【短編小説】あと百回死んだら人間になれる?

 いじめを苦に自殺。なんてことはよくあることだけど、あっちゃいけないことだと思う。そう。僕で最後にしてほしい。

 ここはマンションの屋上フェンス外。一歩前進すれば遺体の出来上がり。

 夏休みが明日で終わる。学校に行きたくないから逝くしかない。

『あらら。勿体ないことしちゃったね』
「!? だ、誰!?」

 周囲の景色が一変した。真っ暗だ。光一筋も見えない。今立っている場所もどこだかわからない。

『君はさっき飛び降りて死んだ。即死だった。私は神様で、君の魂を次の器に入れに来たんだ。次は鶏になってもらう』
「死んだの!? いや死んだのはマジか、死のうとしてたんだから。でも鶏? 猫とかが良いのに」
『自殺なんて親不孝しておいて、贅沢言うんじゃありませんよ。先ずは鶏。次は蟻。その次は魚』

 斯くして転生した僕だけども、異世界転生ではなく輪廻転生だ。しかもろくでもない。鶏に生まれたはいいけど、延々卵を産まされ続ける機械扱いだった。蟻になったら戦争に巻き込まれて死んだ。魚……の卵の時にむしゃむしゃされて、全身バラバラになった。

 猫も犬も楽なんかじゃなかった。猫の時は餓死したし、犬の時は殺処分された。殺処分するとき、人の目は悲しそうだった。

 もう1回蟻になったら人間に踏み殺された。烏になったら子供にモデルガンで射殺された。付喪神になったこともあったけど、お焚き上げで成仏した。理不尽だ。大自然で生きたいと願ったら、神様は日本外の世界に転生させてくれた。ウイルスになって人間を…と思ったら薬が既にあって死ぬ。シマウマになったらライオンに腸を食べられた。

 どこで生きていくにも大変極まった。正直動物の世界には法律がない、守ってくれる人がいない。守ってくれる時は家畜扱いだ。豚になったときは死ぬまで狭いし最後は食われるしで散々だった。

 そうやって何十何百回と生きて死んでを繰り返していった。正直ここまでくると、転生ではなく跡形もなく消滅したいなーって思った。

『おめでとうございます。次は人間になれますよ』
「ええ……何だか気が乗らないです」

 今から人間になれって言われても……いや、でもこれはチャンス。現世から解脱するために頑張ることも……できなかった。

 生まれた先で、僕はトイレの排水溝で目覚め、そのまま死んだ。

「……わかったよ神様」
『どうされました?』
「僕は幸運だったんだ。何不自由なく赤ん坊を生きて、中学生になれて、夏休みもそれなりに楽しかった。けど、軽いいじめで僕は嫌気がさした。全部全部が嫌な思い出ばかりに思えて、そんな当たり前の幸運に気付かなかったんだ。そりゃあ、親不孝者だし。死にまくってもしょうがないって思った」

 そんな独白が終わった時。僕は夕焼け空を眺めていた。この体は……馴染みがある。最初の自分だ。

「……夢……じゃないなこれ」

 死んだっていうのは、多分嘘だったんだろう。そっから色々死なせたんだろうなって思った。

「夏休みの宿題しなきゃな」

 いじめっ子に負けないように頑張ろう。死ぬのに比べたら、遥かに簡単で有意義だ。次は簡単に死なないように、生きなきゃいけない。天国があるかなんてわからないように。死んだ先に幸せが待っている保証なんてどこにもないのだから。

サポート1人を1億回繰り返せば音霧カナタは仕事を辞めて日本温泉巡りの旅に行こうかなとか考えてるそうです。そういう奴なので1億人に到達するまではサポート1人増える度に死に物狂いで頑張ります。