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大手広告主の半数を失ってでも、ツイッターにマスク氏がもたらす4つの変化

ツイッターをイーロン・マスク氏が買収してから1ヶ月が経ちました。

振り返ってみると、この短期間にツイッター周辺では、従業員の大量解雇に、有料プランの値上げ、そしてトランプ前大統領のアカウント復活など本当に様々なニュースが話題になりました。

さらにはエンジニアの大量辞職の影響で、Twitterのサービスが終了してしまうのではないかと噂されたり、マスク氏のツイッター買収後、大口広告主の半数が広告出稿を停止しているというレポートが発表されて話題になるなど、ツイッターをめぐる騒動は、今も続いているのが現状です。

実際にはW杯中のツイートのピークの中でもツイッターは安定した稼働を続け、少なくとも直近はサービス終了を心配するほど、ツイッターの裏側が混乱しているわけではないようです。

マスク氏が公開したレポートによると、1日のアクティブユーザー数も実は着実に増える結果になっている模様。

ただ、現在のツイッターに関連する報道は、ツイッター社の広報チームが大量に解雇された関係で、マスク氏や関係者のツイッター上の投稿を情報源にしたものが中心となっており、マスク氏のジョーク投稿や、二転三転する発言に、日々メディアも振り回されているようです。

特に、今回のツイッター買収の過程においても、マスク氏の発言や姿勢が二転三転した経緯もあり、今回初めてマスク氏の言動にふれるメディアやユーザーの方は、マスク氏が気まぐれで場当たりな判断をする経営者と思っているケースも少なくないようです。

ただ、何と言ってもマスク氏は、電気自動車のテスラのCEOとして、トヨタを時価総額で圧倒するほどの規模にまで成長させた実績のある経営者。さらには、並行してスペースXという航空宇宙メーカーもゼロから立ち上げ、民間企業として初めて宇宙飛行を成功させた企業の経営者でもあります。

彼のツイッター上の日々の発言に振り回されず、一歩引いて彼の発言を振り返ってみると、これからツイッターがどのような変化をするか見えてきますので、まとめて整理しておきたいと思います。

ツイッター買収の二転三転も、実は駆け引きだった

まず、マスク氏が気まぐれな経営者という印象を強くしたツイッター買収をめぐる二転三転の経緯について、簡単に整理しておきましょう。

今振り返ると、マスク氏の買収断念や、訴訟に関連する発言は基本的に、資金調達絡みの駆け引きだったと考えればシンプルに見えてきます。

なにしろ買収完了当日にこんなツイートをする人です。

マスク氏がツイッター買収を自己資金で実施すると4月に発表した際には、多くの金融関係者がその実現性に疑問符をつけ、テスラ株売却のための狂言だと疑う投資家も多くいる状態でした。

その後、担保にするテスラ株の値下がりもあり、資金調達が暗礁に乗り上げ、最初に提示したツイッターの買収価格も割高感も増したため、一旦買収断念を発表したというのが実際の所のようです。

その後、ツイッターとの訴訟が本格化する裏側で、マスク氏は銀行団からツイッター買収のための資金調達の確約を得ることに成功。

マスク氏は、金利が高騰している背景もあり、当初の条件で銀行団から資金調達をして買収するのがリーズナブルと判断したということのようです。

その結果、マスク氏にツイッター売却の資金を提供した銀行団の中には、現在その債権の取扱に苦慮する状況に追い込まれている銀行も出ているほどだそうです。

ある意味、ツイッター買収の二転三転も、単なる気まぐれではなく金融市場の状況を見ながらマスク氏なりに駆け引きを行っている上での発言だったと言えるわけです。

壮大なビジョンを達成するための実行力に長けた経営者

マスク氏の経営者としての最大の特徴は、彼のビジョンが壮大であるだけでなく、そのビジョンを達成するために、論理的に必要なパーツを1つずつ着実に積み上げていく点にあると言えます。

電気自動車のテスラも、その最初の登場はテスラ・ロードスターという高額なスポーツカーからでした。

2008年当時、テスラ・ロードスターを予約することができて喜んでいるシリコンバレーの起業家とたまたま話すことができたのですが、当時私はテスラはフェラーリやポルシェのようなプレミアム市場を狙うのかと誤解していました。

しかし、彼から「このロードスターは、まだテスラが電気自動車が量産化できないから、利益を確保するために販売しているだけで、これからイーロン・マスクは、段々と値段を下げた普及車に取り組んでいく壮大なプランがあるんだ」と喝破されたことを良く覚えています。

当時、私は彼の発言を信じられませんでしたが、実際にあれから14年たち、テスラは電気自動車業界のトップメーカーとして、業界をリードする存在になっていくわけです。

航空宇宙メーカーのスペースXに関しても、単なるロケット打ち上げ会社ではなく、衛星インターネットアクセスプロバイダのスターリンクも運営するなど、自分達の技術で可能な周辺サービスなどを周到に事業化していくのが、マスク氏ならではのビジョン達成力であり経営手腕といえるでしょう。

今回のツイッター買収も、マスク氏の中ではテスラやスペースXに活かす構想がすでにあるという推測もされています。

当然、単純に今あるツイッターをそのまま維持するために買収したのではなく、マスク氏の頭の中にあるビジョンに向けて推進するために買収したと考えるべきでしょう。

そう考えると、過去のマスク氏の発言や行動から、これからツイッターに間違いなくおこるであろう変化を、4つあげることができます。

■ツイッターのスーパーアプリ化

■発言の自由の重視

■脱広告収入依存

■日本独自対応の減少

日本は世界的に見てもツイッターの人気が高い国ですので、おそらくはこのツイッターの変化は日本にも少なからず影響を与えることになるはずです。1つずつ簡単に解説したいと思います。

■ツイッターのスーパーアプリ化

まずマスク氏の中で明確な既定路線として存在すると考えられるのが、ツイッターのスーパーアプリ化です。

スーパーアプリというのは、中国のWeChatのようにビデオチャット、ゲーム、写真共有、ライドシェア、フードデリバリー、銀行、ショッピングなど、様々なサービスを一つのアプリで提供するアプリのこと。
日本ではLINEが一番スーパーアプリに近いイメージかもしれません。

実際にツイッターをスーパーアプリ化するのか、新しいスーパーアプリを作ってそこにツイッターの機能も統合されるのかは明確にされていませんが、すでにツイッターへの決済機能の統合や、ショート動画機能Vineの再開発も宣言しており、着実にスーパーアプリ化は進めていくことになりそうです。

スーパーアプリの例としては中国のWeChatが例としてあげられますが、特にアメリカでツイッターの強力なライバルとして君臨しているのがFacebookです。Facebookは若者の間でこそ利用率が下がっていると言われていますが、今でもアメリカでは2億人以上が利用していると言われており、5000〜6000万人と言われるツイッターは大きく水をあけられています。

マスク氏は2018年のFacebook削除運動に参加して、自社のFacebookページも削除したほどのFacebook嫌いとして知られており、Facebookに変わるスーパーアプリを開発することが彼の悲願だと想像されます。

そういう意味で、ツイッターを軸にスーパーアプリの地位を取るために、これからさらに様々な試行錯誤や挑戦をしていくことは間違いないでしょう。

当然、このツイッターの変化は、日本のツイッターユーザーはもちろん、関連サービスにも影響を与えることになるはずです。

■言論の自由の重視

スーパーアプリ化は、あくまでツイッターの現在の機能というよりは、これから追加される機能の話です。

現在のツイッターにおいて、最も重要な議論は「言論の自由」とアカウントの凍結のバランス、いわゆる「モデレーション問題」でしょう。

インターネット黎明期に生まれた匿名掲示板的なサービスから、ブログやツイッター、YouTubeのようなSNSの普及の過程で、大きく変化してきたのがこの「モデレーション問題」です。

マスク氏はこの問題に対して、明確に「言論の重視」を掲げており、1企業がアカウント自体を凍結するという判断を下すことに反対する姿勢をとり続けています。

買収前のTEDトークなどでの発言を聞く限り、マスク氏がツイッターの買収を真剣に検討することになった背景も、この「言論の自由」を過去のツイッターの経営陣が重視していないと考えたところにあったようです。

直近でも、トランプ大統領だけでなく、凍結されたアカウント全般に「恩赦」を与えて凍結を解除することを発表したのも、このマスク氏の決意の表れと言えるでしょう。

当然、こうしたアカウントを凍結しないということであれば、ツイッター上で長らく問題として指摘されてきた誹謗中傷問題やヘイトの問題が悪化する可能性は高いといえます。

実際に、直近のW杯においても、ツイッター社が人種差別ツイートの削除対応を怠っているのではないかという指摘がされているようです。

一方で、マスク氏側も、ヘイトスピーチを放置するつもりはなく、下記のグラフを元に、ヘイトスピーチの表示数は減少しているという主張をしています。

おそらくマスク氏はヘイトスピーチについては、アカウント凍結まではせずに表示される頻度を下げるという対応を軸にする方針のようです。

ただ、少なくともツイッターの投稿内容を元にアカウントの凍結をするという行為に否定的な以上、今後ツイッターが「言論の自由」を重視する結果、誹謗中傷やヘイトスピーチと認識されるものでもグレーゾーンに近いものは放置される傾向が強くなっていく可能性は高いと考えられるわけです。

■脱広告収入依存

前述の「言論の自由」重視と密接に組み合わさっているのが、この「脱広告収入依存」の方針です。

マスク氏がツイッターの「言論の自由」を強硬におしすすめると、ツイッターがヘイトスピーチや誹謗中傷など企業にとって不適切な投稿の温床になる可能性があります。
それが、冒頭で紹介した、大口広告主の半数がツイッターへの広告出稿を見合わせている結果につながっているわけです。

ただ、脱広告収入依存の姿勢は、こうした広告主の離反判明以前からマスク氏が宣言していたことです。

実は、ツイッターだけでなく、FacebookやGoogleなどのネット企業は主な収入を広告収入に依存しており、その収益構造がフィルターバブルやネット依存などの問題を引き起こしているのではないかという問題提起が、米国を中心に大きくなってきているのです。

前述したようにFacebookに批判的なマスク氏が、現在のFacebookが広告収入依存体質であることを問題視しているのは明白ですし、ツイッター買収が成立する以前からツイッターの収益構造が広告依存になっていることを問題視する発言を繰り返してきました。

直近のTwitter Blueの8ドルへの値上げや、認証マークの有料化に対する動きは、そうしたツイッターの収益構造を将来的にシフトするための布石と言えるでしょう。

当然ながら、現在のツイッターは収益のほとんどを広告収入に依存しているため、ツイッター買収成立直後には、マスク氏も一番に今後のツイッターの変化を不安視する広告主に対して声明を発表する流れになりました。

ただ、中長期的にみるとマスク氏が広告収入よりも、それ以外の収入獲得に力を入れようと考えているのは明白です。

従業員の大幅な解雇についても、最初からある程度広告収入が減るリスクを見越して、75%という大規模な解雇を計画していた可能性も高いと言えます。

また、直近ではマスク氏からすると左派の活動家が広告主の離反を招いた敵という認識になっているようで、右派よりの発言がさらに目立つようになっているようです。

買収直後の広告主離反は、マスク氏にもすぐに伝わっていたはずですが、それでも言論の自由を重視する姿勢を変えずにかえってレイオフを強化する結果になったことを踏まえると、直近の広告主の離反は、逆にマスク氏の脱広告収入依存の覚悟を強くする結果になっているとも考えられるわけです。

■日本独自対応の減少

日本では、マスク氏がツイッターは「日本中心」であると発言したことが、メディアでも大きく報道されました。

ただ、これからのツイッターの運営事態は、「日本中心」になる可能性は低いでしょう。

もちろん、マスク氏が発言したとおり、日本はツイッターにとって重要な市場であり、ツイッターの利用率でみると世界的にもトップの国ですから、ツイッターにとって今後も重要な国としては位置づけられていくとは思います。

ただ、マスク氏の発言は、今のツイッターの利用が日本中心だから、他の国も日本のように大勢の人に使われるように努力しよう、と受け止めるべき発言だったようで、実は同様の趣旨のツイートは過去にもされているのです。

実際問題、報道によるとツイッターの日本法人に勤務する270人のうち200人がレイオフの対象になったそうで、この報道が事実であれば世界的に50%がレイオフの対象になったタイミングで、日本は最初から75%削減が実施されたことになります。
とてもマスク氏が日本を重視しているとは思えない状態になっているわけです。

ちなみに、その日本法人のレイオフの関係で、レイオフ直後には日本独自の取り組みやサービスはそのほとんどが活動を停止。

ツイッターのニュースキュレーション機能も停止し、急に更新が止まったニュース欄が注目された結果、報道機関によるモーメントの掲載に世論誘導の側面があったのではないかと非難が高まる流れにもなりました。

また、W杯開催中に認証マークが付与されているアカウントの名前変更が禁止された結果、日本代表の公式ツイッターや焼肉きんぐなど、名前に告知情報を入れていた多くの公式アカウントが、名前変更ができずに戸惑う結果となっています。

名前に告知情報を入れて頻繁に変更するというのは、あまり英語圏では実施されない行為のため、こうした日本独自の使い方による不具合というのはイレギュラー扱いされやすいのだと考えられます。

実際、この記事執筆時点でも、日本代表アカウントの名称はドイツ戦の告知情報のままになっています。(その後修正されたようです)

こうした有力な日本の公式アカウントの不具合は、おそらく従来であればツイッターの日本チームが即時に対応をして、本国側に修正を依頼するなりしていたと思われますが、日本法人が大幅にレイオフの対象になったため、放置される結果になっていると考えられるわけです。

また、これまでは日本の広報チームがオリンピックやW杯などの大きなイベントに関連する情報をメディアに対して丁寧に送付してくれていましたが、レイオフ以降そうした対応は無くなってしまったようです。

こうした傾向は日本だけではないようで、ヨーロッパにおけるツイッターのロビイングの重要拠点だったブリュッセル拠点が閉鎖されたニュースは、ヨーロッパにも大きな衝撃をもって受け止められています。

マスク氏からすると、これから世界的にツイッターの利用を増やすための取り組みを自分が中心に行うため、現地法人で個別の国の事情に対応する必要は低いと考えていると想像されるわけです。

混乱の後に、第2の成長期が来るかも

この記事を書いている間にも、ツイッターをめぐってマスク氏はさまざまなツイートを行っており、そのたびにメディアがその発言を取り上げるというサイクルが続いています。

ただ、マスク氏のビジョンは基本的にはツイッター買収を決断した際に固められており、現在の発言の二転三転は、あくまでそれを実現するための最適解を模索するために試行錯誤をしている過程と捉えると、マスク氏の一つ一つのジョークツイートや過激発言に振り回されずにツイッターの未来を想像することができるはずです。

筆者も知り合いが多数ツイッター社にいた関係で、大規模なレイオフを目の当たりにして自分のことのようにショックを受けてしまった面もありました。

ただ、残ったメンバーの発言を聞いている限り、今回のレイオフによる混乱を乗り越えることができれば、レイオフにより少数精鋭になったツイッター社は収益体質も大幅に改善しており、マスク氏の後任の経営者のもとで第2の黄金期ともいうべき成長期を迎える可能性は十分あるとも考えられます。

いずれにしても、今回ツイッターがマスク氏に買収されたことにより、ツイッターの方針が180度とはいわないまでも90度ぐらいの大幅な方針転換になっていることは間違いありません。

日本にとってのツイッターは、米国以上に重要な役割を果たしているプラットフォームですので、マスク氏が舵取りをするツイッターが今後どのように変化していくのか、引き続き注目していきたいと思います。

この記事は2022年11月29日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。


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