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コロナ映画館 by 河野洋

今回のテーマ : コロナ生活

世界を知る為に外に出る。視野を広げる為に人と会う。対人が当たり前だった僕が、新型コロナウイルスにより発令された2020年3月の自宅待機令をきっかけに、壁に囲まれた生活を強いられた。パンデミックは、例外なく世界中の人々に平等の苦痛、いや試練を与えたと思う。コロナで生活様式が変わった人、考え方が変わった人、環境が変わった人、変化という文字を避けて通れた人は誰一人いなかっただろう。

では、自分は何が変わったのか?それを挙げたらキリがない。まず外食をしなくなり、というよりできなくなり、食料品の買い出しと料理という自炊が日課となった。飲み物で言えば、アルコールをやめ、水、ハーブ茶、フルーツジュース、珈琲だけで満足するようになった。

睡眠もぐっすり、そして、たっぷり取れるようになった。もともと、いつでも、どこでも「寝れる人」だったが、コロナになってから、さらに睡眠技術が高まったように思う。不眠症の人には申し訳ないが、消灯後、ベッドで横になって目を閉じたら、1分以内にはぐーぐー寝ている。これは履歴書の特技に加えてもいいかもしれない。

さらに出張も通勤も無くなったから、移動にかかる時間と出費が抹消された。徒歩圏内に行動範囲が狭まったので当たり前だ。ミーティングは全て味気ないパソコン上でのビデオ会議が主流になり、在宅できるようになった。ただし、家の中を行ったり来たり歩いたりするだけなので、運動量もガクンと減った。だから室内のストレッチ体操と散歩を出来るだけ増やし、体を動かすようにしている。だが怠け癖がついているので、油断するとすぐにサボってしまう。

さて人恋しくなるコロナ渦中、満足感を与えてくれたものは、読書、音楽、そして映画鑑賞だった。特に仕事柄、映画は1ヶ月に短編、長編合わせて40本以上は観ている。映画の何が面白いかと言うと、知らない場所へ連れて行ってくれる、膨大な情報や自分では思いつかない見識を与えてくれる、映画のキャラクターに自己投影して模擬体験でき、刺激的な新世界は無限に広がる。

映画を通して、挿入歌などから新しい音楽アーティストや作曲家を発見し、素晴らしい役者たちを知ることができる。以前、東京で女優さんと縁あってご一緒させていただいたことがあるのだが、帰国する飛行機の中で映画を見ていたら、その女優さんがスクリーンに登場してびっくりしたことがある。こんなサプライズも映画ならではだ。また別の女優さんとニューヨークでお会いした後、その方は残念なことに亡くなってしまったが、彼女の遺作で再会し感動したこともある。映画は、様々な出会いを演出してくれ、未知の扉を開いてくれる。好奇心をくすぐり、偏見の壁を取り除いてくれる。

コロナによって閉塞感が漂っていることは否めない。しかし、どんな苦境に立たされても、人間の想像力は無限だ。映画とは、人間の創造力を養う総合芸術。コロナ映画館に入り浸りながら、今日も新しい世界の幕開けに心を躍らせながら、開演を待つ。

2021年6月14日

河野洋、名古屋市出身、'92年にNYへ移住、'03年「Mar Creation」設立、'12年「New York Japan CineFest」'21年に「Chicago Japan Film Collective」という日本映画祭を設立。米国日系新聞などでエッセー、音楽、映画記事を執筆。

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