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嵐のドキュメンタリーが示す、アイドルの「本音」のインパクト

この記事は2020年1月17日にYahooニュース個人に寄稿した記事の全文転載です。

昨年12月31日にNetflixで嵐のドキュメンタリーシリーズ「ARASHI's Diary -Voyage-」が公開されてから半月が経過しました。

ドキュメンタリーの想像していた以上に重い内容に、ファンからは複雑な思いが吐露されているのがSNS上にも垣間見えます。

年末年始は、嵐のドキュメンタリー開始と、年始のNetflixの番組表新聞広告の相乗効果もあり、GoogleにおけるNetflix検索は急増。

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2015年、日本にNetflixが参入したときのピークに匹敵する大きなピークとなっています。
Netflixの現在の会員数は300万を超えたと言われていますが、ここに300万近いと言われる嵐のファンクラブ会員がどれぐらい加わってくるかが、メディア業界的には注目点と言えるでしょう


1年間を通じて話題の中心に

個人的に特に驚いたのは、今回のドキュメンタリーの映像に、昨年1月の活動休止発表の会見直前の映像が含まれていることです。

メディアの報道では、今回の嵐のドキュメンタリー企画は、Netflix側からではなくジャニーズ事務所側から企画が持ち込まれたとのことでしたが、この映像を見ると1月の活動休止発表前の段階で、ドキュメンタリーの企画がされていたことが想像できます。
(もちろん、この映像はNetflix側ではなくジャニーズ事務所側が念のため撮影しておいたものかもしれませんが、少なくともドキュメンタリーを作る構想はあったと考えられるわけです。)

2019年は、なんといっても嵐の話題が1年間を通して注目された年でした。
大きなトピックだけ取り出してみてもこんな感じです。

■1月27日 2020年12月31日をもって活度休止することを発表

■6月26日 20周年記念アルバム「5×20 All the BEST!! 1999-2019」をリリース

■10月9日  公式YouTube開設

■11月3日  公式SNSの本格解禁

■11月9日 国民祭典で奉祝曲の歌唱を担当

■12月12日 Netflixでのドキュメンタリーの独占配信を発表

特に10月以降は、2020年末の活動休止に向けて活動のギアを上げた印象も強く、頻繁に大きな話題を振りまいていたように感じています。

誰が活動休止発表から、SNS解禁、Netflixドキュメンタリー公開という、この一連のPR活動のシナリオを描いているのかは分かりませんが、ネット上の活動から距離を取っていた1年前のジャニーズ事務所ではとても想像できなかったほど、新しい挑戦を次々と行っているのがよく分かります。


改めて振り返ると、嵐が所属するジャニーズ事務所にとって非常に大きい出来事と言えるのが、昨年7月9日に創業者で社長のジャニー喜多川氏が亡くなったことでしょう。

その後、ジャニー氏の姪でこれまで副社長を務めていた藤島ジュリー氏が新社長に就任。副社長には滝沢秀明さんが就任され、ジャニーズ事務所は新しい経営体制になりました。

今年に入って滝沢さんが、昨年末ジャニーさんが初めて夢枕に立って'''『僕のやり方にこだわらないで、もっと新しいことをやりなさい』'''と言われて、スッキリしたという逸話をメディアに向けて語っており、こうしたジャニーズ事務所としては新しい一連の取り組みを加速していくという宣言のようにも聞こえます。


「嘘偽りのない僕らがそこに映っています。」

今回の嵐のドキュメンタリーにしても、初回の22分は、5人の発言をつぎはぎして作られており、ファンからはもっと1人1人の発言を長く聞きたいという声も多いようです。

ただ個人的には、おそらくこのドキュメンタリーの1本目は、これからの1年間かけて綴るシリーズのオープニング的な位置づけであり、嵐の5人のメンバーが1人1人別の人間で、違う考えを持っていることを強調するために、あえて短い発言のモザイク的な作りにしているのではないかと言う印象を受けました。

特に、燃え尽き症候群について、二宮さんの「燃え尽き症候群にならないように」と櫻井さんの「燃え尽き症候群になろうとしてる」という正反対の発言が続けて流れるシーンなどは象徴的だと思います。

ドキュメンタリーの中では、メンバーの驚くような本音が次々に飛び出し、私自身も、初めて今回のドキュメンタリーを見たときには、本当に嵐のメンバーは、こういう重い内容の編集を許しているのかなと勝手に少し心配してしまったほどでした。

ただ、1月6日は、元旦にメンバー全員でドキュメンタリーを見た、と写真で報告している点に、嵐のメンバーの姿勢が出ていると感じます。

当然、嵐のメンバーがドキュメンタリーの内容に納得いっていなければ、この写真は投稿しないはずで。

Netflixドキュメンタリー発表の際に「嘘偽りのない僕らがそこに映っています。」という松本さんのコメントが掲載されていましたが、その言葉通りドキュメンタリーで嘘偽りのない「本音」をファンに赤裸々に伝えていくのである、という覚悟が、写真の背中から伝わってくる気がします。


SMAP解散とは対極的な活動休止への道

ジャニーズ事務所の主力グループの活動休止というと、記憶に新しいのは2016年1月に起きたSMAP解散騒動でしょう。

この際には、週刊誌によるスッパ抜き報道が先行し、公開処刑とも揶揄された謝罪中継が行われ、一旦はグループの解散を完全否定しました。
しかし、最終的には8月にグループ解散を発表し、12月に解散することとなります。

この一連の騒動の際には、ジャニーズ事務所側に近いメディア側と、事務所に批判的なメディア側との報道が、リーク合戦のようになり情報が錯綜。
SMAPからもジャニーズ事務所からも公式な情報発表やコミュニケーションがほとんどされなかったこともあり、ファンそっちのけで様々な憶測や怪情報も飛び交う事態となりました。

最終的に2017年に新しい地図として独立した元SMAPのメンバー3人が、AbemaTVの72時間ホンネテレビに出演して、SMAPファンのエネルギーがネット上の話題を席巻したのは記憶に新しいところです。

一方で、今回の嵐の活動休止においては、そうしたSMAP解散騒動を反面教師とするかのように、様々なSNS解禁や新曲のライブ中継での公開、そしてNetflixドキュメンタリーなど、嵐のメンバーが直接ファンとコミュニケーションする機会が多数企画されているのが非常に興味深いところです。

もちろん、YouTubeアカウントに公開された楽曲の数々は、嵐の活動休止後もジャニーズ事務所にとっての収入源になる可能性が高いなど、ビジネス面での布石もあることは間違いありませんが、嵐のメンバーがファンへの感謝の表現を第一に考えた上で昨年から様々なネット上の活動を実施していることは間違いないでしょう。


嵐の「本音」は日本のアイドルの常識を変えるか

ここで注目されるのは、こうした嵐の「本音」や生の姿をファンに見せるという方針変更が、今後、ジャニーズ事務所や日本のアイドル業界にどういう影響をもたらすのかという点です。

「アイドル」という言葉は、日本では若いタレントのことを意味する単語となっていますが、元々は崇拝する対象としての「偶像」を意味する言葉です。偶像崇拝という言葉もあるように、宗教における神のように、手に届かない存在であることがアイドルの人気の要素の1つであると考えられてきました。
象徴的なのは「アイドルはトイレに行かない」というような言葉が一人歩きしたり、恋愛や結婚に対する制限が暗に明に存在していることでしょう。

従来のアイドルは、テレビ画面の向こう側にいる特別な存在で、一般人が直接ふれあうことは難しい存在だったわけです。

それが、インターネットの登場により、アイドルがファンと簡単に直接コミュニケーションが取れる手段が増えたことで、日本におけるアイドル像というものも、大きく変化をしてきています。
AKB48に代表されるような「会いに行けるアイドル」が台頭、CDの売上が握手券の有無に左右されると批判されるようにもなりました。

そんな変化の中でも、ジャニーズ事務所は、ある意味頑なにインターネットと距離を取り、SNSなどのインターネットを通じたファンとの直接的な交流を行わない、従来のアイドル像を守りつづけてきた存在だったわけです。

嵐のSNS全面解禁も今回のドキュメンタリーにしても、一部の嵐ファン、ジャニーズファンからは、批判的な声も出ているようですし、手に届かない存在から手が届きそうな存在に変わることで、ジャニーズ事務所のアイドルとしての価値が下がるのではないかという議論が存在するのもよく分かります。

ただ一方で、今回の嵐のドキュメンタリーとその内容に対するファンの反応や、SNS上での嵐とファンのコミュニケーションを見ていると、「本音」の言葉や、かざらないSNS上の直接的なコミュニケーションが、大きな力や可能性を持っていることも見えてきているように感じます。

技術の進化により、当然アイドルのあるべき姿や、ファンとの関係の作り方の選択肢が増えた、と考えるべきなのかもしれません。

どちらが良いか悪いかという話ではなく、おそらく今後はアイドルグループそれぞれが、それぞれでアイドルのあり方を選択するようになるはずで、嵐のメンバーは今回リスクを取って最もファンとの距離を縮める選択をしたと考えるべきなのでしょう。

嵐のNetflixドキュメンタリーの1年間の航海が、どういう結末を迎え、どういうインパクトを残すのか。
実際に嵐のメンバーもNetflixのスタッフも、正確には想像できていないであろうドキュメンタリーが、これから紡がれていくわけですが。

今回の嵐の1年間の活動の結果が、今後の日本の芸能界に大きな影響を与えることだけは間違いないはずです。

この記事は2020年1月17日にYahooニュース個人に寄稿した記事の全文転載です。

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