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年利15%で運用し、同時に老後資金も貯める方法とは?

国家の意志を理解する

日本版401kとも言われる「確定拠出年金」(以後DC:Defined Contribution Plan)。最近では個人型確定拠出年金の愛称がIDECO(イデコ)に決まって話題になりましたが、一度は聞いたことがあるけど、詳しいことはよく分からないと言われるこの制度。

しかしこれはほぼ100%の人がトクをする、国家お墨付きの優遇制度なのです。そして、この制度の内容を理解できるかどうかが「国家に奪われるだけの脆弱な人」で終わるか、「経済的自立への扉を開けることができる人」になれるかのリトマス試験紙になる――それくらい意味があることではないか、と私は考えています。

そもそもこの制度は「税の仕組み」に根ざしたものなので、それを司る「国家の意志」について考えてみたいと思います。

国は制度の変更によって企業や国民を一定の方向へ誘導しようとします。新たな減税制度や補助金制度が作られるということは、政府が私たちに「こっちへおいで」と言っているのと同じこと。逆にそれらを打ち切るのは、「もうこっちへ来なくていい」という意思表示です。

そういう「国家の意思」を察知して上手く利用するのです。

たとえばNISAは国民のカネを株式投資に向かわせようという制度ですし、家電エコポイントは「家電を買え」、住宅エコポイントは「住宅を買え」という意思表示であることはその典型例です。

また、国はスムーズに徴税するために、「取りやすいところから取る」傾向があることはご承知の通りで、「軽自動車税の増税」「発泡酒・第三のビールの増税」などは有名です。

「確定拠出年金」の理解がファイナンシャルリテラシーの分岐点

さらにもうひとつ、「国民が理解しにくいところで取る」と思えるような税制改正を行うことがあります。

たとえば2011年には子ども手当の導入と同時に年少扶養控除が廃止されましたし、2017年には配偶者控除の廃止が予定されています。増税はわかりやすいので手を打てても、「税の仕組み」を理解できない人、興味のない人には「所得控除の廃止」には反応できない。

すると、政府の期待通りにむしり取られてしまいかねません。そしてこの「税の仕組みを理解する」方法のひとつに、DCを理解することが挙げられます。

実際にやるかやらないかは別として、老後対策や資産運用の選択肢の1つとして国策のDCを理解することは、税制改正をうまく活用するための基礎を作る行為である、と私は考えています。それが、国家が仕掛ける収奪戦に負けないための第一歩です。

景気や本人の能力とは無関係に長期間メリットを享受

日本人であれば、多くの人が「老後の不安」を抱えていると思います。特に若い世代に年金のことを聞くと、おそらくほとんどの人が「自分たちは年金をあてにはできない」と答えるのではないでしょうか。それはつまり、ほとんどの人が未来予測そのものはしているということ。

しかし大切なのは、そこから一歩踏み込んで「では、自分は老後に備えて、具体的に何をするのか?を考えることです。そこでたとえば「老後対策+貯蓄」などで検索すると、積立型投資信託や定期預金、民間の保険商品などなど様々な方法が出てきます。

その中でも有力な方法のひとつがDCです。DCは、会社員も自営業者も経営者も、加入条件を満たすあらゆる社会階層の人が等しくトクをする制度です(非課税世帯を除く)。

DCは、収入の低い人でも年利15%、平均的な年収500~800万の人なら年利20%、年収1000万円を超えるような人なら、年利33%もの高利回り商品となり得ます(独身者の場合。家族構成や所得によって異なります)。

ゼロ金利時代の現在、資産運用で年利10%という数字を上げ続けるのは至難の業ですが、それがDCを活用すれば、本人の努力や才能とはまったく関係なく、15%や30%超といった年利を稼げるのです。

では、本当にそんな夢のような話が実現できるのでしょうか。

実はこの利回りは、減税効果によるものです。DCの掛け金は全額所得控除されるため、所得税と住民税が安くなります(会社員の場合は、毎年の所得税の還付、毎月の手取り額のアップとなります)。「増やす」というより「(税金という)支出を減らす」ことで実質的な経済的メリットが得られるのです。

この減税効果は加入期間中続きますから、今30歳の人であれば、受け取れる60歳まで30年間もこの恩恵に与かれます。また景気に左右されることもありませんから、“株価や為替とはほぼ無関係に、さらに本人の能力とも無関係に、長期間メリットを享受できる”制度なのです。

DCをやらない理由が見当たらない

では、弱点はないのでしょうか?詳細は後述しますが、DCは金融商品を自分で選んで自分で運用する制度なので、うまくやれば資産の増加が期待できます。しかし反面、相場の変動によって元本が減る可能性があります。

そこで定期預金や保険商品を使えば、途中解約しなければ基本的に元本が減ることはありません。ただしインフレ時には、実質的に目減りすることになります。とはいえ、仮に運用で利益が出なくても、インフレで若干目減りしたとしても、何もしないよりは節税分だけ確実にメリットが得られます。

また、DCはいったん始めたら60歳までは引き出せない制度なので、使いたいときに使えない、という点を指摘する人もいます。しかし逆に、老後資金を強制的に貯められるという点においては、むしろ長所と言えるでしょう。

加入期間中に得られた運用益(金融商品の売却益、分配金、利息など)は全額非課税で、投資信託にかかる手数料も、民間の証券会社で買うよりもずっと安い。

60歳を迎えてDCの年金を受け取るときは、一括で受け取る「一時金方式」か、毎年少しずつ受け取る「年金方式」、あるいはその併用から選べます。そして、一時金方式なら「退職所得控除」、年金方式なら「公的年金等控除」の適用を受けることができます。これは、民間の保険の満期返戻金が一時所得や雑所得扱いで、総合課税となるのと比べても、非常に優遇されています。

このように目を皿のようにして「DCをやらない理由」を探しても、私には見つからない。そしてこれを、国家が合法的な制度として用意しているわけですから、これをフル活用しない手はないと感じます。

DCを知っている人はインテリジェンスが高い?

かくもメリットの多い制度にもかかわらず、なぜDCはあまり普及していないのでしょうか。

2014年の統計では、DCに加入資格があるサラリーマン(正社員)3500万人のうち、加入しているのは約500万人(個人は約20万人)だそうですから、加入者は7人に1人という割合に過ぎません。

これには大きく2つの理由があると考えています。1つは、積極的にDCをPRする人が少ないこと。理由は単純で、金融機関やファイナンシャルプランナー、保険代理店が儲からないからです。DCの販売によって得られる手数料は、一般の投資信託や保険のそれよりも格段に少ないので、必死にセールスしても実入りが少ない。

先日も保険代理店が集まった懇親会で「DCは個人にも経営者にもメリットがあるから、これを売るのはどう?」という話をしたら、「あんなの儲からない」「手数料がちっぽけでバカバカしい」「普通の保険を売ったほうがいい」と、まるで相手にされませんでした。

もう1つは、やはりDCを理解するのがちょっと難しいということだと思います。たとえば経営者の友人知人にDCを勧めると、「それはいいね!」という反応がほとんどです。しかし、講演やセミナーなどで一般の方々に紹介すると、「よくわからなかった」と言われることが多い。

これはおそらく、税に対する理解と興味の差が原因ではないかと思います。特にサラリーマンの場合、納税は会社任せで税金の仕組みに無関心な人も多いですから、「減税メリット」と言われてもピンと来る人が少ないのでしょう。実際、「所得控除」の意味と種類とメカニズムを即座に説明できる人は、そう多くありません。

DCについて検索中、フィデリティ退職・投資教育研究所が行った「勤労者3万人アンケート」(2014年4月実施)の中に興味深いコメントがあるのを見つけました。

「DC加入者は非加入者に比べて、老後資産の必要性に対する気づき、準備額、投資経験と投資理論の理解度など、多くの点において進んでいることがわかっている」「DCに加入していなくてもDCを知っているだけで退職準備が進展し、投資にも積極的な姿が明らかになった」

つまり、DCの理解度とファイナンシャル・インテリジェンスとの間には相関関係があるというのです。逆の言い方をすると、DCを理解できないとすれば、「資産を残す」という側面において、大きなディスアドバンテージを負っているかもしれないのです。

DCと通常の年金との違い

ここからは少し詳細な制度について解説していきます。

DCを単純化して言うと、「加入者が毎月掛け金を払って、定期預金や保険、投資信託などで運用し、60歳以降に年金として受け取る制度」です。これは、サラリーマンが加入している厚生年金、自営業者が加入している国民年金とは別の年金制度です。

通常の年金と大きく異なるのは、年金が「賦課方式」(現役世代から広く保険料を徴収し、受給者にそのままスライドして分配する)なのに対し、DCは「積立方式」である点です。

賦課方式の年金は、「将来いくらもらえそうか」というシミュレーションはできても、徴収された年金保険料は全員の分がごちゃまぜにされるため、自分が預けたお金が今いったいいくらになっているのかはわかりません。逆にこれが不公平感の元にもなっています。

一方、積立方式のDCは、自分がもらう年金は自分で積み立てる方法で、自分で積み立てたお金はすべて自分で受け取ることができます。

DCは自己責任型の年金形成

また、DCは「見える化」と「持ち運び」もできます。積立をしている金融機関の専用ウェブサイトにログインすれば、自分のお金が今いくらになっているかがすぐにわかります。転職・離職する場合でも、自分のDCを持ち運ぶことができます。

また、DCは運用方法を自分で決める制度なので、払い込みの窓口となる民間の金融機関(銀行や証券会社など)を決め、そこが用意している金融商品の中から自ら選びます。

商品の種類は、大きく「元本確保型」のものと、「元本変動型」のものに分けられます。前者には定期積立預金や確定給付型の生命保険が、後者は株式や投資信託があります。

掛け金は通常の年金などと同じく「全額所得控除」ですが、民間の保険と同様に、会社員なら年末調整(会社に控除証明書を提出)、自営業者なら控除証明書を添付して確定申告をします。

加入期間は最低10年で、10年以上加入すれば60歳から受け取れます。仮に52歳で加入した場合、受け取りは62歳からと後ろにずれる形になります。

このように、自分で積み立て運用方法も自分で選ぶという、完全な自己責任の年金です。

DCの加入条件と掛け金

DCには大きく分けて、「企業型」と「個人型」の2種類があります。

企業型の場合、会社が制度を導入し、社員のために掛け金を拠出します。会社が負担する金額に加えて、個人が追加で拠出できる「マッチング拠出」も可能です。

個人型の場合は、各人が自分で掛け金の金額を決め、自分のお金で積み立てていきます。毎月の掛け金は最低月5000円からですが、1000円単位で指定できます。途中で金額の変更も可能で、届け出を提出すれば年1回まで可能です。家計が苦しい時は、会社や金融機関に届け出をして一時的にストップすることもできます(その間は退職所得控除の加入期間にカウントされません)。

拠出できる掛け金の金額は、会社員か自営業か、あるいは会社の制度の有無によって上限が決まっています。自営業者の場合は個人型DCで、掛け金は国民年金基金と合わせて月6万8000円までです。たとえば国民年金基金に毎月2万円払っていれば、確定拠出年金の掛け金は月4万8000円までということになります。

会社員の場合は、勤務先の年金制度によって変わります。会社が企業型DCを導入していれば、掛け金は月額5万5000万円まで。企業型DCではない確定給付型の企業年金制度(厚生年金基金など)を導入している企業の場合、掛け金の上限は月額2万7500円。会社が企業型DCも企業年金制度も導入していなければ、自営業者と同じく個人型DCの扱いとなり、掛け金の上限は月額2万3000円(自分の預金口座からの引き落とし)。

つまり普通の企業に勤めている会社員は、少なくとも月額2万3000円までは払い込むことができるということです。

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