約束 (契約)を見直す柔軟性

先般、世界最大のオルタナティブファンドであるブラックストーン・グループを創業したシュワルツマンの著書「ブラックストーン・ウェイ PEファンドの王者が語る投資のすべて」を読んだ。
https://www.amazon.co.jp/dp/B08GP3KFNX/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1

本書は色々な観点から知的に刺激的であったが、そのうちの一つとしてブラックロックの「喧嘩別れ」にまつわる話がある。(著者はもちろん「喧嘩別れ」という表現はしていないが、おそらくそれに近い形であったと見られる。)

ブラックロック (BLK)は元々はブラックストーン (BX)の債券運用部門であるブラックストーン・フィナンシャル・マネジメント (BFM)として1988年に設立された会社である。設立当初の契約ではBFMの持ち分はBFMの経営陣とBXが50%ずつで、その後、社員に株を分けるためにBFMの経営陣とBXの持ち分をそれぞれ40%に下げることに合意したとのことである。そしてそれよりも更に社員に株を分けたい場合はBFMの経営陣の持ち分から出す取り決めになっていたとのことである。

ただその後、BFMの経営陣はBXたちに対してBFMの仕事は全て自分たちでやっているために、BXの持ち分をもっと下げられないかと交渉したところ、BXのCEOであったシュワルツマンは「いったん契約を結んだらそれに忠実であるべきだと信じていた」ためにその要求を断ったようである。そしてその結果、(おそらくは感情的なものを含めてさまざまな対立があった末に)ピッツバーグの銀行であるPNCにBXはその持ち分を1994年に240百万ドルで売却した。

そしてその後、BLKは順調に発展を続け、現在は9兆ドルを運用する世界最大の資産運用会社となり、時価総額も130十億ドルになった。(少しググった限りはPNCの投資は7,000%のリターンを生んだようである。)

シュワルツマンはこの一連の出来事に対して以下のように述べており、経営者としての失敗を認めている。

「(前略)わたしは経験の浅い CEOが犯すまちがいを犯した。互いのちがいを醸成させてしまったのだ。当初の取引条件を尊重することは道徳原則だと考えて、株式の希薄化に対して立場を変えなかった。しかしそうではなく、状況が変わりビジネスが非常にうまくいっているときには、臨機応変に対応しなければならないこともあると気づくべきだった。」

これは個人的には非常に面白く、また学びの大きいことだと考えている。つまりこの一連の出来事は「契約とは権利を保護するものではあるものの、ときには大局的な見地からその権利を柔軟に見直す必要がある」ということを物語っているといえる。いうまでもなく約束を履行することは大事である。しかし杓子定規にそれを全ての状況に当てはめ、それを他者にも求めると、ときにはより大きなものを失ってしまう恐れがあるのである。

このことはBX/BLKのように資本構成が絡んだ問題に直面したときに忘れてはならないと筆者は考えている。株式会社の仕組みの上では会社に残った利益は株主に帰属するものであり、それらは決してその利益を生み出すために働いた経営陣や従業員のものではないものの、やはりある局面においては「汗水を垂らして働いた」経営陣や従業員がそれに対して不満を覚えることはよくあることだと思われる。(実際に筆者の周りでも、似たような話はちょくちょく耳にする。)そのような状況に直面した際には、昔のシュワルツマンのように「契約は必ず履行するべき」という発想ではなく、より大局的な見地でステークホルダーの感情も含めて考慮し、必要に応じて契約を柔軟に見直すことが求められると考えられる。

本書を読んでそのような学びがあった。

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