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春 空 の ア ク セ サ リ



窓の外は隅から隅まで
青いタイルをぴっちりと敷き詰めたような
快い空です。


カーテンを開け放ち、
部屋に
四月の日差しをたっぷり呼び込んで
アイロン台の前に座ります。


休日の午後2時。
まとめて洗ったシャツやハンカチの
アイロンがけタイム。


襟、カフス、腕、肩、身頃と
シャツのカタチに合わせて
アイロンをすーっと這わせます。
裏に返したり、スチームを使ったり、
アイロン台の先端を使ったり。

皺が綺麗にのびていく様子を見ていると
なにか、自分の気持ちまで
整っていく心地がしてきます。


一枚、一枚、と片付けてゆき、
最後に手に取ったのは
職場の制服である、ブルーのシャツでした。






ようやく、仕事が見つかり、
仕事と家事を両立する日々が始まりました。
業務、人間関係、生活リズム、とすべてが新しく
その目まぐるしさに追われて
家に帰る頃にはもうクタクタ。


“これは自分で選んだ選択肢”

そんなふうに思ってはいるけれど
こころの中に、弱気な思いが
見え隠れする毎日を送っています。







心によぎった色々を落ち着かせようと
すこし手を休め、
ふと、外に目をやりました。



すると、どこからでしょう。

青い空に、透明なシャボン玉が
いくつも、いくつも
ながれてきています。


春の日差しが注がれたシャボン玉は
プリズム色にきらめいて
空はまるで
繊細なクリスタルをあしらったかのよう。
ほんとうにきれいです。


思わず、ベランダへ出ました。

シャボン玉がやってくる方を目で辿ると、
これはどうやら
右下の階に住むちいさな兄妹からの
可愛いおくりものだったみたい。



自由に風に乗って、
たわむれながら
遠くとおく登ってゆくシャボン玉。
見るひとの心を和ませる
春空のアクセサリ。



束の間、
その、さわやかな光景を
深く呼吸をするように
静かに、味わいました。






気がつけば
泡沫のように消えていってしまう日々。

それでも、
目に見えない不安に怯えて
目の前の美しさを見失わないように。
こころで味わうことを忘れないように。



大切にしたいことが
くっきりと、胸に湧いてきた
とある晩春の
昼下がりのことでした。



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