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笛吹き道中記19 不思議な笛/魔笛のお話

私には、いわゆる霊感の非常に強い友人がいます。
彼女にはあちらの住人が丸見えです。

どちらが本物かわからないほどで、
見え方をコントロールするために、
和歌山まで修行に行っていました。

ある日、先生のお宅へ着くと、
玄関からオレンジ色のまあるいスイカのような球が
転がりでてきて、あちらへ去っていったそうです。


先生にお会いして開口一番

「オレンジ色のスイカが・・」という彼女に

「ああ、いまうちの神さん出て行かはったんや」
と先生。

オレンジ色のスイカの話に
けらけら笑いながら、
そんな彼女と一緒に体験した魔笛のお話を
今日はいたしましょう。


それは、京都・嵐山に庵を構える染色作家の
祐斎さんの工房でのこと。
そば打ちやBBQに誘われたある日のことです。

夕暮れになり、わたしは東京へ戻らねばならず、
まだ庭先で楽しむみなさんへ別れを告げ、
独り山を降りていきました。

祐斎さんの工房は桂川にほど近い、少し小高くなった山の林の中にあります。
渡月橋から少し上へ上がったあたりで、
この時間帯になると観光客の姿もなく、
また周りに住居もないため、
風が竹林を渡る音と虫の声に囲まれているだけでした。

「さようなら~」と声を挙げ、
戸外で集っているみなさんからも
「たたらちゃ~ん、またね。気を付けて~」と
声が返ってきました。

林の向こう側の石階段を降りていきながら、
こうして何度も声を掛け合い、
次第に声が遠ざかっていくのを
お互いに楽しむように、別れをいと惜しみました。


さて、不思議であったのは、東京へ帰ったあとのことです。

彼女と電話で話をしているなかで、
奇妙なことをいうのです。

「あの時、山を降りながらみんなで
たたらちゃんにさようならーって言ってたやん、
そうしたらさすが、たたらちゃん、笛で応えてくるねんもん、
みんなで盛り上がったんやで」と。


「え?・・・笛、吹いてないけど。」

私がそういうと、

「うそ~、そんなはずない、みんな聴いてたで。
林の向こうから
ぴや~~~っと笛の音が通ってきて、
すごいなぁ、笛の音よく通るねんなーって話てたんだもん。」

というのです。

嵐山から在来線で京都駅までの移動、そして新幹線の時間。
その時わたしには時間的な余裕がなく、急ぎ足で山を降りていました。
すでに黄昏時にかかり足元は暗く、
段差のまちまちな石階段を早足で、注意深く降りていたのです。
一旦しまった笛を取り出して吹きながら、なんてしていませんでした。


彼女にそう伝えると、

「うそやん。怖い~」
というのです。

でも、割と丸見えなんでしょう?
怖くはないんじゃないの?
と尋ねましたが、

「こっちの人かあっちの人かはわかるねん、
笛の音はリアルだったのに、まさか。
それに、いままであっちの音があんな風にはっきり聞こえるなんてことない」
というのです。


それに、聴いたのは彼女だけではなく、
そこにいた10人あまりの人が全員聴いており、

笛で別れの挨拶してくるなんて、さすがやなぁ
なんて話していたそうです。

この話に謎解きはありません。
不思議な話、のままです。

残念でならないのは、
そのはっきりと林を抜けて通っていった笛の音を
わたしだけは聴いていないことです。

なぜ聴こえなかったんでしょう。
わたしのいる声の方角から聞こえて、
次第に遠ざかっていったというのに。

不思議でならないし、
とても残念です。

どんな旋律を奏でていたのか、
どんな音色だったのか。

そんなことを想いながら、
聴こえてくる音がないか、
耳を澄ませています。

さて、13日は中秋の名月です。
台風が近づいていて、お月様もお顔をだすかわかりませんが、
晴れたら戸外で奏したいと思います。

お席は残りわずかとなりました。
ぜひお越しくださいませ。

詳細は
朱鷺たたらBROG
→https://note.mu/tokitatara/n/n45983366e131

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