Vol.4 当日お届け可能!(元に戻っただけじゃないですか)
インターネット通販が広まり始めた頃、日本中の、はたまた海外の品物が自宅に居ながら手に入る。
そんな奇跡のような出来事にワクワクが止まらなかったものです。
たとえばテレビで見た、北海道の蟹。
雑誌で見た東京のパティシエが作るケーキ。
日本では発売されなかったアーティストのCD。
電車で30分かけて見に行った洋書屋さんでも見つからなかった画集。
フランス旅行から帰った友人が聞かせてくれた、現地でしか飲めないという珍しいワイン。
そんなものがポチッとするだけで、手元に届くのです。
自分の家の近所の商店街を駆け巡っても、ちょっと気合を入れて京都や大阪まで出かけても見つからなかった商品が家にいながら手に入るのです。
これはすごいことでした。
ただ今では信じられないことですが、当時ネットを通じて注文したあとの消費者は、とにかく待っていました。
そう、日時指定ができないことも多かったのです。
ときに時間帯指定はできないけれど日にちは指定できるというショップがあれば、土日指定にして注文し、日曜指定できるという対応の細やかさに喜んだものでした。
ただそれでも消費者は満足していました。
だって、インターネットがなかったらその品物は一生手に入らなかったのですから。
もちろんインターネット以前にも通信販売はありました。
しかしその自分の欲しいものを販売をしている通信販売のショップと巡り合える可能性は、奇跡のようなものでした。
ネットの中で検索して見つけるのとは違い、そもそもどうすればそのショップに気付くことができるかが運のようなものだったからです。
一生手に入ると思っていなかったものが、ネットを通じて入手できる。
それであれば、お届け日がいつになるかなんて些細なことでした。
しかし販売する側にとっては、最初のうち独占的だった商売、商材であっても、その商品がネットで売れていることが周知されてくるとライバル店舗の登場という事態が起こります。
そうなるとその店舗との差別化で競争に勝たなくてはなりません。
もし商品が自分たちで製造しているオリジナル品であれば、たとえ類似品を作る店舗が現れても、オリジナルという強みがありますが、仕入れた品物を売っている場合は、差別化の手段は商品そのものの性能や魅力では演出できません。
そうなるとまずは値段。
そして付加価値です。
その付加価値の一つとして早い時期に登場したのが、お届け日時指定の確約でした。
これは本当に便利でした。
いつ来るかわからない品物のために、一日予定を開けて自宅待機するという消費者のストレスは一気に払拭されることになったからです。
しかしネット通販が定着したように、今度は日時指定対応も当たり前のことになっていきます。
当然といえば当然ですね。
そうすると今度は付加価値の方向性が変わってきます。
希望日時に届けるという確約の進化は、いかに早く届けるかという方向に向かいました。
「●時までのご注文で当日発送・翌日お届け(北海道、四国、九州および一部離島を除く)」
各店舗は受注の〆時間を明記し、当日発送翌日お届けをうたうようになりました。
その〆時間を午前10時とするお店があれば、それを正午まで遅らせるお店が出てきます。
さらには「17時までのご注文で当日発送」と、勝負はエスカレートする一方。
誰かがやれば、その上を行くサービスで対抗する。
これは商売の定石です。
ただ勝ち抜くには体力が必要で、もし負けたら疲弊します。
それでもやるのです。
その裏を覗いてみると17時〆時間のお店であれば、一旦正午にそれまでの受注処理を済ませて出荷準備を整えておき、正午以降17時のご注文の中で、明日以降の発送で間に合う日付のお届け日が指定されていない注文を抽出して追加で出荷処理を施すといった対応をしていたのです。
もともと一日一度でよかった受注処理、出荷作業を日に二度こなしていたのですね。
これは店舗側にとっては手間ですが、この手間を厭わないことで差別化して生き残りのキーとしていたのですね。
しかしそこに大きな雷が落ちます。
「正午までのご注文は当日お届け可能!(東京23区内に限ります)」
みたいなサービスです。
これはよく見るとからくりがあって、当日お届けできる地区は店舗、倉庫の近隣地区だけでしかなく、全国へのお届けはそれまでとおなじタイムスケジュールなのですが、言葉のインパクトはすごいです。
ただ……。
冷静に振り返ってみましょうよ。
近隣地区への配送。
ネットに出店しているとはいえ、もともと何らかの商品を販売しているということは商店です。
ショップだのストアだのいう言葉を使い、店名も横文字にしてみたりしてネットで販売していますが、もともとは近所のお店屋さんなのです。
つまり、元に戻っただけじゃないですか。
私の実家は商売をしていました。
子どものころ思い出してみると、父親は注文の電話を受けたら「はいはい~。すぐ行きますね~」って、電話切って用意してご近所なら注文から15分で届けてましたよ。
20分後には店に戻ってきて、お茶飲んでました。
ホントなんてことはない。
注文のツールがネットに代わっただけでお届け日が先延ばしになっていたのが、廻りに廻って結局昔に戻っただけなんじゃないかと思います。
インターネットはサービスを突き詰めていくのに合わせ、原点に回帰しているんです。
ネットだ、という言い訳は通じなくなっているんです。
そういえばECサイト黎明期にあった今となっては信じられないエピソードを思い出しました。
ある大手のECサイトのトップページの看板下。
「●●市●丁目1-5の●●様ご連絡ください」
こんな文言がものすごいおおきフォントで右から左に流れてました。
marqueeタグ懐かしいですね。
いや、そこじゃありませんね。
●●の部分、全部そのまんま表示されてました。
のどかな時代でしたね。
今なら裁判モノの個人情報流出ですよ。
ホント、あの頃はのどかでした。
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