競馬連載026

「やったね、うしくん」

「先週の重賞を回顧してみた」
編集部Kによる重賞回顧。レースをあらゆる角度から読み、
独自の視点で語ってみる。次走狙いたい馬、危険な馬を指摘しつつ、
なんとなく役に立ちそうなコーナー。ときに自らの馬券の悔恨と反省も。
基本、競馬が終わった、ちょっと寂しい月曜日に掲載。



【第53回スプリンターズステークス】回顧
2019年9月29日(日)3歳上、GⅠ、中山芝1200m


 おもにTwitter上で「うしくん」というあだ名で親しまれてるタワーオブロンドン。白が強調される顔、どことなく愛嬌ある表情や仕草、ちょっとコロンとした馬体、パドックで妙にご機嫌な雰囲気を醸しながら歩くところから「うしくん」といつしか呼ばれるようになった。

 馬に牛ってあだ名はいかがなものかという指摘もしつつ、どうにも仕草がかわいらしく、納得してしまうのがタワーオブロンドン。あだ名とは裏腹に実に2歳から高いレースセンスを披露。キャリア前半でGⅠのひとつぐらい獲るんじゃないかと思ったが、一方であだ名が表すようにちょっとばかりエンジンの掛かりが遅く、GⅠの瞬発力勝負となると、一歩踏み遅れてしまう。

 いつしか「うしくん」というあだ名はじわじわ広まり、あと一歩で頂点を逃す姿にファンはじわじわ増えていった。愛されるのはありがたいが、タイトルを獲得しなくてはならないタワーオブロンドンは瞬発力を補うために舞台をスプリント戦へ移した。結果、これが功を奏し、みんなの「うしくん」はGⅠホースとなった。

 グランアレグリアの回避によって巡ってきたクリストフ・ルメール騎手の存在は結果的に大きかった。ちょっとばかり勝負どころでモタモタする癖があるタワーオブロンドンを知り尽くしたルメール騎手はあえて外を回しながら4角で早めにエンジンを点火させ、直線入り口で鋭く末脚を伸ばさせ、インから手間取ったダノンスマッシュを置き去りにした。進路取りもそうだが、やはりタワーオブロンドンをよく知る騎手だからこそのタイミングでの仕掛けだった。

 スプリンターズSは乗り替わりが勝てないGⅠのひとつ。GⅠは全体的にその傾向が強いが、瞬時に判断を求められるスプリントGⅠでは馬の個性を知り尽くすことが大きなアドバンテージとなる。
 
 秋のGⅠ戦線では大量の外国人短期免許騎手が襲来するが、こうした個性を知り尽くした強みを生かせる騎手起用で日本所属ジョッキーの活躍が見られることを期待したい。

 騎手でいえばモズスーパーフレアに騎乗した松若風馬騎手は乗り替わりながら大健闘だった。騎乗経験こそあるが、これだけの舞台でコンビを組むのは初めてであり、それでいてあの逃げっぷりは彼らしい思いっきりがいいプレーだった。マルターズアポジーらが無謀なハナ争いを仕掛けていなければ、2ハロン目の10秒1をもう少し落とせたのではなかろうか。短距離戦は単純なラップの足し引きで展開が一変するだけに、その部分が最後にタワーオブロンドンを振りきれなかった要因だろう。逆にモズスーパーフレアのマイペースに持ち込ませないあたりがGⅠの厳しさでもある。

 ところで、みんなの「うしくん」はゴドルフィン所属なだけに海外という声もあがりそうだ。せっかく短距離で頂点を極めたわけだから、またマイルに戻してモタモタする「うしくん」になりはしないかという不安と期待がよぎる。


編集部K


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