大島本は上巻を読めばいい!!←これ本当?

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(「予備試験の民事実務基礎は大島本入門編で十分?」の続きです)

 やはり、民事実務基礎科目ごときで本を2冊も読むのは抵抗があるという人は一定数いるのですが、そうだとしても入門編の要件事実の知識では不十分であるという事実を認識している人も中にはいます。
 そういった人は、「大島本上巻になら要件事実の知識がまとまっているから、入門編なんて読まずに上巻を読めばいいんだ!」と言うんですよね。よく見かけます。

 今回の記事は、そういった言説をうけて、上巻にはない大島本入門編の魅力をお伝えすることを目的としています。

1.民事実務基礎は要件事実だけじゃない!

 予備試験の民事実務基礎科目ではどのようなことが問われているのか、ご存知でしょうか?
 色々ありますが、何が一番大事かと言われたら、そりゃあ要件事実の理解が重要だろうということは、民事実務基礎対策に手を付けた人ならわかると思います。
 しかし、民事実務基礎科目は要件事実だけじゃあありません。

 近年の民事実務基礎科目の過去問を分析すると、以下のような分野からの出題がされていることがわかります。

①要件事実論
②民事執行法 or 民事保全法
③民法の知識
④準備書面起案(事実認定論)
⑤法曹倫理(←論文式試験ではご無沙汰だが口述式試験でよく聞かれる)

 そうです、要件事実以外にも色んな分野からも出題されているのです。
 ③民法の知識はともかく、②民事執行法/民事保全法や④準備書面起案(事実認定論)、⑤法曹倫理については、特別の対策を要します。
 そこで登場するのが、大島本入門編ってわけよ!

2.大島本「入門編/発展編」と「上巻/下巻」の違い

 なぜ上巻だけではだめなのか、「入門編/発展編」と「上巻/下巻」の比較をして説明します。

★上巻/下巻
・上下巻ともに、ロースクール生/司法修習生向け
・上巻は要件事実のみを取り扱う
・下巻は前半で事実認定論を取り扱い、後半に演習問題が掲載されている

★入門編/発展編
・入門編は予備試験受験生/ロースクール生向け
・発展編はロースクール生/司法修習生向け
・入門編では、上下巻の内容のうち、基礎的な内容がまとめられている
入門編では、民事執行法/民事保全法や法曹倫理をも取り扱っている
・発展編では、上下巻の内容のうち、発展的な内容が書かれている

 以上の通り、上巻では要件事実論しか取り扱わないため、他の書籍で補充する必要があります。しかし、下巻を使うにしても、事実認定論については予備試験にオーバースペックな箇所が多いし、そもそも下巻では民事執行保全法や法曹倫理を取り扱っていません。正直、上巻だけでは心許ないのです。

 それが入門編ならどうでしょう。予備試験に必要な限度で事実認定論を学べるうえ、民事執行法/民事保全法や法曹倫理についても言及があります。
 入門編スバラシイ!!

 以下では、論文式試験過去問を通じて、入門編がどのように役立ってくるのか、具体的に検証します。

3.民事執行法/民事保全法

 民事執行法/民事保全法については、平成28年度の問題にはじめて民事保全法の知識が問われて以来、令和元年度まで連続して出題されています。
 問われている知識はどれも基本的で、入門編380頁以下が頭に入っていれば十分に答えることが可能です。

 例えば、平成30年度設問1小問(1)では、①「Xが採り得る法的手段」、②「その手段の有する効力」、③「その手段を講じなかった場合に生じる問題」について問われていました(問題文はこちら)。
 ①については、380頁で「仮差押え」が「金銭債権の支払を保全するため」の手段であり、「債権に対する仮差押え」が存在することがわかっていれば、本問で採り得る法的手段が80万円の債権の仮差押え(民事保全法20条1項)の申立てであることがわかるでしょう。
 ②については、384頁に「仮差押えの執行がされる・・・と、債務者は、譲渡、担保権の設定等一切の処分をすることが制限される」と書いてあるので、この記載に基づいて、答案に「債権の取立てや譲渡等の処分が禁止されるという効力が生じる」とでも書けると思います。
 ③については、同頁の保全の必要性の箇所を参考にして、「債権の他にめぼしい財産がないので、債権を処分されると強制執行が功を奏しないから」と書けるでしょう。
 この通り、大島本入門編で答案が書けるのです。

 しかし、非常に言いづらいことがあります。
 令和元年度の問題では、予備試験論文式試験としてははじめて民事執行法の理解が問われたのですが、大島本の民事執行法の説明が薄すぎて、あれを読んだだけでは答案を書くのが厳し買ったのではないかと思います。問われていたことは超基本的な事項だったので私はなんとか書けましたが、大島本ユーザーはびっくらぽんだったでしょう。
 民事執行法については、現状、予備赤本の民事実務基礎で補充するのがコスパ良いと思います。

4.準備書面起案(事実認定論)

 ここ数年、最後の設問で準備書面を起案させる問題が出ています。
 正直、極論をいえば、民法の論文式の問題を解くノリで書けばなんとかなるのですが、民事実務基礎科目っぽく答案を書けるほうがベストです。
 そこで大事になるのが、要件事実論の理解と事実認定論の理解です。ここでは、事実認定論の理解がどのように活きてくるか説明しましょう。
 事実認定といえど色々あるのですが、特に重要になってくるのが、335頁以下で触れられている「直接証拠と間接証拠」と、344頁以下で触れられている「書証」についての理解です。

 それでは、この2つの観点に基づいて、令和元年度の設問4を検討してみましょう(問題文はこちらから)。
 設問の指示によると、準備書面に記載すべき主張は、X訴訟代理人Pの立場から「Yが保証契約を締結した事実が認められる」という主張です。
 こういった事実の主張をする際に意識しなければならいのは、直接証拠と間接証拠の区別及び主要事実と間接事実と補助事実の区別事実認定の構造です。335頁、338頁、339頁に書かれている図が参考になるでしょう。詳しくは大島本入門編を読んでください。
 本問に即して説明すると、Yの供述内容に登場する「本件借用証書」は「Yが保証契約を締結した事実」との関係で直接証拠に該当するでしょう。つまり、Xの立場としては、その本件借用証書から「Yが保証契約を締結した事実」を認定することができるということを言いたいわけであり、そこが争点となるので、この点を厚く準備書面に書くべきことがわかりますね。この論理構造も答案に示せれば良いと思います。
 そして、この本件借用証書から「Yが保証契約を締結した事実」を認定できるといえるためには、本件借用証書に形式的証拠力があるといえなければならず、本問の事情の下では、この点が具体的な争点であることがXYの供述からわかります。大島本では346頁以下が参考になります。
 本問では特に、2段の推定のうちの1段目の推定の問題ということになります(356頁の図を参照)。具体的な検討については各自で考えてみてください(私はもう疲れた)。
 ひとまず、準備書面の骨格だけでも示してみたいと思います。

①本件借用証書からYが保証契約を締結した事実が認められる(結論の先出し)
②本件借用証書の形式的証拠力について消極の事情を挙げつつ、積極の事情を挙げて評価する
③以上より形式的証拠力が認められるし、実質的証拠力も認められるので、Yが保証契約を締結した事実が認められる

 ついでに、平成30年度の問題についても言及しますが、あれは処分証書と報告文書の違いについて指摘すべき問題でしたね(367頁以下参照)。

5.法曹倫理

 大島本入門編では、60頁程度で法曹倫理について書かれています。絶妙な分量ですね。
 ただ、最近は法曹倫理を論文式試験できいて来ないんですよね。口述では毎年聞かれているので何れにせよすべきであることには変わりません。

 めんどくさくなったので過去問の検証は省略します。論文式試験で最後に法曹倫理が出た平成27年度の問題は現場思考を求められていたみたいですが、法曹倫理の現場思考問題の対処法としては、大島本入門編の巻末に掲載されている弁護士職務基本規程の条文を素読した上で、本文の解説を読んで条文の趣旨を確認するくらいですね。法曹倫理の問題をたくさん解きたいけど論文式試験過去問だけじゃ足りないって人は口述再現を読んでみましょう。


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