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MTB全日選手権2021レースレポート

大会名:MTB全日本選手権2021

開催日:2021年11月21日

開催場所:愛媛県八幡浜スポーツパーク

カテゴリー:エリート男子

リザルト:優勝

天 候:晴れ

コースコンディション:ドライ

使用機材

バイク ANCHOR XR9

サスペンション SR SUNTOUR AXON

コンポーネンツ SHIMANO XTR M9100シリーズ

シューズ SHIMANO S-PHYRE XC9

ヘルメット Kabuto IZANAGI スペシャル・チームカラー

グローブ Kabuto PRG-7(ブラック)

ウエア WAVE ONE デュアルスーツ        

サングラス OAKLEY KATO(Prizm Low Light)

サプリメント SAVAS(株式会社明治)

ヘッドバンド HALO 

写真は表紙Syunsuke FUKUMITSUさん、文中は@S_Tado さん、Koichiro Nakamura さんより

マウンテンバイクで日本一になって真っ白なチャンピオンジャージを着て世界中のトレイルを走ること。小学生の頃の卒業文集にこう書いたことを今でもはっきりと覚えている。僕の人生で一番最初に持った夢であり、プロ選手になってからは明確な目標となった。ジュニア、U23と全日本を勝ち続けて夢に近づいている気がしていたが、4年前にエリートになってからは苦労した。強くなる方法が分からなくなって苦しみ、思い通りにいかず過去の自分とばかり比べたくなる時期が何度もあった。

それが去年(2020年)から少しずつ変化してきた。きっかけはコロナ。目標としていたレースが全て無くなり、オリンピック選考も突然終わり、自分が一体何のためにマウンテンバイクという競技をするのかが問われた。僕はマウンテンバイクというスポーツが大好きだが、最も好きなのは自転車を通して自分の限界に挑戦して成長を感じられる瞬間だと気付いた。これがあるからレースが無くともモチベーションが湧かないと思ったことは一度も無かったし、トレーニングをすればするほど自分が日本一という目標に近づいている実感が濃くなり自信が溢れてきた。ここ数年間はなかったレースが無くトレーニングだけに没頭できる時間というのは自分にとって必要なものだった。

本音を言えば偉大な先輩である山本幸平選手がいる去年の全日本で勝ちたかった。でも負けた。もうそれは取り返しようのない過去のことであるし、自分ができるのはその負けから何を学んで来年(2021年)に繋げるかであった。

そして今年。ロードレースに取り組んだのは、自分の勝ち方の幅を広げるため。昔から勝つときは序盤からの独走勝利がほとんどで、人の後ろについて走ることに苦手意識があった。しかし現代のマウンテンバイク・クロスカントリーは登りの距離も短くハイスピードで、序盤から独走を狙って走るのは簡単なことではない。少人数のパックで展開しながら脚を削り合い、勝負所で一気に決めにかかる爆発力とスタミナが必要な競技だ。

そのためロードレースでは無駄足になったとしても何度も逃げに挑戦し、このマウンテンバイクに必要な力を磨くことに集中した。相手の息遣いや上体の揺れから疲労具合を観察する能力、ペースが緩む瞬間、先頭交代のタイミング、そして人の後ろについて脚を貯める能力。全てが劇的に向上し、これまでにない強さと経験を手にすることができた。

その成果は2週間前の全日本マウンテンバイクXCC、1週間前の野辺山シクロクロスにも現れていた。単に調子が良いだけでなく、これまでにない勝ち方、新しい勝負の仕方が見えるようになっていた。大事なマウンテンバイクレースの直前までシクロクロスをこなすことは心配されたが、子どもの時から両方こなしてきた自分にとって短期間でバイクを乗り換えるのは特に難しいことではない。さすがにこれほどクレイジーなスケジュールは今年が最後(と思いたい)なので、競技人生の思い出として楽しんでおこうという気持ちであった。

そして迎えたレース当日。今回の全日本で自分が優勝候補の筆頭であることは自負していたし、多くの人が今年は勝てるね!と言ってくれていた。もちろんやるべきことは全てやってきて勝つ自信はあったが、それでも勝つことは簡単じゃないと自分に言い聞かせていた。ライバルは強くひとつのミスやトラブルがあれば負けるだろうし、90%の力しか出せなくても負けるだろう。でも100%の力を出せれば必ず勝てる。そのための準備をレース直前まで妥協なく行なった。

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スタート直前、集中力と緊張感が高まり、真剣を通り越して深刻になっている自分に気がついた。口角を上げてリラックスするために、最前列スタートの中で表情が柔らかかった竹之内選手に声をかけて少し話をさせてもらった。今後のシクロクロスのスケジュールなどを話しながら冗談を言って少し笑い、緊張と集中と楽しさが丁度良い感じに入り混じったベストな状態に持っていくことができた。

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定刻通り14時にスタート。シングルトラックの長い下りに先頭で入るため、スタートダッシュは少し抑えて周りの選手の動きを見ながら2番手に付いて最初の登りをクリア。そして緩斜面で後ろから一気にスパートをかけて狙い通りに先頭でシングルトラックに入った。後ろを振り返って誰が2番手につけているかを確認する。集中した表情の竹内選手と目が合った。もし彼以外の選手なら下りで千切って中切れを起こさせる自信があるので、攻めて下ろうと考えていた。

リスクを取ったところで竹内選手は付いてくるので先頭で息を落ち着かせながら丁寧に下ることにする。それでも半周を終えた時点で自分と竹内選手、宮津選手が抜け出していた。予想していた通りのメンバーだ。桜坂の前で竹内選手が抜いてきてペースを上げてくるが、一番斜度の上がる箇所で再び抜き返す。レース前半はとにかく勝負の主導権を握らせないことを意識していた。1周目を終えた時点で3人で完全に抜け出し、この2人に負けないことが今日勝つということであるのは間違いなかった。

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アスファルト区間は後ろに付け、シングルトラックに入る直前にダッシュをかけて2周目の下りも再び先頭で入る。自分のペースで下って息を整えながら、スピードが落ちるヘアピンコーナーでは3番手の宮津選手にダメージを与えるために立ち上がりでしっかり加速するようにした。登りで竹内選手と先頭を奪い合い、その度に宮津選手は少し離れるがアタック後にペースが緩みまた追いつかれるという展開。しかし離れるということは、もしこのまま終盤まで3人でいっても位置取りさえミスをしなければ宮津選手には勝てるので、とにかく竹内選手の動きに注意した。

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3周目に入る直前のグラウンド区間でレース前から決めていた作戦に出る。80%カットでスピードを落とさせるためかヘアピンコーナーが続くのだが(しかもかなり滑りやすい)、誰もが休む区間と捉えているのを逆手にとってここでアタックをかける。3秒ほど差を付け、このままシングルトラックまでのアスファルトを踏み抜けば独走に持ち込めると思ったが、すぐに竹内選手が宮津選手を引き連れて追い付いてきた。独走を諦めて竹内選手の後ろにつける。息を整えながら相手の走りをよく観察するが、前半よりも少しペースが鈍った気がした。後ろからプレッシャーをかけながらも前には出ず、相手の脚をさらに削らせることにする。桜坂での竹内選手のペースはかなり強烈で自分も付いてはいけるがカウンターで仕掛ける余裕はなく、後ろで耐えてミスを犯さないことと回復に専念する。

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4周目の下りも竹内選手の後ろでこなす。そして桜坂の斜度が上がる箇所で一気に追い抜いて先頭に立ち、ペースを上げ続ける。2人とも引き離すつもりでいったが竹内選手だけは付いてきた。しかしかなり辛そうであったので、そのまま先頭で攻撃を仕掛け続ける。そして最後の登り区間で後ろの気配が急に消えた。グラウンド区間で後ろを確認すると10秒ほどの差で宮津選手の姿しか見えない。小林監督からも「ここで決めよう!」と指示が入る。逃げ切りを狙ってホームストレートも全力で踏んでラスト2周に入る。

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下り区間もパンクのリスクがない範囲で攻め続ける。1ヶ月半前に行なった八幡浜での合宿ではこのコースを10周走り続ける練習もした。最速ラインと危険な箇所は完全に熟知している。宮津選手とのタイム差は15秒。僅かだが開いていることに勝利が近づいてきていることを感じたが、油断せずに最速ラインをなぞることに集中した。

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ラスト1周。タイム差は18秒に広がり大きなミスがなければ勝てる差だが、マラソンレースの強者で後半に強い宮津選手を相手に慎重すぎる走りは許されない。すぐ後ろに迫っているとイメージして全力で追い込んだ。勝利を確信したのは、最後の登りを終えてから。フィード地点で小林監督、他チームの方ともハイタッチをしてもらった。長年の夢を叶えた瞬間だが全日本とか日本一は関係なく、ライバルとのこの素晴らしい勝負に勝てたことがただただ嬉しかった。自分はこの瞬間のために生きてると心の底から思った。

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昔は自分1人の夢だったことが今はこんなに多くの方に応援してもらえて、ここまで同じ方向を向いて走ってきてくれたことに感謝しています。家族、チーム、スポンサー、応援してくれる人たち。本当にありがとうございました。たくさんの方達に支えられて僕は自分の好きなことに没頭できました。間違いなく日本一の幸せ者です。

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そしてこれがラストレースとなるチームメイトの平野星矢選手。同じチームで10年間も一緒に過ごしてきた。このレースの日の朝、会場に向かう車の中で僕が緊張していると話すと「今の時君なら大丈夫だよ」とサラッと言ってくれた。サラッと優しいことを言ってくれるのがいつもの星矢さんらしくて、とても嬉しくてレース前なのに少し泣きそうになってしまった。本当にありがとうございました。そしてお疲れ様でした。

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年内の目標は残りひとつ。全日本シクロクロスの連覇です。今年も残り少ないですが最後まで大好きなレースができることに感謝して、最高の1年を締め括りたいと思います。

TEAM BRIDGESTONE Cycling

沢田 時

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