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公園で私に話しかけてくれた女の子へ。

昨日、いつもの公園を犬と歩いていたら、後ろから人に話しかけられた。とっても小さな声で「きなこさん」って呼ばれた。

マスクの上にパチパチとある、その目の目尻の形で気づいた。先日、私の漫画から夫の店を知り、眼鏡を買ってくれた女の子だ。女の子といっても立派な大人だけど、白目が艶々しているので少女みたいだなと思っていた。

私は、似顔絵用の写真でしかお会いしていない(会うっていうのか?)ので、これが初めましてである。そういえば、すごく近所に住んでいるらしいよと聞いていた。※似顔絵つきのお渡し袋なんです。

・・・・・・

「よく私のことわかりましたね」って、条件反射で驚いたふりをしたけれど、犬を連れている時の私は、多分わかりやすい。いかにも元野良犬ですという風貌の茶色い中型犬と、シーズー犬の組み合わせなんてめったにいないからだ。

しかもその日は、夫の店のロゴが入ったTシャツも着ていた(けどそれは別に気づかれていないと思う)。

「その犬の組み合わせは、ぜったいそうだと思って…」

「ですよね」

・・・・・

「よくこの公園にいるって店長さんにお聞きして、いつか会えると思ってたんです」

その女の子の隣には、三輪車にまたがったおじょうさんがくっついていた。

「噴水で遊んでたんですか?」と私が聞くと、「いえ!今日の噴水は水鉄砲を持ったイタズラっ子がたくさんいて治安が悪いです…!」

水鉄砲に脅かされる“治安”…可愛い。子どものいない私には持ってなかった世界の言葉だな、と思って笑ってしまった。

・・・・・

「このおばちゃんだあれ?」という顔のおじょうさんの隣で、その女の子は、私の漫画を好きだと言った。何度も泣いていると言った。艶々の白目の中で黒目が揺れているのを見て、『この子、緊張してる』と思った。

私は、その間ずーっと想像してた。

公園のどこかで私の姿を見つけて、三輪車に乗った娘が転ばない速度で引っ張って、声かけたら迷惑かなどうかなって考えながら私に追いついて、思いきって名前を呼んだ、その時間を想像してた。

私、その時間に、今いったい何を返せるだろうか。

・・・・・

結局は「ありがとう」しか言えない。本当に言いたい事はもっとちがうのに、あんまり重すぎても困るだろうと思って、カラッとしたお礼しか使うことができなかった。

本当に言いたかったのはこうだ。

「私、今日落ち込んでいたんです。何を描いても面白くない気がして、そもそも面白さなんか求めて描いてたっけ私とか思っちゃって、いつからそんな、人の目気にして描くようになっちゃったんだっけって思っちゃって、それで、誰かに会いたいと思って公園に来たんです。でも誰にも会えなくて、私今、1人で歩きながら舌打ちしてたんです。噴水にも水鉄砲にも腹が立って、こんな日曜日の午後に、舌打ちして歩いてたんです。そしたらあなたに呼ばれたんです。そして、噴水も水鉄砲も一瞬で可愛い世界にまとめて、漫画を好きだと言ってくれた。重いと思うので言えませんが、私はやっぱ明日も描こうと思いました。悩んでても描こうと思いました。それが本当に本当に嬉しいです。」

ありがとう。応援してくださる全ての方々、ありがとう。



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