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なぜ回転寿司の迷惑動画騒動は、いつまで経っても繰り返されてしまうのか

この記事は2023年2月27日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。

今年に入ってから、回転寿司チェーンを中心とした飲食店における迷惑動画の炎上騒動が収まるところを見せません。

今回の一連の騒動は、年明けに「はま寿司」において、他の人が注文した寿司を皿を取らずに食べる様子がTikTokに動画でアップされた頃から注目されるようになりました。

そして1月末に「スシロー」において、醤油ボトルの注ぎ口などを舐めて元の場所に戻す、いわゆる「ペロペロ動画」が大炎上し社会問題化。
類似の動画が次々に見つかっては炎上するという事態になりました。

その後、2月中盤頃には、一旦事態は沈静化したように見えましたが、今度は2月23日に「史上最悪の迷惑動画」とタイトルをつけられた、「スシロー」で寿司に消毒スプレーを噴霧する動画が拡散。
再度大きな騒動となりました。

過去にも、様々な「バカッター」や「バイトテロ」と呼ばれるような騒動が話題になっていたことを覚えている方からすると、なぜ未だにこうした迷惑動画の炎上騒動が現在になっても続いているのか、不思議に感じている方も少なくないと思います。

ただ、実は今回の迷惑動画騒動は、従来のバカッター騒動とはさまざまな構造が異なってきているのがポイントです。

動画の投稿主が店員から客に変化

まず、今年の騒動における最大の変化は、動画の投稿者が店員か客かという違いです。

従来の迷惑動画投稿の騒動は、飲食チェーンやコンビニの店員やアルバイトによる勤務中のSNS投稿が中心だったため、「バイトテロ」と呼ばれることもありました。
ただ、今年の迷惑動画騒動は、飲食店の来店客による不衛生な行為であるところが大きな違いです。

従来の「バイトテロ」騒動においては、画像を投稿しているアルバイトや店員は、その飲食チェーンやコンビニに雇用されている人間ですので、問題投稿自体が会社の体質やチェック体制の問題と捉えられることも多く、企業側は対応と同時に謝罪にも追われることになりました。

一方、今年の騒動で迷惑動画を投稿しているのは、あくまで迷惑な客であり企業側は明確に被害者になります。

■「迷惑行為」が騒動になる6つの背景

過去の騒動での教訓を活かし、飲食チェーンやコンビニでは、アルバイトや社員に勤務時のSNS投稿やスマホの操作を禁止する念書を取ったり、雇用時の教育を徹底することで対策を取ってきています。
しかし、迷惑動画を投稿するのが客になってしまうと、本質的な対策はなかなか難しいのが現状です。

しかも、さらに企業側の対応を難しくしているのが、従来のバカッターやバイトテロ騒動の際とは、メディアをめぐる環境が大きく変化してしまっている点です。

基本的な迷惑動画騒動の発生要因は、下記の6つから生まれています。

■1.昔から「迷惑行為」を行う顧客は存在していた

まず、残念ながら、こうした飲食店への「迷惑行為」を行う客というのはいつの時代にも一定数は存在します。

筆者自身も、20年以上前にファミレスや居酒屋チェーンでバイトしていましたが、信じられないような「迷惑行為」を行う客というのは残念ながら存在するものです。

ただ、従来であれば飲食店での1顧客の「迷惑行為」は、あくまでその店だけで話題になるものであり、「迷惑行為」を実施する本人も堂々と実施する行為ではありませんでした。

もちろん、今回問題になった「迷惑行為」の多くは犯罪であったり、訴訟対象になる行為です。
しかし、従来であれば地域の警察など法的機関が対応する話であって、そうした顧客の「迷惑行為」が、これほど全国放送のメディアで取り上げられることは、従来ではありえなかったわけです。

■2.ショート動画により「迷惑行為」がコンテンツ化した

この状況を大きく変えた1つの要因と言えるのが、今回の騒動でも起点になっているTikTokなどのショート動画のプラットフォームです。

ショート動画では15秒〜1分程度の多様な種類の面白動画が、多数アップされています。
その中には普通の人が真似したら危険なギリギリの行為であったり、ちょっとしたおふざけ動画もたくさんアップされており、そうした動画を参考にしては他のユーザーも真似をして動画をあげるというのが普通のサイクルになっています。

今回TikTokに迷惑動画をあげた学生達の多くは、おそらくはTikTok等のショート動画で見た他の迷惑動画を真似したり、同級生から「お前これやる度胸あるか?」とけしかけられてやったことが容易に想像できます。

TikTokだけを見ている学生にとっては、多額の賠償請求をされる可能性がある「迷惑行為」も、自分が動画をアップする際に参考にする面白コンテンツの1つにしか見えていなかった可能性が高いわけです。

■3.社会的に「迷惑行為」の可燃性が上がった

一方で、最近のインターネットは、こうした「迷惑行為」に対する可燃性が大きく上がっています。

テレビCMやバナー広告が不適切な表現で炎上する時代になっていますし、クローズドな場の発言も切り取られて批判されれば大炎上につながる時代です。

しかし、学生の多くは、TikTokなどのショート動画を見ることには長い時間をかけていても、テレビのニュースなどを見ていないため、そうした「迷惑行為」に対して大きな社会的批判が集まっていることを知らないケースが少なくありません。

もちろん、冷静に考えればありえない行為であることは、常識的な学生であれば気がつきそうなものですが、「迷惑行為」を動画にアップした学生からすれば、せいぜい店員に見つかった時に謝れば済むぐらいの感覚になってしまっていたのでしょう。

この社会の可燃性のアップと、その認識を持てていない学生のギャップが、今回のように平気で大炎上必至な「迷惑行為」をTikTokにアップしてしまう学生を生み続けていることになります。

■4.告発系アカウントが、一瞬で「迷惑行為」を拡散

さらに最近の大きな変化が、告発系YouTuberや告発系ツイッターアカウントが影響力を増している点です。

実は、過去のバカッター騒動やバイトテロ騒動の際にも、顧客の迷惑動画がピックアップされるケースはありました。
ただ、飲食店の従業員が不衛生な行為を行っているのと、飲食店とは関係ない迷惑な客が不衛生な行為を行っているのでは、メディアにとって意味が全く違います。

そのため、従来は客による「迷惑行為」は、それほど大きくメディアに取り上げられることはなかったわけです。

ただ、現在では告発系アカウントが、従業員か客か関係なく、不適切な写真や動画がたれこまれると、それを積極的に拡散し糾弾するようになっています。

今回の騒動も、TikTokの動画がツイッター上で告発され、告発系アカウントに拡散されて大きく話題になり、ツイッターのトレンドいりするというパターンが多いようです。

■5.拡散した「迷惑行為」はメディアも報道

そして、告発系アカウントによって話題になると、すぐにネットメディアも記事化をするサイクルが確立されています。

炎上中の話題というのは多くの人が集まりやすいため、炎上記事は素人でも簡単にアクセスを稼げる記事として多くのメディアに認識されています。
そのため、告発系アカウントが取り上げたこと自体をすぐにネットメディアが記事化し、それがポータルサイト等に転載されて、さらに話題化するというサイクルが確立してしまっているわけです。

こうなると、話題化していること自体がニュースになりますから、企業の社員だろうが個人だろうが関係なく、既存のメディアも取り上げやすくなります。

さらに最近では、テレビ局もこうしたネット上の動向を元に報道を行うことが増えているため、炎上したその日の夕方や夜のテレビのニュースですぐに「迷惑行為」の動画が報道されるということが増えてしまっているわけです。

その結果、従来であれば1店舗で、1人の客が1度実施しただけだったはずの「迷惑行為」が、テレビなどの大手メディアで大々的に報道されるようになってしまいました。

■6.「迷惑行為」が「話題」になると過去のものも遡られる

もうこうなってしまうと、「迷惑行為」自体が、社会が注目している「話題」となります。

そうなると、類似の「迷惑行為」がないか動画を探しまわる人も増えますし、過去の動画を掘り返して告発系アカウントに告発する人も増えるわけです。

今回「史上最悪の迷惑動画」と題して拡散されたスプレー噴霧動画も、まるでペロペロ動画の後に発生したかのように一部メディアでは報道されていますが、実際は昨年秋に投稿された動画が掘り返されたというのが実態です。

「くら寿司」に至っては、4年前の動画が掘り返されて拡散されてしまっています。

この状態になると、メディアの報道姿勢も過熱していますので、昔の行為かどうかと言うのは関係なく、今の批判の基準で全ての行為が断罪されるサイクルに入ってしまうわけです。

同様のサイクルは、2013年のツイッターを中心としたバカッター写真騒動の時にも、2019年のインスタグラムを中心とした動画騒動の時にも発生しました。

被害者となっている回転寿司チェーンの方々からすると、個人個人のバラバラの過去の「迷惑行為」の動画を掘り起こされて、まるで連携している組織犯罪のように「対策は?」とメディアに詰め寄られてしまう状況になっているわけで、非常に難しい状況になっていると言えるでしょう。

大手メディアが報道し続けるべきニュースなのか

こうやって、一つ一つの「迷惑行為」が騒動になるたびに、「迷惑行為」の実施者や投稿者の特定が進み、個人情報がさらされたり、関係者への誹謗中傷やクレームが入るというサイクルが繰り返されているようです。

当然、この告発と炎上のサイクルには様々な隠れたリスクがあります。

スシローの株価が大幅に下がったことで、堀江さんは空売りをするために、あえて迷惑動画をアップさせるというリスクがあることに警鐘をならしています。

また、今後はいじめにあっている側の人が、無理矢理「迷惑行為」を強制させられて、証拠の迷惑動画をアップされるようなケースが発生してしまったり、冤罪で炎上してしまう人が出てくるリスクも高まっているように思います。

最悪の場合、炎上して個人攻撃の対象になった学生が、過去にあったような最悪の選択をしてしまう可能性も否定できません、

もちろん、不衛生な「迷惑行為」は当然許されるべき行為ではありません。
ただ、その証拠動画があるからといって、大手メディアが延々とその動画を繰り返し流して報道する必要があるのか、という点は1度立ち止まって考える必要があるように思います。


昨年の2月〜5月に日本で炎上騒動が減っていた理由

ここに1つ興味深いデータがあります。

「デジタル・クライシス白書」の調査によると、直近の2021年〜2022年の炎上発生件数が、2022年の2月〜5月に明確に減少していたというのです。

(出典:デジタル・クライシス白書2023のグラフを元に筆者作成)

筆者は、この白書を作成したシエンプレのセミナーに出演している関係で、概要をお聞きする機会がありました。

白書を作成した関係者の方によると、昨年2月以降の炎上件数の減少について、当初は長引くコロナ禍が改善する傾向の兆しによるものかという議論もあったそうです。
ただ、現時点での分析結果では、ロシアによるウクライナ侵攻の影響が大きかったのではないかという結論に傾きつつあるようです。

つまり、昨年の2月から5月ぐらいは、ウクライナ侵攻関連のニュースで、メディアが忙しかったため、日本の国内の炎上騒動が増えなかったのではないかという仮説です。

迷惑動画騒動の継続は、大手メディアの報道姿勢次第かも

もちろん、炎上騒動の増減には、それ以外の様々な要因が考えられるため、一概に断定することはできません。

ただ、大手メディアがネット上の炎上騒動を報道すればするほど、類似の炎上騒動が掘り起こされてさらに騒動になっていることを考えると、ウクライナ侵攻報道一色になっていた時期だけ炎上騒動が少なかったという事実に説明がつくようにも感じます。

実は、大手メディアの報道姿勢によって、炎上件数が増減する可能性が見えていることになるわけです。

是非、大手メディアの方々には、告発系アカウントの後追いで炎上騒動ばかり報道するのではなく、取り返しのつかない悲劇が起こる前に、バランスの取れた報道を模索していただきたいと思います。

この記事は2023年2月27日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。


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