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血液クレンジング炎上騒動で考えるネットとメディアの話題のスパイラル

この記事は2019年10月24日にYahooニュース個人に寄稿した記事の全文転載です。

ここ一週間「血液クレンジング」をめぐる騒動が拡大をみせています。

血液クレンジングとは「医療用オゾンを血液に混ぜて反応させる点滴」のこと。
2005年ぐらいから一部で話題になっていたようですが、その手法には科学的根拠がないのではないかと医療関係者からは批判を浴びていたようで、バズフィードの記事に至っては明確に「トンデモ医療」と全否定されています。

血液クレンジングの医学的なリスク等については、私も専門家ではありませんのでバズフィードの記事を読んで頂ければと思いますが。
個人的に興味深かったのが、この血液クレンジング自体が永らく批判の対象だったのに、今月に入って急に大きな炎上騒動になった経緯です。

Googleトレンドで検索数をグラフ化すると、実は「血液クレンジング」という検索行為は2011年~2012年に大きな検索数の山が見られますが、その後明らかに沈静化しています。

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この7年間は一部の人々によって継続されていたようですが、たいして話題にもなっていなければ、問題にもなっていないのです。
それが今月に入ってなぜここまで大きな騒動になっているのでしょうか。

上記のGoogleトレンドのグラフを見て頂くと、今年の9月に入ってから「血液クレンジング」の検索行為が若干盛り上がっているのが分かります。

一方で、Yahooリアルタイムトレンドで、ツイッターの「血液クレンジング」を見てみると、10月16日まではほぼ無風です。

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データを遡った限りでは、9月までは血液クレンジングの話題はツイッター上では比較的無風で、インスタグラムを中心に関係機関によるプロモーションが強化されていたようです。

まずは一連の話題の拡がりを時系列で整理してみました。


■2018年~2019年 「血液クレンジング」実施機関によるインスタグラムへの「#血液クレンジング」投稿が増加

■2018年~2019年 並行して何人かの有名人のインスタグラムで「#血液クレンジング」の投稿がされ、多くのいいねがされているのが確認できる。
・2018年9月20日 藤崎マーケット田崎さん
・2019年2月25日 山田まりやさんの来院報告投稿
・2019年6月6日 genkingさん
・2019年6月11日 genkingさんの来院報告投稿
・2019年9月18日 城咲仁さん

■10月16日17時 あるツイッターユーザーが血液クレンジングを勧められたと投稿。

■10月16日21時 連動して「血液クレンジング」がツイッターでトレンド入り。

■10月17日12時 ネットメディアのリアルライブが記事化、ライブドアニュース等に転載され話題に

■10月17日14時 
あるツイッターユーザーが、高須院長に言及
 
■10月17日16時 高須院長がバッサリ

■10月17日18時 高須院長の投稿をBiglobeニュースが記事化、ライブドアニュース等に転載され話題に

■10月17日17時  はあちゅうさんが釈明のツイートを投稿

■10月18日14時 はあちゅうさんのツイートを元にガジェット通信が記事化

■10月19日 6時 バズフィードが海老蔵さん等、芸能人の画像をヘッダーに使った記事を公開

■10月19日10時 海老蔵さんが記事について言及したブログを公開
 
■10月20日10時 バズフィードが海老蔵さんのブログを元にした記事を公開

■10月21日11時 バズフィードが医療関係者に検証を依頼した記事を公開

■10月21日19時 血液クレンジングに頼る患者の気持ちを綴った記事が話題に

 他にも細かい話題を含めればまだまだあるのですが、10月16日から21日の6日間ほどの間に、血液クレンジングをめぐる話題が、様々な形で話題を呼び、拡がっていったのが分かると思います。


■一人の問題提起が起点になる

 今回の騒動で注目すべきなのは、まず、この一連の騒動の起点になっているのが、一人のツイッターユーザーの投稿であった点です。
 投稿をされた方は、おそらくはツイートの反響があまりに大きすぎたために、現在はアカウントを非公開にされてしまったようですが、確認できる限りでは該当のツイートは8万7千リツイート14万いいねを超えており、その方の問題提起が大きな反響を生んだことが伺えます。

 これには最近ツイッターが人気のツイートを多くのユーザーのタイムラインに再度表示するロジックになったため、リツイート数が多い投稿によりリツイートが集まりやすくなったという構造の変化が影響しています。
 ながらく良識ある医療関係者が苦々しく感じていた「血液クレンジング」の問題点に注目が集まったという意味で、非常に重要な投稿だったと言えるでしょう。

 ある意味、一人の投稿が社会を動かす結果につながったという意味では、「保育園落ちた、日本死ね」のブログと同じような構造にあると言えます。


■ツイートを起点にメディアが記事化

 さらに今回の炎上騒動の拡大で興味深いのは、ツイッターの投稿やブログ記事がネットメディアで記事化されるまでのサイクルが早くなってきている時代であるということです。
 象徴的なのは高須院長のツイートから、Biglobeニュースの記事化まで2時間半しかかかっていない点。
 
 最近はテレビ番組での芸能人の発言が、すぐにネットニュースで記事化されるのが普通になっていますが、ツイートも同様に扱われているというのが良く分かります。


■投稿は過去にさかのぼられる

 また、今回の騒動で最も特徴的なのは、一部の人にとっては過去の話題だった「血液クレンジング」の投稿が、過去に遡って引きずり出されてしまったことです。

 一般的に「炎上騒動」というと、今年のあおり運転騒動や昨年の日大アメフト部の炎上騒動のように現在進行形で解決されていない問題が炎上するとイメージされる方が多いと思いますが、実はインターネットには過去の記録が残るため、過去の投稿が今回のように引っ張り出されて炎上するケースというのが最近増えてきているのです。

 実際に、飲食店のアルバイトによる不適切動画投稿騒動の時も、騒動の後半で炎上したのは実は過去の動画でした。

 一人の問題提起でも大きく注目されやすく、1つのツイートがメディアのネタになり、過去の投稿が証拠としてさかのぼられる。
 この3つの要素の組み合わせが重なり、ネットとメディアの話題のスパイラルがぐるぐると回った結果、あっという間に血液クレンジングはネットで注目の話題にと躍り出たわけです。

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 結果的に、「血液クレンジング」の直近の検索数は、過去の検索数を大きく上回ってしまったわけです。

■投稿した有名人はこのまま無視を決め込むのか

 ちなみに、個人的に、今回の騒動でどうしても気になるのが、過去に血液クレンジングの投稿をされた有名人の方々が、こうした過去の投稿のリスクを甘く見られているのではないかという点です。

 海老蔵さんは、バズフィードさんの記事を「やめれー」と茶化して書かれていましたが、少なくとも勧められて自分がやっただけで、勧めた事はないと断言されていました。

 一方で、それ以外の著名人の方の多くが今も沈黙を守っています。
 実際に、血液クレンジング自体は2011年~2012年にプチブームになっていたようですし、2015年にはNHKのBSプレミアム「アンチエイジングの秘密」で紹介されるなど、大手メディアも取り上げていたようですから、話題に乗って試したという方も含まれてもおかしくはないと思います。

 ただ、それならそれで、そう明言するなり過去の投稿を修正するなり削除するなりしなければ、検索経由で有名人の投稿を見て影響されて血液クレンジングを実施する方が、今後も増えてしまう可能性を残すことになります。
 もちろん、ただ黙って投稿を全部消せば良いという話ではありませんが、無視をしていること自体に事の重大さを意識されてないのではないかという疑念が残ります。

 特に気になるのは、血液クレンジングの投稿をした有名人の方々の中に、お金をもらって宣伝投稿をしていた人が混じっているのではないかという、いわゆるステマ疑惑が消えないことです。


■ペニーオークション詐欺事件から学ぶべきこと

 芸能人によるステマで最も大きな問題になったのは2012年に発覚したペニーオークション詐欺事件です。

 もちろん、この詐欺事件はペニーオークションサイトの運営者自体が詐欺罪で逮捕されていますから、現時点で血液クレンジングが訴訟等の対象になっているわけではないことを考えると、2つの騒動には大きな違いがあります。

 ただ、ペニーオークション詐欺で、ほしのあきさんは、2013年から3年前にあたる2010年に30万円の紹介料を受け取って落札の紹介をステマ投稿したことが発覚し、騒動の象徴として総バッシングをされることになり、結果的に芸能界から事実上引退に追い込まれる結果になりました。

 血液クレンジングの投稿をする対価として金銭をもらっていたら、当然広告行為ですから、広告であることを明記する必要がありますし、高価な血液クレンジングを無償で実施することとバーターで投稿をしているのであれば、サービス提供やモニターであることを明記して投稿するように、業界のガイドラインで定められています。

 こうしたルールを破って、宣伝行為を実施している方がいるのであれば、ペニオク騒動の時のほしのあきさん同様に、最終的に社会的な批判の矢面に立つ羽目になる可能性があるわけです。

 今後血液クレンジング騒動がさらなる火種に移るのか、収束していくのかは分かりませんが、もし有名人の方々が、ご自身が良くない手法の宣伝の片棒を担いでしまったという自覚があるのであれば、影響を受けた方々のためにも、早期になすべき対応をしていただくことを期待したいと思います。

この記事は2019年10月24日にYahooニュース個人に寄稿した記事の全文転載です。


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