戦略だけでは不十分

戦略の定義はさまざまではあるがその一つとして「どこで戦うべきか?」と「どうやって戦うべきか?」の二つの論点に対する答えを出すことであると捉えることができる。ただ一人の経営コンサルタントとしてさまざまな戦略を見ているとつくづく上記の論点に対して正しい答えを出すことと、その戦略が実行され最終的には企業価値が向上することには大きな乖離があることを実感する。言い換えると戦略だけでは不十分なのである。

いくら正しい戦略を描けたとしてもそれが正しく実行されなければ意味はなさず、またそれが正しく実行されることは想像以上に難しい。実行を担う人たちに正しく意図を伝えることも容易ではないし、また論理的には理解されても大胆な打ち手を含むものであれば感情的に支持されないかもしれない。また経営資源の分配が大きく変わるものであれば、経営資源を減らされる事業の長にとっては策定された戦略は決して心地が良いものではない。結局のところ、ロジカルレイヤーでもエモーショナルレイヤーでもポリティカルレイヤーでも実行を担う事業部とのすり合わせがなければ戦略そのものが正しくてもよく言われる通り「画に描いた餅」で終わってしまう。

そのため戦略立案時には余程特殊な事情がない限りは事業部を巻き込みは必要であり、そのための仕掛けの設計が必要となる。この仕掛けは多岐にわたる。経営会議などの公式な場や個別の打ち合わせなどで関係者が反対意見を含む意見を表明できる場の設計は必要である。また立案した施策を最終的には年度予算に反映するためのプロセスの検討も必要である。さらには戦略実行のインセンティブ、実行の進捗管理や問題発生時の解決メカニズムなども考えておくことが求められる。また戦略立案のプロセスのチーム体制にも工夫が必要であり、どのタイミングで検討チームに誰に参画してもらうかも慎重に考える必要がある。このようなことを考慮すると、結果的に戦略そのものを検討と同じくらいか場合によってはそれ以上の時間をこれらの戦略実行の仕掛けの検討に費やされることになる。

もちろんこれは戦略の実行を担う関係者に迎合するべきであると、述べているわけではない。戦略の正しさは究極的には顧客が購入という行為によってのみ証明されるものであり、顧客にとっては製品・サービスを提供している会社内で誰が何を考えているかは関知するところではない。戦略の正しさとその実行方法は無関係のものであり、それらは分離して考えるべきである。ただ戦略の成果を(戦略の正しさ=コンテンツ)×(戦略の実行度)に分離したときに、前者だけでなく後者も視野に入れる必要があり、それぞれ異なる問題解決が必要になることを念頭に入れべきである、と述べているのである。

このように考えると戦略コンサルティングファームに戦略立案を依頼する場合にも、コンテンツと実行の検討の連携には注意を払う必要がある。仮に戦略コンサルタントが戦略を200ページの報告書にまとめ、それが100%正しかったとしても、実行の準備や連携が不十分であれば結局は成果につながることは少ない。あくまでもコンサルタントは補助的に起用し、立案のオーナーが全体観を俯瞰し、うまく社内の関係者と外部のアドバイザーを巻き込みながら検討を進めることが求められる。

戦略立案においてはそのコンテンツに注意が割かれがちであるが、それだけでなくその実行のための工夫も同等に大事なのである。

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