見出し画像

【特別公開!】「あとがき(に代えた架空対談)」/『梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション1 龍神池の小さな死体』


梶龍雄さんの伝説のパーフェクトミステリとして名高い『龍神池の小さな死体』刊行を記念し、初刊本(講談社版)に掲載された「あとがき(に代えた架空対談)」を特別に公開いたします。


あとがき(に代えた架空対談)


批評家H・K ここに推理作家の名を並べて、その作風を分類した印刷物があるんですが、これによると、梶さんは風俗派の推理作家になっていますね。もちろん初めに、これは便宜上の分類と断わってありますが……。

 ムムムッ……。嬉しいような、嬉しくないような。そういえば、ほんの一部の批評ですが、ぼくの作品には推理の要素がやや薄いといっていました。しかしこれはそっくりとってもらいたいですね。これまでの作品をちゃんと読んでもらえているなら、わかってくれるはずなんですが……。
(※)

 全部推理の色の濃い本格になっているというのですか?

 正しくいえば本格にも・・なっているというところです。

 それなのにそう見られるのは、題材や話の展開がおもしろいために、トリックといったようなものの印象が薄くなってしまうでしょうか?

 アリガトウ!! あなたは大批評家だ!! それからこれには、ぼくのアト型発想ということも、原因があるかも知れません。

 何ですか、それは?

 つまり状況設定とか、人物設定とかがプロット作りの最初に出てきて、それからトリックを考えるアト型発想と、トリックが先に来て、状況や人物設定があとからできるサキ型発想との二つのタイプが、推理作家にはあるのではないかというのが、ぼくの考えです。

 梶さんはアト型?

 完全にそうだというのではありませんが、その傾向が強いほうです。

 しかしそれだと、トリックが弱くなるのでは?

 必ずしもそうではありません。初めに状況や人物設定がくるので、それがトリック成立上困難かどうかを考えません。だから問題提示がひどくトリッキーになったり、不可能興味が出て来たりすることがあります。

 つまり先に生まれたトリックのために、問題提示に改変を加えたりする妥協がないというのですね?

 サスガ批評家! むずかしいいいまわしで、もっともらしくいってくれました。アト型は状況や人物を優先させますから、やはりそのへんがしっかりしていて、しかもそこにうまくトリックが溶け込むと、推理小説にある好みを持っている人には、何か推理味が薄いように感じるのかも知れません。

 梶さんの作品も、そういうトリック溶け込み型だと……?

 へへへ……。だったらいいと思いますね。ともかくこの頃は推理小説まで、あとがきや解説を先に読むという、学問好きのかたが多いそうなので、ここでいっておきます。この作品もまた、いつものぼくの作品と同じように、伏線とデーターを最後の章の前までに、揃えてあるはずです。どうか犯人あてを楽しんでください。
  しかしそれにしても、あなたはどういう批評家なのです? バカに八百長的に、ぼくのいいたいことを、しゃべらせてくれましたが?

 あなたのぼくへのおほめのことばもたいしたものでしたよ。マア、私は……ソノ……身内批評家とでもモウシマショウか、つまりTVの映画解説者みたいな新種の商売ですよ。ひとつゴヒイキに。

 せいぜい宣伝しておきましょう。この次の作品もこういう対談であとがきに代えましょうか?(笑い……ただしむなしく)

   昭和五十四年六月
   梶 龍雄 



(※)本文は一部講談社版の原文と異なる部分がございますが、ご遺族のお話によると故・梶龍雄さんは本書の発売後に、この部分に関して意図と違うと仰っていたとのことで、今回、ネットでの公表にあたって、御遺志に沿う形で修正を施しました。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?