INTERVIEW: ペドロ・カルネイロ・シルヴァ+アーダラン・アラム
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INTERVIEW: ペドロ・カルネイロ・シルヴァ+アーダラン・アラム

街に置いてある椅子に、知らない人と向かい合わせで座る。そこにあるヘッドホンをかけると、ミュージシャンが即興で演奏を始める。ペドロ・カルネイロ・シルヴァ+アーダラン・アラムの「フリーシート」というプロジェクトだ。いつ、どこで演奏が行われるかということは告知しない。彼らが出没する場所に偶然居合わせ、そこに参加してみようと思った人だけが体験できる作品である。見知らぬ人と一緒に世界で一つ、一回しかない音楽を共有するのはどういう気分なのだろう、その時、東京のまちはどう見えるのだろうか。作曲家でありミュージシャンのペドロ・カルネイロ・シルヴァと映像作家のアーダラン・アラムに話を聞いた。インタビュー・文:上條桂子、協力:花岡美緒


ペドロ・カルネイロ・シルヴァ+アーダラン・アラムのプロジェクトページはこちら
https://tb2020.jp/project/free-seat/

観客が巻き込まれる
多層的な作品空間


──お二人は個人でもそれぞれアート活動をされていますが、個人で活動される際と2人で組んで作品制作をされる際でテーマなどをわけているのでしょうか?また2人の役割分担を教えてください。

アルダラン:私にとってペドロと一緒に仕事をするのは、私が最も重要だと考えている「感覚によるつながり」を体現してくれたからです。私たちは美学と好奇心という共通の感覚を持っていて、それが公共空間の中に混乱とつながりを生み出すというテーマに繋がったのだと思っています。私自身の作品も、感覚によるつながりをテーマにしていますが、それは映像制作だったり、見知らぬ人を作品制作の一部に誘う参加型インスタレーションという制作プロセスの中に表れています。

私たちの役割分担に加えて、パフォーマンスのレイヤーを分けて考えることで、私たちの作品「フリーシート」をより理解することができると思います。ペドロの音楽制作プロセスは、「フリーシート」というパフォーマンスにある4つの層の中心となっています。
パフォーマンスの間、彼は、床の上に円で示された最初のレイヤーである出会いの中で音楽を創造することに完全に集中しています。彼の周囲に設置されているカメラは、「フリーシート」の第二のレイヤーです。観客は、その空間を歩くことで「フリーシート」の能動的あるいは受動的な参加者となり、明確にマークされた映像空間に足を踏み入れることになります。

第三のレイヤーは、カメラが撮影する範囲の外側の空間です。撮影はされていませんが、観客は公共空間における人々のインタラクションに大きな影響を与えています。第四のレイヤーは映像作品です。「フリーシート」で起きた出来事を記録し、たくさんの人々に何が起こったのかを感覚的に伝える映像になります。また、このパフォーマンスプロジェクトでは「サプライズ」がとても重要な条件となります。パフォーマンスがいつどこで行われるかの告知も一切しませんし、現場でも何が起きているかの説明は一切しません。


ペドロ:私は音楽家であり、主な表現形態はピアノと作曲です。アルダランは映像作家であり、ストーリーテラーでもあります。表現形態の異なる分野の2人が一緒にコラボレーションすることは、私たちにとってとても豊かなことです。「フリーシート」のユニークな点は、プロジェクトがそれぞれの専門分野での経験を活かしながらも、一つの作品としてまとまっていることです。私たちはこのプロジェクトの創造的なプロセスに平等に参加しており、社会における芸術の役割について非常に似た考えを持っています。「フリーシート」には私たちの個性が集約されているのです。

──「フリーシート」のプロジェクトが生まれた経緯を教えてください。

アルダラン:このアイデアの核となる部分は、私たち二人が出会ったい、公共の場で自分たちの作品を表現したいという共通の思いが重なったことが根幹にあります。ベルリンに住んでいると、街は活気に満ち賑わっているように見えますが、街を歩くたびに強い断絶感と匿名性を感じていました。街を歩く人々は、私も含めてですが、携帯電話に集中するあまり、彼らの周囲にあるはずの出会いや経験の可能性から切り離されて、まるで小さな泡の中を歩いているようだと感じたことが何度もありました。この感覚を抱いたことが、社会における公共空間の意味を問い始め、個人的にもアーティストとしてもこのテーマに取り組んでいきたいと思うようになった強い要素であることは間違いありません。

ペドロ:
アルダランと私は2015年にベルリンで出会い、お互いに音楽と映画という個人の芸術表現の境界線を探り、自分たちの作品に新たな意味を見出す可能性を模索していました。「フリーシート」は、何日もかけて話し合った結果生まれた作品です。私たちが抱いていた核心的な疑問の一つは、「なぜ都市空間には感情の余地がないのか」ということでした。その疑問に答える試みとして、普段は開かれていない公共空間で、人々が感情を体験するための思いがけない機会を作ることができるのだという提案をすることにしました。

──お二人が作品制作をする上で大切にされていることは何ですか?

アルダラン:個人的には、公共空間に干渉すること、既知の日常を乱し、その空間の中で新しい秩序を提案することが重要だと思っています。リビングインスタレーションをすることは、私にとって非常に魅力的です。なぜなら、そこでは新しい未知の状況に入った見知らぬ人々同士の、相互のインタラクションによってのみ命が吹き込まれるからです。

ペドロ:
私たちのプロジェクトで最も重要なことは、都市生活に混乱をもたらし、人々や公共空間に影響を与えることだと思います。私たちは通常、日常生活を送るためにまちを通りすがるだけなので、アートとインタラクションをするなんて期待せず普通の場所を探し求めます。そして、アートとの思い掛けない出会いをすることで、オートマチックかつ無感覚な心のサイクルを切断し、音楽を通して見知らぬ者同士のつながりを作り出すことができるのです。

──今回は「東京」の街にダイブするソーシャルダイブに応募いただいたのですが、東京という街のイメージ、ひいては現代日本のイメージをお聞かせください。

アルダラン:私には日本という夢を持っており、頭の中には膨大なイメージがあります。それを3つの言葉に要約しなければならないなら、「伝統(tradition)」「美(aesthetics)」「精度(precision)」という言葉を選びます。

ペドロ:ブラジル人である私は、日本というのは地球の反対側にあるひとつの国だというひとつの考え方を持って育ち、そこではどんな生活をしている人がいるんだろうという大きな好奇心を抱いてきました。私が持っている東京のイメージは、とても近代的で、よく整備されており、清潔でテクノロジーに満ちた都市であるということ。そんな都市で、フリーシートという作品にどういう反応が得られるかを見るのを楽しみにしています。ラテンアメリカと日本の文化的背景にも大きな違いがあり、それがパフォーマンスにどう影響するのかを体験したいと思います。


──東京ビエンナーレというイベントにどんなことを期待していますか? 各国の様々な芸術祭に参加されていると思いますが、東京ビエンナーレの特徴、他の芸術祭と違う部分は何でしょうか?

アルダラン:東京ビエンナーレを通じて、日本そのものと参加するアーティストたちの多様性をより深く理解できるような気がしています。 私にとってとてもエキサイティングな要素は、日本の公共空間を体験することです。私は幸いにも、たくさん旅行をして、多くの異なる文化を体験する機会に恵まれてきましたが、日本を訪れ、ローカルのコミュニティと芸術的に関わる時間と空間を持ちたいという大きな憧れを常に抱いていました。東京ビエンナーレからの招待でそれができるのは、夢が叶ったような気がします。

ペドロ:私が東京ビエンナーレのプロポーザルに注目したのは、地域のコミュニティを大切にしていることです。アートで都市を見直すという発想はとても魅力的です。私たちが参加した他のイベントとと比べて、国内に長期滞在し、より深い没入感を持ってパフォーマンスを体験できると期待しています。

上演させる都市によって
変容していく作品

──発表される予定の作品フリーシートはすでに何カ国かで上演されていますが、国によって反応はどう違いましたか?いくつか例を教えていただけるとうれしいです。また、東京で開催することでどんなことが期待できそうでしょうか?

フリーシートという私たちのプロジェクトは、見知らぬ人との交流によって実現します。 新しい国や都市での公演を考えるとき、私たちは公共の場を歩き回り、その場所でどういう提案をしたらよいかを感じ取ろうとします。次に具体的な提案に合わせて、パフォーマンスの内容を調整します。なので、私たちが演じるパフォーマンスは非常に具体的で、サイトスペシフィックなものだと思います。
「フリーシート –ディスタンス–」は、客席と客席の間に30mの距離を作り、孤独感に由来する大きな空っぽの空間で深夜のパフォーマンスを行うことにしました。

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Free Seat - Distance _ Ardalan Aram


「フリーシート –出会い–」のパフォーマンスでは、せわしない地下鉄の駅の出口で見知らぬ人同士が出会うために、通常ペドロと観客の2人だけの空間でのパフォーマンスに、3つ目の椅子を加えることで、2つの空いた席が向かい合い、知らない人同士がメトロの出口で出会えるようにしました。

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Free Seat - Encounter _ Ardalan Aram


『フリーシート –U5–』のパフォーマンスでは、移動する地下鉄の中で、通常は他の乗客との接触が避けられる向かい側の席を使用して、作品を構築していきました。ヘッドフォンは天井の下にぶら下がっており、地下鉄の動きに合わせて揺れ動きます。

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Free Seat - U5 _ Ardalan Aram

私たちは東京でどんなパブリックスペースに出会えるか、そして「フリーシート」というプロジェクトをするために東京というまちの感覚を体験できるということに、とても興奮しています。


──コロナが世界中に猛威を振るっている現在、不便を強いられていると思います。お二人はコロナをきっかけにどんなことを考えましたか?

コロナは確かに新しい一時的な秩序を生み出し、世界中で混乱を巻き起こしました。現時点では、私たちのパブリックスペースでの振る舞い方を根本的に変え、その空間内にトラウマを残すことでしょう。 アートは、私たちがこの状況から遊び心のある方法で一歩進むためのきっかけや提案を与えることができると信じています。

人々が集えない現在において
どう公共空間の中に近接性をもたらすか


──コロナ以後、人の移動が厳しくなると言われていますが、作品にはどんな影響が考えられますか? また、その対策としてどんなことを考えていらっしゃいますか?

「フリーシート」は、公共空間にいる人々の間に近接性をもたらします。これは、コロナ禍でさらに顕著になったことのひとつです。公共空間での作業は、以前と比べてはるかに困難になりましたが、同時に今まで以上に必要とされていることでもあります。来年後半のシナリオに応じて、私たちはいくつかのアイデアを発展させてきました。社会的な制約に関係なく、私たちにとって重要なことは、人々が公共空間と再接続できる提案をすることなのだと思います。


──作品を発表することで社会にどんなインパクトを与えられると考えていますか? また、アートにはどんな力があると思われますか?

アルダラン:私たちの作品が、少しの間でも、日々のルーティーンから抜け出させ、その人の人生どの部分であっても、彼らの心にもし問題提起したのであれば、その作品にはとても満足できます。混乱、選択、あるいは乱れの瞬間は、私たちが日常から逸脱するための火花として提供することができるものなのです。

言葉や概念といった言葉では伝えられないことでも、感情を通して伝えることができると個人的に思っています。その感情は見る人によって違うかもしれませんが、心の奥底にある根本的な何かを動かす可能性を秘めていると私は思っています。そうした感情は視聴者によって異なる可能性がありますが、一人ひとりの心の奥底にある何かを動かすという信じられないほどの可能性を秘めています。 一度だけ体験したことがあるのですが、ティノ・セーガルの作品空間に足を踏み入れたとき、その瞬間に、私の中の何かが深く感動したと感じることができました。その経験は、私が自分で作成する作品の大きなインスピレーションであり、アートを通じたコミュニケーションが私に与える可能性のある深い影響を常に思い出させてくれます。その作品体験は、作品を制作する上での大きなインスピレーションであり、アートを通じたコミュニケーションが人々に深い影響を与える可能性があるということを常に思い出させてくれます。

ペドロ:アートは、私たち自身がさらに学べるんだということを教えてくれます。アートの定義は「感情の巨大な図書館」だと聞いたことがあります。私はこのイメージが本当に好きです。世界を変える方法は、個人的であり社会的である存在としての自分を受け入れ、より深く知ることにあると信じています。アートは、私たちや世界というものについての疑問を浮かび上がらせる力がある、という意味において私たちみんなにとって重要な道具なのだと思います。東京ビエンナーレのステートメントには「...「私たち」を出現させ、また新たな「私」を発見します。」という言葉がありました。この「新たな私」は、誰かが本当に芸術作品のそばにいるときに現れるのだと思います。

cover photo/ Free Seat - Distance _ Ardalan Aram

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東京ビエンナーレ2020/2021(https://tb2020.jp/)の公式noteです。参加アーティストやディレクター、市民委員会の方々等のインタビューや対談、寄稿記事、また作品の進捗などをご紹介いたします。