湿っぽい部屋 (著:MA)
8月も終わりかけの頃。
セミが泣きしめく部屋は
湿気で少し湿っぽかった。
一年前の春
僕には都合の良い関係、
いわゆるセフレがいた。
きっかけは大学の同期で
2人で飲みに行く機会があり
どちらからいうわけでもなく
なんとなく僕の家に行き
夜を過ごした。
それから暫く僕らはいわゆる
セフレの関係だった
僕自身は彼女に対して
恋愛感情がなかったが会えば毎回
2人で夜を過ごしていた。
その年のある夏の日。
いつもの様に2人で飲んでいた時の事。
この日はお互い結構飲んでいて
酔いがかなり回っていた。
そんな時、たまたまシャッフルで
流していた音楽で聞こえてきたのは
SHISHAMOの『夏の恋人』
それを聞いた彼女が急に泣き出した。
急な出来事に慌てる僕は
どうしたの?
と彼女に聞いた。
-
私ね、この間告白されたんだ。
凄くいい人だったんだけど
ピンとこなくって。
何故か貴方のことが頭にチラついて
離れなかったんだ
-
曲の冒頭は
『今日も目が覚めて聞こえるのは
セミの声と貴方の寝息
こんな関係 いつまでも きっと
しょうもないよね しょうもないよね』
その後、彼女は泣きながら僕に抱きつき
-
ずっと好きだったんだ。
-
急な告白に戸惑ってしまい、
その日、僕はその場を濁し
ただ泣いてる彼女の頭を撫で
眠りについた。
あの日以降、
何度か彼女とは関係が続いたけれど
あの日の出来事はなかったかの様な
感じになった。
しかしそれとは逆に会う度に
僕自身は彼女について考えるようになり
普通にランチや、映画に行きたい。
と思うようになった。
気がつけば彼女のことを好きなっていた。
好きになったと気がついたある冬の日。
いつもの様に2人は会うことに。
思いを伝えようとした僕より先に
彼女はゆっくりと口を開く。
-
私ね、最近彼氏ができたんだ。
だからね、君とはもう会えない。
今日が、2人で会う、最後の日。
今までありがとう。
-
僕はただ、
おめでとう
とだけ言った。
その後別れ際に彼女は
-
バイバイ。
-
そう言って笑顔で手を振っていた。
僕も
バイバイ。
と言って家路へと向かった。
夏の恋人の歌詞には続きがある。
『夏の恋人に 手を振って
わたしから さよならするよ
季節が巡ってまた 夏が来たとしても
そこに2人はいないでしょう 』
今思えば、
あの夏の日の彼女の告白は
僕らの関係をハッキリと断つため。
僕に対して踏ん切りをつけるための
告白だったのかもしれない。
あの時、告白された時に
彼女の気持ちに答えていたら
また、違う未来が見えていたのかな
そう思えど、過去に戻る事はできない。
あれから一年後。
あの冬の日以来、
彼女とは一度も会わなくなった。
今では何をしているのかもわからない。
一年前の夏の朝、隣で寝ていた
君はもうそこには居なかった。
今年も夏の終わりかけ。
セミの泣き声が響くこの部屋は
少しだけ、まだ湿っぽい。
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