時はゴリゴリのロジカルシンキング野郎だったんですよ(笑)。

「自分は優秀でできる」と思いこんでいたので、チームのメンバーに対しても「俺の言うことやれ」みたいなオラオラでやっていて。それでもうプロジェクトが空中分解して、会社に行きたくなくなって、3日くらい無断欠勤していた時期がありました。

組織で動く時に「異質性」を生かさないで、言われた通りやれみたいな「理屈」だけではうまく行かないんだなということを学びましたね。

型にはまるのは無駄なことではない。

15分ほどチカイケさんと若宮さんのセッションの後、参加者からの質問タイムに突入。そこで「ロジカルシンキングからアートシンキングにどうやって転換したのか?」という質問が投げかけられ、若宮さんはこう答えます。

「ロジカルシンキングでものすごい失敗して『これは無理だ』と味わったので、アートシンキングに行ったという感覚があるんです。」

若宮さんは、アート・シンキングとは「違いを出す」ための思考法と捉えています。しかし大元には、「人間は、そのままで違う」という前提があると言います。

そして、とあるダンサーの話を引き合いに出し、「型にはまる」ことが「他人とは違う歪(いびつ)な自分」を知るうえで、大切なのではないかと強調します。

「ある話があって、ダンサーの人が昔の有名の舞踏家を全部コピーしてやろうと思ったけども、その人になりきろうとすればするほど「自分」が出てきちゃうらしいんです。

ロジカル・シンキングをずっとやっていた時も同じで、『あれ、なんか自分の体に合っていないな』という部分が見えてくるんですよね。

みんな違和感があっても、我慢して箱に合わせてしまっているので、その違和感を大切にしてほしいと思っています。

一回『型』にはまることは全然無駄なことではなくて、型にはまってみるからこそ、自分のいびつな形がわかるところもあります。どこがぶつかっていて、どこがはみ出ているのかが。」


アート研究、そして新規事業の開発と、「正解」なき問いに向き合い続け「自分」と向き合い続けたからこそ生まれた言葉は、自分で決めた道を進もうとする参加者にとって深く刺さるものでした。


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今回は東京ブランディング大学校ではないメンバーの方々にもご参加頂きました。ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました!


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東京ブランディング大学校

わたしたちは「なぜ」を問い続けて「本質」を見つめ100年後も続く価値を守り続ける存在です。日本初のスタートアップのブランディングに特化したコミュニティ。主宰のチカイケ秀夫が「STARTUP」×「BRANDING」月50回以上のスタートアップの打ち合わせや仮説検証を通して学んだ知見やナレッジを、これから起業を目指す方やブランディングに興味がある方に対して共有しています。全員が先生で、全員が生徒。メンバーがやりたい事の実現をサポートする『プロジェクト』が多数走っています。

(執筆:中村 怜生

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