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#383 立身出世すればこそ学問だ!

今日も二葉亭四迷の『浮雲』を読んでいきたいと思います。

第六回は、第一回で文三さんがクビになった日に一緒に帰った男の紹介から始まります。名前は本田昇といって、とにかくおしゃべりが上手であり、得意なことがなければ苦手なこともない男。愛嬌がよくて、お世辞がうまく、女性にも老人にも調子を合わせることができるが、親しさが増すと、次第に愛想がなくなり、鼻先であしらうタイプ…。ただ毎日ちゃんと出勤して、ほかの人が一日かける仕事を半日で終わらせる真面目なところもあるようで、休みの日には課長の家へ伺い囲碁の相手もするという、やや過剰なゴマスリも怠らないという念の入れよう…。そんな性格もあって、お政さんには大層気に入られ、チヤホヤされています。お政さんは、文三さんがクビを告白した第五回のやりとりを、尾ひれをつけて、本田さんに愚痴ります。その横に、女学雑誌を片手に、ニッコリともせず、さも本田さんがいるのが当たり前かのように、済まし切った態度でお勢さんが座ります。ここで、本田さんを挟んで、再び母と娘の言い合いが再燃!本田さんが冗談を交えて、あいだに入りますが、ふたりには通じず、席がしらけます。本田さんはフォローするかのように、お政さんに「お勢さんのような上出来な娘を持ちながら欲が深すぎる」「本来なら喜んでいなくちゃならぬ」と言い聞かし、そして、喜びついでに、自分が一等昇進したことを報告します。これに興味津々なのがお政さんで、本人を目の前にして、収入の変化を計算し始める始末。そして、やはり、文三さんとの比較を始め、本田さんを利口で気遣いがあって如才がないと褒め称えます。その後、本田さんは、団子坂の菊見に誘うのですが、それに対して、お政さんは…

「菊見さようさネ 菊見にもよりけりサ 犬川じゃアマア願い下げだネ

「犬川」は、「犬の川端歩き」の略で、犬が川べりで餌を漁ってうろうろする様子から、金銭を持たずに目的もなく店先をうろつくことの喩えです。坪内逍遥の『当世書生気質』では、「犬の川端歩き」→「犬川」→八犬伝の主人公のひとり「犬川壮助義任」と言葉遊びを連ねて、「犬の川端歩き」と表現するところを、「義任[ヨシトウ]を決め込む」と書いていましたね!w

「其処にはまた異[オツ]な寸法もあろうサ
「笹の雪じゃアないかネ
「まさか

「笹乃雪」は、下谷区根岸(現・台東区根岸二丁目)にある豆腐料理店で、創業は元禄4(1691)年、現在も営業している老舗です。ただし、店舗の老朽化により去年(2020)の12月に一時休業、新店舗を近隣地に建て、今年(2021)秋ごろ営業再開予定でしたが、コロナの影響で、来年(2022)の春ごろまで延期されるようです。

「真個[ホント]に往[イ]きましょうか
「お出[イ]でなさいお出[イ]でなさい
「お勢お前もお出ででないか
「菊見に
「アア
お勢は生得[ショウトク]の出遊[デアル]き好き 下地は好きなり御意はよし 菊見の催[モヨオシ]頗る妙だがオイソレというも不見識と思ッたか 手弱く辞退して直[タダ]ちに同意してしまう 十分ばかりを経て昇が立帰ッた跡でお政は独言[ヒトリゴト]のように
「真個[ホント]に本田さんは感心なもんだナ 未[マ]だ年齢[トシ]も若いのに三十五円月給取るようになんなすった それから思うと内の文三なんざア盆暗[ボンクラ]の意久地[イクジ]なしだッちゃアない 二十三にもなッて親を養[スゴ]す所[ドコ]か自分の居所立所[イドタチド]にさえ迷惑[マゴツイ]てるんだ なんぼ何[ナン]だッて愛想[アイソ]が尽きらア
「だけれども本田さんは学問は出来ないようだワ
「フム学問学問とお言いだけれども立身出世すればこそ学問だ 居所立所[イドタチド]に迷惑[マゴツ]くようじゃア些[チツ]とばかし書物[ホン]が読めたッてねっから難有味[アリガタミ]がない

ということで、この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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