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独り立つ

今回のテーマ:独立記念日
by 河野 洋

1989年7月4日、僕はボストンで生まれて初めての独立記念日を体験した。正直、どんな花火を見たか全く記憶にないが、花火を見ようと集まる人の群れと、一人旅であるが故に味わざるを得ない孤独感が心地よく自分の居所を作ってくれていた気がする。そして、打ち上げられては夜空を美しく彩り、儚くも散っていく花火に、「独り立つ」をしみじみと実感した。この感覚は今でもあって、それは出張で外国へ行く時でも、近所のスーパーに行く時でも、一人になると少なからず感じる感覚だ。いつ、どこへ行くべきか、行先(人生の岐路)を自分が決め、一歩一歩、自分の足で進んで行く。ワクワクと寂しさが交互にやってくる道のりだ。
 
89年は日本を飛び出して独立(自立)を感じた年で、5ヶ月にわたる欧米一人旅で、さまざまな初体験をした。アメリカ大陸に初上陸、ベイエリアで友達がお世話になっていたアメリカ人ホストファミリーの家に初ホームステイ、サンフランシスコからニューヨークを初横断、初のバックパッカー体験、ハリウッドでは小さなステージだったが、オープンマイクでギターを演奏してアメリカ初舞台、ロサンゼルスからラスベガスを米国初ドライブ、初セスナでグランドキャニオンを見下ろし、ニューヨークでは友人とシェアだったが1ヶ月の初アパート住まい。初めてグレイハウンドに乗り、初めてカジノでギャンブルもした。
 
そうして考えると自分にとっての「独立」は、新しい体験をすることで、つまりは、それが、自分を高め、また、人に頼っていたことや未体験だったことを、独りで成し遂げていく意味になる。僕にとって、挑戦はアメリカの開拓精神であり、あらゆる分野において独立(一人で立ってみる)していくこと。一人で何かを成し遂げることは大変なことではあるけれど、それをすることで、他の人の気持ちを知ることもできるし、感謝する気持ちも育んでくれる。
 
米国生活は31年になったが、やはりアメリカにいると未開の地へ足を踏み入れたくなる。経験していないことを経験するのに年齢は関係がない。ただ、体は正直なので、若干ガタがき始めていることを痛感し、悲鳴をあげる時もあるが、やっぱりこのワクワクは止まらない。今年の5月〜6月にかけての2週間で、アメリカの中西部、南西部を車で旅した。走行距離は5200キロを超えた。限界は頭の中が勝手に作り出すもので、やればできるのに、できない、と勝手に決めつけてしまう。道は自分で切り開く。今なお、アメリカで「独り立つ」に挑戦中。

2023年7月26日
文:河野洋

[プロフィール]
名古屋市出身、'92年にNYへ移住、'03年「Mar Creation」設立、'12年「New York Japan CineFest」'21年に「Chicago Japan Film Collective」という日本映画祭をスタート。数々の音楽アーティストのライブ、日本文化イベントを手がけ、米国日系新聞などでエッセー、コラム、音楽、映画記事を執筆。現在はアートコラボで詩も手がける。

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