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新音心温

今回のテーマ:温まるもの

題名:新音心温

by 河野 洋

ニューヨークの冬は厳しい。温暖化が進んでいると言われているが、寒いものは寒い。切れるような寒風の冷たさは、体の感覚を完全に麻痺させる。生まれ育った名古屋は雪だって降るが、寒さを程よく感じさせてくれる程度で、決して極寒とは何かを教えてくれはしなかった。

日本ならコタツに入って、寝る時は電気式足コタツ(湯たんぽ)、外に出る時はホッカイロというのが寒さから身を守る心強い保温アイテムがあったが、アメリカには、そういった便利なものはない。ただセントラル・ヒーティングのおかげで、家やビルの中は冬でもホカホカ。夏のように暑いくらいの室温になることも多い。

しかし、寒い時はやはりスープに限る。昔はよくライブの後、寒さ凌ぎと腹ごしらえに、East VillageにあるVeselkaという24時間営業のレストランで、世界の三大スープの一つ、ボルシチ(Borscht)を食し、体が芯まで温まったものだ。そう、同店は1954年にオープンしたウクライナ料理のレストランだが、今やロシアの軍事侵攻で、戦火広がる故郷に、身を引き裂かれる思いだろう。世界の裏側の惨事に心を痛め、これ以上の犠牲者が出ないことを願うばかりだ。                                                                                                             

世界と言えば、先週、Greenwich VillageにあるIFCセンターという映画館でオスカーにノミネートされた実写短編5作品を観た。平日の午前だったこともあり、200席以上ある椅子に腰を下ろしたのは8人程度だったが、誰にも邪魔されず、映画と対話できる空間は貴重で、この巨大なスクリーンとスピーカーという環境はお金を出さないと得られないものの、その価値は十二分にあると改めて感じた。

今回は5作品とも人種問題、現代の社会問題に焦点を当てた重々しい作品ばかりだったが、映画という総合芸術を通して、様々な世界観と人間の生き様を目の当たりにすることができ、生きることの意味を深く考えたし、コロナで忘れかけていた人間らしさを取り戻せたし、心温まる時間となった。劇場内は劇的に寒く防寒具を着たままの映画鑑賞だったが、寒い環境にいるからこそ、より温かさを体感できることも痛感。

心温まる時は他にもある。人間は人と交わることで時を思い出と一緒に心に刻んでいく。忘れたいものもあれば、忘れられないもの、忘れてはいけないものなど、いろいろある。アジアにおいては仲良くすべき近隣国である韓国や中国との間で修正できない歴史だってある。そんなご近所さんたちとは、せめてニューヨークでは上手くやって行きたいと常々思っていて、実際に韓国人や台湾人との交流は多い。

個人的には韓国の映画や音楽に注目していて、同じアジア人としても応援している。80年代のマドンナやスウィング・アウト・シスターのようなオシャレなエレクトロポップといった印象だが、歌っているのは9人組の女の子たち。JYPエンターテイメント所属ということで、てっきり韓国人ばかりだと思ったら、韓国人5人、日本人3人、台湾人1人という多国籍編成のグループだった。こうなると、K-POPなのかJ-POPなのか区別ができない。それでも国も言語も人種も超えたTWICEが活躍しているのを見るのは微笑ましいし、心も温まる。これぞ「新音心温(しんおんしんおん)」新しい音楽で心温める。

2022年2月28日
文:河野洋

[プロフィール]
河野洋、名古屋市出身、'92年にNYへ移住、'03年「Mar Creation」設立、'12年「New York Japan CineFest」'21年に「Chicago Japan Film Collective」という日本映画祭を設立。米国日系新聞などでエッセー、音楽、映画記事を執筆。現在はアートコラボで詩も手がける。


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