見出し画像

立冬の信越、源泉と美食を味わう③【個性派浴場を巡る】

<前回はこちら>

 三か所ある角間温泉の共同浴場の中で、最も湯元から近いのが「大湯」だ。威風堂々の伝統建築旅館に囲まれながらも、公開処刑どころか小さいながらもそれに劣らぬ風情を漂わせる。

 戸を開けると、脱衣所と浴室に仕切りのない典型的な共同浴場スタイル。
薄ブルーのタイル張りの湯底が映える。

 
 源泉は80度越え。前訪の際の強烈な激湯の記憶が蘇ったが、この日は恐れていたほどではなかった。恐らく先客が加水をしたのだろう。無色透明、肌への刺激が少ない弱アルカリ性の泉質。僅かながら石膏臭を捉えた。
 
 内側から見る湯小屋もまた風情があり、気を許せばついつい長湯をしてしまいそうだ。だがまだこれが1湯目、宿にも3つの浴槽がある。湯あたりせぬ様、20分ほどの滞在で切り上げた。

  
 温泉街の中ほどにあるのが「滝の湯」。
老朽化が激しく、ガラス窓のひび割れをもガムテープで補強されるほど。こちらもタイル敷で、側面は岩壁となっている。先客がいなかったためか、大湯よりもかなり熱い。
 
 言うまでもなく、石膏臭も湯力もこちらが上だった。5分足らずでヘロヘロになってしまい、すぐに退場した。


 川下の「新田の湯」は、民家の庭先の様な場所にポツンと現れる。
裏にお住まいの方は、玄関を出て5秒あれば源泉に有り付けるはずだ。この地域の方は家風呂は利用せず、毎日源泉に浸かれるのだから羨ましい限り。

 長野県にはこのような源泉利用の公衆浴場が日本で最も多い。
そして、長寿大国日本において最長寿の都道府県でもある。健康の秘訣は、やはり毎日源泉に浸かっているからだろうか。
  
 「新田の湯」はコンクリート造りの長方形。
適温ではあったが、矢継ぎ早の3連湯とあり10分程の入浴で退湯。
 

 三か所の共同浴場に配湯されているのは、全く同じ源泉だ。だが浴槽の造りや大きさ、先客との相性(?)により微妙な違いを効き分ける。湯族の愉しみ方。


 部屋に戻り、水分を取り暫し休憩。
懸念していた通り、宿にはWi-Fiが飛んでいなかった。だが私が持ち合わせていたポケットWi-Fiは圏内。流石に丸の内よりは弱いかも知れないが、検索や動画閲覧には問題なかった。これならば、ワーケーションも出来なくはなさそうだ。


 角間温泉には食事処や商店がない。そのため久々に2食付きで宿を取っていた。温泉ワーケーション生活が続き、楽天トラベルやじゃらん等のポイントは潤沢に溜まる。湯治は素泊りが基本となるが、繁忙期や今回のような事情がある時にポイントを充当する。

 
 2食付き8,800円(税込)と決してハイグレードとは言えない価格帯。料理にはさほど期待はしていなかった。
 
 だが清流で育ったというニジマスの塩焼や、地元の信州牛の陶板焼きが登場するなど、予想外に上質なラインナップ。時間も6時、6時半、7時と指定が出来るのも嬉しかった。小さい宿、家族経営だからこそ成立するサービスだ。


 夕食後、今度は館内を巡湯。

 「家族風呂」、「檜風呂」、「大浴槽」と3ヵ所。全て貸切で、入口の札を「入浴中」に反転させ、内側から鍵をかける。


 最初に入った「家族風呂」は完全一人用サイズで、ソファーのように段々の形状となっている。ちょうどリクライニングシートに背を預けるような態勢で湯に浸かる。タオルを畳み枕にすると、ウトウトと眠気が襲った。

 
 高温の源泉は直接浴槽には注がれず、一度竹を割ったような樋に落ちる。湯のほとんどは樋を伝い排水溝へ。僅かに樋から溢れた湯が浴槽を満たし、41~42度に調整されていた。他の2つの浴槽も同様の仕組みだった。
 

 続いてダイブを決めた「檜風呂」は2人サイズ。石膏臭と檜の芳香を愉しむ。源泉は家族風呂と同様だが、やはり浴槽の造りが違うだけでも随分異なる印象だ。

 
 家族風呂と檜風呂の源泉は、越後屋旅館の独占保有のもの。
旅館の裏山から自噴しており、横穴で宿まで引いているとご主人。間違いなく、吉川英治氏が愛湯したのがこの源泉だ。


 最も大きい「大浴槽」の湯は、共同浴場にも配湯されている揚湯泉。
ボーリングによりあてたものだ。湯口にはヴィーナス像のモニュメントがあり、析出物がこびりついていた。

 
 越後屋でいただける微妙に違う2種の源泉。私はご主人の薫陶を賜り、僅かな差に気付いた。恐らく、ノーヒントでは違いが分からなかった可能性が高い。これを一発で効き分けたものなら、さぞかし男前だろうな、、、


 「人皆我が師なり」

 吉川英治氏の名言を引用し一句。


 『源泉、皆我が師なり』

 日本国内に3万本近くある源泉。成分分析により温泉の泉質は大まかに10種に大別される。だがこの世に二つとして、同じ源泉はない。
 一湯一会。その全てが私の師として、砥石のように心身を研磨してくれる。

 
 翌日、また新たな源泉を求め新潟方面へと向かう。

 と、その前に。。長野と新潟の県境、絶対に逃がしてはいけない超絶品B級グルメがある。


                          令和3年11月21日

<大湯>

画像1

<滝の湯>

画像8

<新田の湯>

画像2

画像3

<家族風呂>

画像4

<檜風呂>

画像5

<大浴槽>

画像6

画像7

<次回はこちら>



この記事が参加している募集

一度は行きたいあの場所

この街がすき

宜しければサポートお願いいたします!!