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木祖村の『ぶっかけ蕎麦』~道の駅にて

 木曽街道というのは、長野県塩尻市から岐阜県中津川市を結ぶ国道19号の一部分で、かつての中山道をなぞって整備されている。木曽街道に入れば地形は大部分が V 字であり、その底にあたる部分には木曽川が流れ、東西は山々に阻まれている。国道も、名古屋-塩尻間を結ぶJR中央(西)線も、わずかな平地や斜面を整備して敷かれているのだ。

 このような地形であることと、おそらくは日照時間が十分に確保できないという理由とから、大規模な稲作は不可能だ。そのため、この地では蕎麦を栽培し、あたりまえのように食する。(信州では、蕎麦を注文すると漬物が付いてくるのは、それが主食であるということらしい。)塩尻では「蕎麦切り発祥の地」をうたっているほどだ。木曽街道沿いにも蕎麦屋がひじょうに多いし、地元産の蕎麦粉にこだわっている店もある。

 江戸風の細くて繊細な更科蕎麦を喉で味わうのも粋ではあるけれど、黒っぽくて太めの田舎蕎麦を口いっぱいにほおばり、もぐもぐと味わうのも、蕎麦好きにとってはたまらない幸福というものだ。新蕎麦の時期なら蕎麦本来の味を楽しめるけれど、それ以外の時期でもさまざまな工夫によって美味しく食べようという人間の欲望と努力とが素晴らしい。

 木曽街道沿いには、道の駅が多く整備されていて、それぞれの地域の特徴を活かしているのも楽しい。とくにお気に入りは、道の駅「木曽川源流の里きそむら」だ。ここは木曽郡木祖村に本社がある「株式会社 源」が運営しているが、地域活性化に本気で取り組んでいる様子がうかがわれる。

 この会社は、村民も出資に参加して設立されたようだ。驚くべきは事業内容である。道の駅関連である地場産品の開発・加工・販売や施設運営受託などだけではなく、土木工事や建設工事などもおこなっている。ふつうなら県道の補修工事を中堅業者が請け負えば、道はよくなってもおカネは外部に流出してしまう。ところが木祖村では自分たちの会社が請け負うことで、県の事業費を村内に留めておくことができるのだ。ひじょうに合理的で自立した考え方だと思える。

 お気に入りはもう一つあって、それは日本酒。

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 日本酒というのは、元来その土地の米とその土地の水とで醸造されるものだが、近年は酒造りに適した米を使用するようになった。木祖村にある株式会社湯川酒造店醸造のこの酒は、木祖村の米や水、さらには名称、題字に至るまで木祖村産ということだ。すっきりして味わい深く飲みやすいので、年に何回かは一升瓶を購入している。

 このように真剣にこだわっている地域の蕎麦、美味いに決まっているじゃないか。しっかりした出汁にきりりと冷たい水、地元とれたての野菜をあしらった「ぶっかけ蕎麦」。しかも食堂が午前10時から営業しているのも便利だ。券売機でチケットを購入すると、厨房に自動的にオーダーが入る先進的なシステムでもある。

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