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軍隊ではない海上保安庁が自衛隊の指揮下に入る?

自民党・萩生田政調会長の「海保が、有事に自衛隊の指揮下に入る訓練を始める準備をしている」との発言(11月21日)が、マスコミで物議をかもしています。非軍事組織である海上保安庁が自衛隊の指揮下に入る訳がない、海保が軍事行動をすることなど有り得ない、というのが海上保安庁の任務を良く知っている人の意見でしょう。

一体どういうことなのでしょうか?

海上保安庁法25条には、「海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むこと」は認められない、と書いてあります。

一方、自衛隊法80条1項では、武力攻撃事態や治安出動で自衛隊が出動する場合には「内閣総理大臣は、海上保安庁の全部又は一部を防衛大臣の統制下に入れることができる」とされ、2項で「内閣総理大臣は、防衛大臣にこれを指揮させる」とされています。

海上保安庁法では、海保は軍隊でないとしていながら、自衛隊法は、武力攻撃事態等では海保は防衛大臣の指揮下に入るというのでは、理解に苦しむのは当然です。

海上保安庁長官は国会答弁では、「武力攻撃事態下において、海上保安庁は、非軍事的性格を保ちつつ、海上における人命の保護など、具体的には漁船の保護、船舶の救難などの人命、財産の保護や、密輸、密航などの海上における犯罪の取締りなどの業務を実施することとなる」と答えています(令和4年11月9日、衆議院国土交通委員会)。

とすると、海上保安庁は防衛大臣の指揮下で、軍事行動ではなく海上における人命の保護など後方支援にあたる、ということになりそうです。

岸田内閣は、防衛力を5年以内に抜本的に強化すること、そのために防衛費の「相当な増額」をすることを目指しています。また自民党は、防衛力強化にあたって、GDP比2%以上を念頭に防衛費を増額するよう求めています。

GDP比2%というのは、NATO加盟国が合意している軍事費の基準で、沿岸警備隊の予算も含んでいることが多いようです。なので、日本も海上保安庁の予算も含めて2%ということにしたい。しかし、NATOの沿岸警備隊は軍事力の一部とされているが、海上保安庁は非軍事的組織である。せめて、海保が自衛隊の指揮下に入る訓練をして、海外向けに軍事力の一部というような体裁を取って、防衛予算に含めよう。これが海保を自衛隊の指揮下に入れる本音だとしたら、単なる数字合わせでしかありません。

国民の生命や生活を守るためには、我が国に対する武力攻撃に備えるための予算を増額しなければならないはずです。あるいは、海上保安庁法25条を改正して、自衛力の一端を担えるようにすることも検討すべきだと言えます。しかしながら、それはたいへん労力の要る仕事で、支持率の低下した岸田政権では荷が重いのは事実です。

だからといって、官僚的な数字合わせをするという姑息なやり方は、我が国の安全を守ることとは程遠いことです。中国が日本攻撃可能なミサイルを2,000発保有していると言われているときに、数字合わせをして本質的な議論をしないというのは、言語道断と言うほかありません。

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