桜よ、思い出をください。
雪月花に、花鳥風月。
はる、なつ、あき、ふゆ。
古来より日本のひとびとは、うつろう四季とともに暮らしながら、
自然の美に、ひとの心の美を重ね合わせるという独自の美意識を育んできました。
これほどまでに、豊かな四季に恵まれた母国、日本。
天然の気候に動植物までが心を華やがせませているようです。
心躍る、春の季節がやってまいりました。
春を告げる花といえば何でしょう?
春を思わせる花といえば・・・。
日本人が愛してやまない花。
" 桜 ” ───── 。
桜の花も美しいのですが、それにまつわる言葉も美しい。
ですが、桜の花は、美しいだけではなくて、
" 春の思い出 " にリンクして呼び起こさせる、そんな不思議な気持ちになる特別な花。
多くの方たちは、桜を見ると、春に経験した出来事を思い出すようです。
春は、ちょうど年度切り替えのタイミング。
「桜」を歌ったソングに、新しい生活にトライする自分を重ね合わせたり、
新生活を前に満開の「桜」を見上げて勇気をもらったり。
そんな記憶の積み重ねが、桜への特別な想いを呼び起こしているのかしら。
人生における新たな始まりまでも象徴する「桜」。
この春、新たな門出を迎える方にとっては、
今年の桜がこの先ずっと胸によみがえるものとなるかもしれませんね。
あなたは今年の桜にどんな思い出をリンクさせますか?
また、桜の思い出をいまでも大切なものとしているでしょうか?
わたしは、桜の花を見上げると、子供の頃の思い出がよみがえってきます。
辛くても、上を向かせてくれた
どうして ──── ?
何で大人の都合でわたしが振り回されなきゃならないの?
父の転勤で引っ越しを繰り返した子供時代。
子供にとって、それまで仲良しだったお友達と離れることは、とても寂しかった。
送別会をしてくれたり、お手紙をもらったりしているうちに、
なんとなく別れを実感してくるの・・・・。
これからどうなるのか、先の見えない不安。
友達との別れのさみしさ、
あらゆることがいっぺんに押し寄せ、何も考えられなくなるばかり。
やっとなじみ始めた環境が、音を立てて崩れていく・・・
親は真っ先に、「新しい友達はできるかな?」「馴染めるかな?」って私のことを心配してくれてはいたよう。
だけど、実際は転勤や引っ越しは物理的に大変な作業なので、子供の気持ちに気が回らないくらい大変なこと。
とはいえ、私のことをまったく気にかけていないわけじゃないのはちゃんと伝わる。
それでも、転校の事実を告げ、私がなんの文句も言われなければ、親はホッと胸をなでおろしてしまう。
何も言わなければ、不満はないものとされてしまうの。
何で私だけ…
私の子供の頃の内気な性格を、転校のせいにはしたくはないのですが、
いつもなんだか、めそめそしてうつむき加減だった。
だけどそれはもう、子どもの頃の記憶。
あなたとの約束を守り続けてきた今のわたしは、変わった。
思い出します。
めそめそと、うつむいてばかりの私を、上に向かせてくれたのは
" 桜 " でした ────── 。
きれい 。すごくきれい ─── 。
桜は春になると、きれいな薄ピンク色の花を一斉に咲かせます。
どうして桜を下から見上げると、なんだか感動するのだろう。
こんなにも私たちの心を動かすのでしょう。
ねぇ、みんなの気をひきつけてやまない桜よ。
きびしい環境にさらされながらも精いっぱいに咲き誇り、
あなたたちは、毎年春の訪れと共に、私たちの期待に応えてくれる。
うつむいてばかりの私を、上に向かせてくれた桜よ。
あなたは、どんな気持ちで私たちを見ているの?
上を向いてよ。
そう言いたいのかしら。
桜たちは・・・・
今年の営みはどうですか?
あまり期待しないほうがよさそうです。
ほう、それはなぜ?
何やらウイルスがどうとかで今年は中止になるみたい。
あら、そうなの。
そう、今年は静かな満開となりそうです。
なんだか、寂しいのか、安心できるのか。
安心できる?どうして?
いえ、わたしたちの満開を祝い、たくさんの人たちが賑わってるのは喜ばしいのですが、
その反面、ゴミの始末だけはちゃんとしてほしいとか、
夜はライトで照らされ夜更かしの毎日になるとか、
なにかと大変なこともあるわけで、
そう思うと今年は安心して花を咲かせることができそうって思ったのです。
たしかにそうですね。
人間は、わたしたちの役目、知ってるのかしら?
さぁ、それはわかりかねますが。
わたしたちがこの時期にだけ花を咲かせるのは、命を未来に繋ぐため。
おしべとめしべが受粉して、実をつけるため。
子孫を残すために、どうしても花を咲かせなくてはいけない。
猛暑の夏からの暖冬、そして寒春。
そんな厳しい環境でも、どうにかして花を咲かせ来年に繋げなくてはなりません。
だから、たとえ、わたしたちの咲き誇る姿を見てくれる人たちが少なくても、
今年も精いっぱいに咲かせてみる。
あなたもそうでしょう?
もちろん。わたしたちは、冬が寒かろうが、長かろうが春の訪れと共に、必ず咲きます。ソメイヨシノは、名所だろうと、人気の少ない地域だろうと、必ず一斉に、春爛漫を彩ります。
わたしたちは、子孫を残すために花を咲かせることが役目なのは確かなことですが、やっぱり咲き誇るわたしたちを開花を見上げる人たちのことを期待してはいるのですよね。
たしかに、私たちの目的と、人間の目的は違えど、見上げる側と、見下ろす側の年に一度の唯一の約束。
そういえば、あの子。
今年も、見上げに来るのかな?
あの子って?
なんかね。毎年必ずわたしのことを見上げにくる子がいて、
なんかこう、約束どおり、会いに来ました。
そう言ってるように思うの。
わたしたちが、命を繋ぐために花を咲かせる役目を果たすように、
おそらく、その子はその子なりの役目があって、
その役目を確認するかのように、見上げてる気がするの。
だから、今年も、精いっぱいに咲かせておかなくちゃって思ってる。
その子が見上げに来るその日まで。
お互いの約束を果たすまでは、散らずに待ってようって。
いい営みしてらっしゃいますね。
でしょう。
見上げるその子と、見下ろすわたしとの約束を果たすことが、
結果的に、お互いがお互いに勇気とか、希望とかを与えあってる気がする。
勝手な想像なのですが、その子は普段、いつもめそめそしている内気な子なのかなぁって。
だからこそ、わたしの満開をわざわざ見にきてるのかな~って思うの。
勇気をもらいたくて?
ん~、・・かな?
あの子は今年も見くるのだろうか?
顔をあげる、あなたがいる。
あなたは桜の木を真下から見上げたことはありますか?
ありますよね。
すると不思議なことに、
すべての花びらがあなたの方を向いていることに気づかれたでしょうか?
あなたが今年も桜たちの開花を見上げることを待っていたかのように、桜たちもあなたを見ているの。
ほんとよ。見上げてみてください。
桜は、綺麗ですね。
平凡な風景が、桜の花に彩られて瞬く間に贅沢な春色を演出します。
だけど、綺麗だけでなく、桜を見ると、春に経験した出来事を思い出すように思いませんか?
私は子供時代の、転校の経験や、内気だったあの頃の記憶がよみがえります。
ですが、それは、悲しい思い出ではありません。
当時は、私だけが転校で切り離されるのは辛く、憤りを感じることもあったのですが、
その分、ちょっとだけ早く大人にしてくれたのです。
辛い思い出の数は、それだけ諦めなかった数なの。
あれからずっと、春になると、私は桜の木を下から見上げる約束を果たすの。
満開に咲き誇る桜たちは、わたしにこう告げます。
上を向いていこうよ ─── 。
今年もあなたを見上げにいくからね。
見上げる人がいて、魅せる桜が咲き誇る。
桜も人がいるから、桜でいる。
あなたも上を向いているから、そこに桜があるのよ。
そこに希望と夢があるの。
桜木の真下に潜り込み、そのまま真上を見上げると、
思いがけなく、子どものころのジブン(過去)に出会うことがある。
そして、もう一人のジブン(未来)に出会うこともある。
どうしようもない昨日をつくってしまったが、
どうにかできる明日がある。
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