【短編小説】君のことなど知りたくもない

うっかりパソコンを壊してしまった。右手に握った+ドライバーを、無造作に投げ捨て、バラバラになったパソコンを前にしてため息をつく。

正直。壊したくはなかった。

【ではなぜ壊したの? 中身を見たかったの?】とか色々質問が来ると思うから言うと、私は誰とも関わりたくないんだ。部屋の中で1人。仕事もテレワークで、極力接触しない。ゲームばかりが私の生きがいだってくらいだ。

事実そこのパソコンだったものの中には、数千時間を共にした大事なデータが入っていた。

全てSNSが悪い。全てネット社会が悪い。私ではない誰かが悪い。

私は結構心のブレが大きいのか、誰かの悲しみを、痛みを余計に大きく感じてしまう。赤ん坊が泣いていたら私も泣き出してしまうので、通勤手段に電車は使えなかった。

昔の時代に行きたい。平和な昔の時代に。今の世界は駄目だ。あまりにも感情に訴えかける情報が多すぎる。

誰かが死んだ。誰かが行方不明。その家族への無作法なインタビュー。憶測にデマにそれを信じる馬鹿どもに、何をしても脳死コメントしか出せない愚か者どもに心を病む馬鹿野郎ども。

正直スマホも買っていない。パソコンでも、そういう情報は極力シャットダウンしてきた。誰かが私に「今の情勢知らないの?」と言われたことあるけど、知らないし、知りたくもないし、知ってどうするという気も起きない。

政治だのミサイルだの宇宙の隕石だの。知って私に何が出来るんだ? 政治家になって世界を変えろとか、ミサイルを撃墜しろとか、隕石をアルマゲドンしろとかいう無茶を言うのか?

私は日銭稼いで酒とゲームに興じて死ぬときは少し着飾って死のうかなってことしか思っていない単なる一般人だ。世界を知ってもそれは変わらない。

だからそういう情報を無断で通知してくるこのパソコンは駄目なんだ。
いや、この世界が駄目なんだ。煩くて煩わしくて、どこへ行くにも誰かがいて、居心地なんてものを感じる前に居住まいを正さねばならない。

最終的に私は自死しなければならないのではないだろうか……そんな考えが頭をよぎったが、その時はその時だ。来世は如何なる生物でもいいから、心安らかに過ごしたいね。

じゃあ、今日は疲れたからもう寝るよ。お休みお休み。

                        了

サポート1人を1億回繰り返せば音霧カナタは仕事を辞めて日本温泉巡りの旅に行こうかなとか考えてるそうです。そういう奴なので1億人に到達するまではサポート1人増える度に死に物狂いで頑張ります。