春 空 の ア ク セ サ リ
窓の外は隅から隅まで
青いタイルをぴっちりと敷き詰めたような
快い空です。
カーテンを開け放ち、
部屋に
四月の日差しをたっぷり呼び込んで
アイロン台の前に座ります。
休日の午後2時。
まとめて洗ったシャツやハンカチの
アイロンがけタイム。
襟、カフス、腕、肩、身頃と
シャツのカタチに合わせて
アイロンをすーっと這わせます。
裏に返したり、スチームを使ったり、
アイロン台の先端を使ったり。
皺が綺麗にのびていく様子を見ていると
なにか、自分の気持ちまで
整っていく心地がしてきます。
一枚、一枚、と片付けてゆき、
最後に手に取ったのは
職場の制服である、ブルーのシャツでした。
*
ようやく、仕事が見つかり、
仕事と家事を両立する日々が始まりました。
業務、人間関係、生活リズム、とすべてが新しく
その目まぐるしさに追われて
家に帰る頃にはもうクタクタ。
“これは自分で選んだ選択肢”
そんなふうに思ってはいるけれど
こころの中に、弱気な思いが
見え隠れする毎日を送っています。
*
心によぎった色々を落ち着かせようと
すこし手を休め、
ふと、外に目をやりました。
すると、どこからでしょう。
青い空に、透明なシャボン玉が
いくつも、いくつも
ながれてきています。
春の日差しが注がれたシャボン玉は
プリズム色にきらめいて
空はまるで
繊細なクリスタルをあしらったかのよう。
ほんとうにきれいです。
思わず、ベランダへ出ました。
シャボン玉がやってくる方を目で辿ると、
これはどうやら
右下の階に住むちいさな兄妹からの
可愛いおくりものだったみたい。
自由に風に乗って、
たわむれながら
遠くとおく登ってゆくシャボン玉。
見るひとの心を和ませる
春空のアクセサリ。
束の間、
その、さわやかな光景を
深く呼吸をするように
静かに、味わいました。
*
気がつけば
泡沫のように消えていってしまう日々。
それでも、
目に見えない不安に怯えて
目の前の美しさを見失わないように。
こころで味わうことを忘れないように。
大切にしたいことが
くっきりと、胸に湧いてきた
とある晩春の
昼下がりのことでした。
*
これからもあたたかい記事をお届けします🕊🤍🌿