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2022年1月2日

今回のテーマ:2022年 初夢/今年の抱負

by 福島 千里

この日、私が目覚めた時にはすでに時刻は午前9時を回っていた。どうやらかなりぐっすりと眠っていたらしい。毛布に包まったまま枕から頭をわずかに上げ、視線だけを足元に移す。するとそこには二匹の猫たちが小さく座ったままこちらじっと見つめていた。

「珍しいなぁ」

いつもなら午前5時には「朝食を出せ」と、猫たちの実力行使によって強制起床させられるのだが、なぜかこの日は違っていた。「正月ぐらい、母さん(もとい猫たちにとって私は給仕係だが)もゆっくり寝かせてやろう」、なんてささやかな気遣いだったのだろうか(いや、食欲と睡眠欲の赴くままに生きる彼女たちに限って、きっとそんなことはない)。

ベッドから身を起こし、寝間着の上に上着を1枚羽織ってから階下へ向かう。猫たちは何かを思い出したかのように立ち上がると、階段を転がり落ちるようにして私を追い越していった。キッチンのブラインドを開け放つと、陽の光がぶわりと差し込んでくる。元旦はあいにくの曇天で、初日の出も拝めなかったけど、二日目にしてようやく新年の光を浴びることができた。冬の青白い朝の光が起き抜けの目に沁みた。

足元にまとわりつく猫たちをよそに、水の入ったやかんをコンロに乗せ、カチリと火を着ける。それから振り向いて背後にあるキャビネットに手を伸ばす。するとまるで堰を切ったように猫たちがニャーニャーと騒ぎ出した。

テーブルの上に陶磁器の食器を2つ並べ、計量カップで測ったドライフードをザラザラと盛る。老猫用と若い成猫用。分量はいつも通り、きっちり。テーブル下で待機中の二匹の目の前にそれぞれの食器を差し出すと、猫たちは待ってましたと言わんばかりに食事に飛びついた。静かなキッチンに響く乾いた咀嚼音が耳に心地よい。猫たちがモリモリと食べる姿を見守るのは、私の大切なルーチンだ。

やがて火にかけていたやかんの注ぎ口からシューシューと白い蒸気が噴き出し始める。そのさまをぼーっと見ながら、ふと思い出した。


そういえば、今年は夢を見ていない。初夢どころか、ここしばらく夢らしい夢を見ていない。


パンデミックが始まった2020年3月以降、私と夫の睡眠サイクルはひどく乱れていた時期があった。就寝前に考え事をしていたせいだろうか。夜間に夢を見ては何度も目を覚ます。私自身はもともと眠りが浅い方なので、よく夢を見るのだが、さすがに一晩のうちに2本立て、3本立ての夢を見るとなると翌朝は寝起きは決して良好ではない。そんな人間たちの心理状態が伝播したのか、そのころの猫たちは、深夜2〜早朝3時に目を覚まし、朝食をせがんで大騒ぎするようなこともあった。

コロナによって生活様式が大きく変わってもうすぐ2年。多少不便だが新しい生活にも慣れ、夢など見ることもなくぐっすりと眠れる日々が続いている。きっと気持ちにもゆとりが出てきた証拠だろう。オミクロン株が世界各地で大流行する中、まだまだ気を抜くことはできない。けれども、このところこの長い悪夢の出口は近いようにも感じている。あくまで体感だけど。

朝食をすっかり平らげて、空の器をいつまでも名残り惜しそうに舐め続ける猫たちをよそに、今度は自分のために一杯の茶を淹れた。もうすぐ起きてくる夫が淹れてくれるコーヒーをいただく前の、早朝の一杯。熱い茶をゆっくりと啜り、ぼんやりと思う。2022年こそ、世界中にとって明るい年になりますように、と。xxx

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📷:ニュージャージー州からハドソン川越しに見る早朝のマンハッタン(2017年撮影)。2022年の元旦は、残念ながら昨年に引き曇天。きっとコロナが終息する年の初日の朝は空はカラリと晴れるんだと勝手に信じている。


◆◆福島千里(ふくしま・ちさと)◆◆
1998年渡米。ライター&フォトグラファー。ニューヨーク州立大学写真科卒業後、「地球の歩き方ニューヨーク」など、ガイドブック各種で活動中。10年間のニューヨーク生活の後、都市とのほどよい距離感を求め燐州ニュージャージーへ。趣味は旅と料理と食べ歩き。園芸好きの夫と猫2匹暮らし。


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