戦略立案のアプローチ

一般的に企業の事業戦略を立案するにあたっては市場環境、競争環境を分析したり、自社の強み/弱みの把握に努めることが多い。ただ筆者の経験上、多くの「戦略立案プロジェクト」においては、どうにも「市場分析」をすることそのものが目的となってしまい、本来の目的であったはずの戦略を立案することとの結びつきが失われてしまい、市場分析をすることが盲目的に、あるいはチェックリスト的に行われていることも少なくない印象である。

戦略立案に限らず、ビジネスにおける結論とは行動を決めることである。そして戦略立案の文脈における結論、つまり行動とは本質的には①どこで戦うべきか、という市場(=外部環境)と、②どのように経営資源分配をするべきか、という内部環境を決めることである。そのため市場や競争環境、自社の強みを分析する目的はそのいずれかにつながる必要がある。

市場選択の行動は分かり易い。いくつかの市場への参入あるいは撤退が戦略オプションにあるならば市場環境や競争環境の分析が直接的にこれらの参入/撤退という行動に結びつくため、これらの分析は必須である。ただ少なくとも筆者の経験上はこれらの判断を求められるような「戦略プロジェクト」はそこまで多くない。一方の内部環境、つまり経営資源分配に関しては市場や競争分析の結果、どのような分配にするべきかが自明でない場合も多く注意が必要だ。

例えばある米国ソフトウェア会社であるA社の販売を国内で行なっているソフトウェアベンダのX社がいたとする。このX社が今後成長する上での戦略オプションとしては論理的には下記が考えられる。
①継続拡大戦略(これまで通りA社のSWを販売し続ける)
②マルチベンダ化戦略(A社以外のSWも取り扱う)
③自社SW販売線略(A社と親和性のあるSWを開発・提供する)
④海外展開戦略(A社のSWを海外でも取り扱う)

これらの戦略オプションを選択する場合、経営資源配分のやり方は異なる。具体的には下記の通りである。
①営業・デリバリー体制の数的強化
②商材開拓チーム組成と新しいデリバリー体制の構築
③SWの開発
④海外支社(営業・デリバリーチーム)の組成

また上記のいずれかの戦略オプションを追求するためには大きくは下記が検証されている必要がある。
①まだ市場は成長する
②A社の製品と親和性の高い他社SWが存在する、それらとX社は契約が可能である
③A社の製品と親和性の高いSWの潜在ニーズが存在する、それらをX社は開発可能である
④海外にもA社の製品の需要がある、それをX社は捉えることができる

このように企業が取るべき行動が明らかになっており、かつそれが成り立つための条件が明確にし、その上でそれらを検証するべきである。少なくともここまで戦略オプションとその成立用件が明らかになっていれば分析にも迷うことはないはずである。ここまでを読んで気付いた読者も多いと思うが、これまで長々と書いたがこれらは要するに戦略立案においては仮説を構築してからそれらを検証するべきだ、と言っているに過ぎない。ロジカルシンキングの本であれば当たり前のように書いてある仮説検証アプローチのことそのものであり、戦略立案においてもこれは他の問題解決と何ら変わず有用であるのである。

ただなぜこれを殊更強調するのかといえば、これだけ仮説検証アプローチの重要性は認知されているにもかかわらず、こと戦略立案に関しては、盲目的に市場分析、競合分析、自社の強み/弱みの把握に努めることが多い。もちろん、基礎的なファクトを把握する上で最低限の分析も必要な場合も多い。以前にも「仮説思考の罠」というエントリでも述べた通り、一定の知見がないとそもそも筋のいい仮説に辿り着かず、浅い仮説を証明し結果的にほとんど意味のある行動に結びつかない恐れもある。ただこのような最低限の知見を収集することを除けば、戦略立案を行うにあたってはまずは戦略的に取りうる行動を明確にし、その上でその行動が有効であるための成立条件を明らかにし、それを証明しに行くというアプローチを忘れるべきではない。この打ち手を念頭をおかずに市場、競合分析を行なっても極めて非効率、もっと言えば無駄になってしまう恐れが大いにある。

戦略立案においてはまずは取りうる打ち手を意識することが望ましい。

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