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第三腰椎横突起症候群の鍼灸治療

疫学:第三腰椎横突起が先天性または発育性、後天性に肥大化した病態で、横突起周囲の筋組織などを刺激し、腰部に痛みが生じる病態。日本での症例はほとんどなく、研究が進んでいない。Bertolotti症候群(第五腰椎横突起の肥大)と同類の、特異性腰痛の一種と考えられる。

原因:不明。

一般的な治療法:不明。中国では横突起の切除など。

当院の治療法:まずは整形外科などでX線などを撮り、確定診断していただくことが必要です。肥大化した横突起が明らかに固有背筋や大腰筋、腰方形筋などを刺激しているようであれば、摩擦部の筋肉が白化して見えることがあるようです。中国では比較的症例が豊富ですが、日本では病名自体が設定されておらず、疫学や症例などに関する情報がゼロに等しい状況です。したがって、現時点では治療法も確立されていません。当院では中医的な刺鍼法を参考に刺鍼することが可能ですが、基本的には手術療法で横突起の肥大部を切除しないと、症状を完全に取り除くことは難しいようです。しかし、当然ながら手術には様々なリスクが伴いますから、どうすべきかの判断は難しいところです。

*以下は院長の別のブログからの引用です。

日本の鍼灸界ではほとんど知られていないが、現代中医の世界では比較的メジャーで鍼治療が有効な疾患は色々ある。

その1つに、第三腰椎横突起症候群(第三腰横突综合征)というものがある。英語圏では「the 3rd lumbar vertebrae transverse process syndrome」 とか、「transverse process syndrome of third lumbar vertebrae」とか、「the third lumbar transverse process syndrome」などと呼ばれているようだ。英語の呼称が一定していないのは、欧米ではあまりメジャーでない病態なのかもしれない。

しかし、第五腰椎横突起が肥大して仙骨や腸骨間に関節を形成するBertolotti's syndrome(ベルトロッティ症候群)は、日本人にも欧米人にも同様にみられる病態であることを鑑みると、第三腰椎横突起症候群は中国人に限ったものではなく、日本や欧米では単なる腰痛症の1つとして見逃されている病態なのではないかと私は考えている。

日本の鍼灸師は中医師とは異なり、法律上、レントゲンやCTで腰椎の状態を確認することができない。ゆえに、これはあくまで私見、推測の域を出ないのだが、日本にも少なからず第三腰椎の横突起が長大化している患者がいるようだ。

これまで私が臨床で実際にみてきた限りでは、第三腰椎横突起症候群の疼痛部は一般的に腰方形筋付近にあるため、腰方形筋の硬縮が原因であると勘違いしやすい。腰方形筋のみに異常がある場合は片側的に痛みを感じることが多いが、第三腰椎横突起症候群と疑わしき患者においては、疼痛が両側に出ることがほとんどで、「ここにシコリがある感じがする」と言って第三腰椎横突起付近を指刺し、圧痛を訴えることが多い。

当院に来院する患者に限れば、慢性腰痛を訴える患者のうち、200人に1人くらいが第三腰椎横突起症候群であると推察される。ある研究結果によれば、ベルトロッティ症候群の潜在的な患者数は慢性腰痛患者の約1割を占めており、その発生頻度は腰椎すべり症や腰椎分離症よりも高かったという話だから、実際には第三腰椎横突起症候群も潜在的な患者が沢山いるのかもしれない。ちなみに、中国の針灸書によれば、第三腰椎横突起症候群は痩せ型で肉体労働の男性に多いとされるが、日本ではオフィスワーカーの男性に多くみられるように思われる。

現代中医学的な刺鍼法を用いるのであれば、第三腰椎横突起症候群の治療は比較的簡単である。重症の場合は中国の最新の針灸書にも書かれているとおり、横突起を削るか除去する外科的な手術が必要なようだが、軽度であれば鍼治療が有効である。

第三腰椎は腰椎の中軸に位置し、他の腰椎に比べて可動域が広いため、過大であれば横突起先端で筋組織などとの頻繁な摩擦が起こり、血腫、癒着、硬結、瘢痕化を生じやすい。生活環境が変わらなければ再び癒着する可能性はあるが、鍼治療である程度改善させておけば余程のストレスが急激にかからない限り、すぐに元に戻ることは稀だ。再発が心配であれば、信頼できる医師に相談して、手術した方が良いケースもあるかもしれない。

経絡治療や弁証治療などを標榜する日本の一般的な鍼灸院では、100回やっても完治させることは困難であろう。ゆえに、本当に治したいと思う鍼灸師は、本場中国の針灸書を読み漁り、独学でトライアンドエラーを繰り返しながら、研究してゆくしかなかろうと思う。

現在、私の手元には第三腰椎横突起症候群について書かれた針灸書が10種ほどあるが、「刃针疗法(田纪钧主編、人民卫生出版社刊)」が最も内容がまとまっており、お勧めだ。ちなみに、この本は田纪钧氏主編の同タイトルの本が2種出版されているが、2016年初版、柳百智氏が総編集した後発の本の方が、図版が豊富な上に加筆されていて良い。

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