見出し画像

立冬の信越、源泉と美食を味わう⑤【松之山温泉の湯治宿】

<前回はこちら>

 5度目となる松之山温泉。これまでは何れも日帰りでの訪湯、宿泊は初めてとなる。どうもこちらの温泉街、中型から大型の高級志向の宿が多い印象だ。
 一人でも予約が取りやすく、安価な民宿が多い野沢温泉か魚沼地区などで宿を取り、中継地点として立ち寄るのみに留めていた。

 そして宿泊を避けていたもう一つの大きな理由。
松之山は源泉が100度近い高温のため、かけ流しでいただける施設がほとんどないのだ。「加水・循環濾過・消毒液使用」、これらと聞くだけで、少々興ざめしてしまうのは私だけではないだろう。

 
 ただその温泉街の中で、極めて小さく古い「民宿みよしや」は以前から気になる存在ではあった。松之山の旅館群では異彩を放つボロい外観。この地で唯一自炊場を持つ湯治宿だ。
 

 東日本各地の温泉地を回り、やはり行きつくのは「ボロく、安い」方が良い源泉に出会えるということ。日本三大薬湯に数えられる濃厚な湯を、病臥してから本格的に効かせてみたいと渇望していたのだ。


 温泉街に到着したのは2時半。入口の公共駐車場には、これまでに見たこともない車の数。街の中腹にある日帰り共同浴場「鷹の湯」の駐車場も満車だった。入庫待ちの後、鷹の湯向かいの駐車場に愛車を停めて暫し逍遥。

 街中を奥へと進んで行くと、以前は閉めていたと記憶している飲食店が軒並営業している。一方で、かつて日帰り入浴でお世話になった各旅館は感染対策のため立ち寄りが出来なくなっていた。

 
 旅館群を抜け、温泉街の最奥へと進むとここにも湯煙が上がる温泉櫓がある。何度もここに来ており、特に何も起こらないが暫くこの櫓の前に立ち願を懸ける。

 「効いてくれ!!」

 今一度気が引き締まる思いだ。

 ここ松之山温泉は全国的にも珍しい「ジオプレッシャー型温泉」と呼ばれている。専門家ではないので詳しくは触れないが、日本の多くの温泉は火山型(雨水や融雪水が地熱によって温められるもの)。一方松之山は、千二万年前の化石海水が断層から一気に湧出するものだ。

 
 雨水など他の物質と混合しない奇勝な太古の海水。油臭漂うその超濃厚源泉は、手負いの身体にどう影響を及ぼすだろうか。

 
 街の中ほどに位置する「民宿みよしや」。
3時を前に入口を覗くも、電気も点いておらず真っ暗だ。湯治宿や家族経営の宿は良い意味で大らかさがあり、少し早めの到着でもチェックイン手続きなどの対応をしてくれることがある(※本当はダメだが・・)。

 
 戸を開け中に入ると、靴箱の並びに湯治客用の洗濯機があった。セルフスタイル感が良泉との遭逢を期待させてくれる。玄関に暫く立っていても誰も現れないが、玄関すぐの障子戸の奥からテレビ音が聞こえた。

 「すみません」

 
 声を掛けると、若干めんどくさそうではあったが館主と女将さんが対応してくれた。宿帳を記入し、女将さんに部屋を案内していただく。風呂やトイレの場所など説明も何もなく、部屋を出て行こうとする。
 
 踵を返した女将さんに私から声をかけ、館内の位置関係などを聞き出した。少々不案内なこの湯治場の雰囲気に、私は異常に高揚してしまうことがある。

 襤褸い外観に剝れかかった壁紙、無愛想な館主。
こんな宿にこそ、その温泉地で最も良い源泉に浸かれる可能性が高いのだ。

 
 客室は2階に7~8部屋ほど並んでいたが、客は誰もいなかった。温泉街は大変な賑いだったが、こちらだけは静かなもの。県民割などのキャンペーンは、事業者が申請をしないと対象とならない。

 GoToトラベルの時もそうだったが、そもそもの単価が安い湯治宿は適用外が多かった。一人当たり5,000円分の割引となる本キャンペーン。そもそもの宿泊代が三千円台なのだから、当然と言えば当然だ。


 部屋の襖戸には外鍵がなくバリアフリー状態。
各部屋に炊飯器があったのには驚いた。湯治のメッカ肘折温泉や鳴子温泉でも、中々お目にかかることはない。食器類も揃っており、テレビはコイン式だった。


 見たことのない「DYNEX」という家電メーカーのテレビ。100円を投金すると稼働した。だが、度々映像がフリーズしてしまい音ズレも発生。夕刻に日本シリーズを見ている途中にブチっと電源が落ちた。恐らく1時間100円のようだ。
 
 
 予想に反しWi-Fiは入ったが、これは街全体に飛んでいるフリースポット。メールの送受信などは問題なさそうだが、作業をし始めると度々再接続を求められる。持ち合わせのポケットWi-Fiも圏外で、作業内容をかなり限定しなければワーケーションは無理そうだ。


 オールドスタイルの館内、だが意外にもトイレはウォシュレット付きで暖房が入っていた。湯治場のトイレと言えば、真冬になると便座に座るにもスケートリンクに着氷するほどの覚悟が必要だ。

 炊事場も思いの外綺麗で、簡単な調理であれば間に合いそうだ。要所は押さえられている。


 さて、問題の源泉はどうか。

 今年は元旦を鳴子温泉で迎え、ここまで様々な源泉と出会った。
年内あと1ヵ月を残すが、「みよしや」の源泉は、今年最大の衝撃をもたらした。


                          令和3年11月23日  


画像1

画像2

画像3

<次回はこちら>


この記事が参加している募集

休日のすごし方

一度は行きたいあの場所

宜しければサポートお願いいたします!!