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図書館は飲食禁止です

兎川|彷徨する司書

9月もそろそろ中旬に差しかかりますが、まだまだ暑い日が続く今日この頃。
館内では机の上に水筒やペットボトルを置いている人が目につきます。

私が働いている図書館では、閲覧室内での飲食を禁止しています。
なので、机の上に飲み物を出している状態ってすごく微妙な状況です。
「出してるだけ」「飲んでない」と言われたら引き下がるしかないけれど、出したままの状態だと他の利用者が飲んでいいのかと思ってしまうし、「あの人は飲み物を出してるけど注意しないのか」と別の利用者がカウンターにやって来ることもあります。

なので、

「失礼します。そちらのお飲み物なんですが、館内では飲食をご遠慮いただいておりまして……他の利用者の方が勘違いしてしまうかもしれないので、鞄の中におしまいいただくか、机の下に置いていただけないでしょうか?」

と声かけしています。
利用者の様子を見て言い方は多少変えますが、すごく丁寧に言うときはこんな感じ。

体感で、7割の利用者は素直にしまってくれます。
「やっぱりだめかあ」みたいな、すまないと思っているのと今しまえばいいかと思っているのと半々な雰囲気です。

2割は無言で面倒臭そうにしまってくれます。
駄目だと理解してやっているな……と思いますし、こういう利用者はあとでもう一度巡回しに行ったときや別日にまた飲み物を出していることが多く、ちょっと困った利用者です。

残りの1割。1割と書きましたがそんなに多くはないです。
「どうして飲食禁止なんですか?」と逆質問をしてくる利用者がいます。

飲み物に限らず、図書館で決められたルールに対し異議を唱える利用者は結構います。
理不尽なクレームからルールの見直しにつながる核心をついた指摘まで様々カウンターや投書を通して日々ご意見が寄せられますが、「館内での飲食禁止」についてはどうでしょうか。


私の知る図書館を思い返してみると、おおまかには以下のようなルールになっていた気がします。

  • 公共図書館……飲食禁止

  • 大学図書館……蓋のついた飲み物のみ可

  • アートライブラリー……飲食禁止

閲覧室内での食事はどこも禁止されています。

ちょっと与太話ですが、映画「耳をすませば」には主人公が図書館の売店で昼食を済ませるシーンがあり、尾崎翠の小説「こおろぎ嬢」には主人公が図書館の地下にある食堂でねじパンを食べるシーンがあります。
個人的には、図書館に飲食店があったら害虫が来てしまうのでは? と思ってしまうのですが、あえて飲食スペースを設けることで閲覧室内での飲食を防ぐ面もあるのかなあと最近は考えています。

主に大学図書館で、蓋のついた飲み物のみ可としている図書館もありましたが、どうして蓋がついていれば良いのでしょうか。

先ほどの「なぜ図書館内で飲食をしてはいけないのか?」という利用者の質問に対して、私は

「こぼしてしまったときに本が汚れるのを防ぐためです」

と回答しました。
もう少し突っぱねられたら、「ボトルの水滴が落ちることもありますので……」と言おうと考えていましたが、幸い納得してもらえたようでその利用者は机の下に飲み物を片付けてくれました。

けれども、蓋つきの飲み物を可としている図書館では、上記のような注意をされることはないわけです。
だから先ほどの利用者も、「どうしてあの図書館ではいいのにこの図書館ではだめなんだ?」と思ったからこそ、質問をしてきたのでしょう。
郷に入っては郷に従ってもらえないだろうかというのが本音ですが、気持ちは分かります。

蓋がないカップで飲んでいたら、ふとした拍子に中身をこぼしてしまう可能性が高いという想像がつくのは分かります。
けれど蓋つきの飲み物だって、飲む時には蓋を開けるので中身がこぼれる可能性は大いにあります。
「液体が入った容器」であることに差異はないのに、なぜ区別されるのだろうか? と疑問に思いました。

そこで私が思い至った結論は,多分重要なのは容器の形状ではなく、図書館の性質に依存して飲食ルールが決められているのではないだろうか? ということでした。


まず大学図書館で蓋つきの飲み物が認められている理由ですが、以下の3点が考えられると思います。

  1. 利用者の滞在時間が長い

  2. 資料がより頻繁に使われることを想定している

  3. 運営を税金に依存していない

※全て持論なので信頼できるエビデンスがないことにご注意ください。

まず1点目についてですが、大学図書館の利用者はレポートを書きに来た学生か調査研究をするために訪問した外部の研究者か大学教員が大半です。
中でも多いのはレポートを書きに来た学生。必然的に滞在時間も長くなります。
滞在時間が長ければ、水分補給もしたくなるものだと思います。

公共図書館では、ほとんどの利用者は本を借りるために来ています。
書架をブラウジングして、借りたい本を選んで、貸出処理をしたら帰っていく利用者がほとんど。
図書館で借りた本は家やカフェでゆっくり読む方も多いでしょう。(図書館の本をながら読みして欲しくないのもまた本音ですが)
なので、長く滞在する必要性はほとんどありません。

ところが、中には本を借りない・見ないで、パソコンやノートを持ち込んで作業をしに来ている利用者も少なくありません。
このような利用者は大学図書館の「レポートを書きに来た学生」に近い属性を持っています。
従って、公共図書館には滞在時間の長い利用者と短い利用者が混在していることになります。
そして、体感として飲み物を「机に置いている」利用者というのは、大抵が何か作業をしている利用者……相関関係がありそうな気がします。

そこで2点目。
大学図書館では、学生の勉強に役立ててもらうため、資料が頻繁に使われる=貸し出されたり複写されたりすることを想定して資料を提供していると思います。
資料が使われるということは、資料の劣化を早めるということでもあります。
ということは、多少水濡れ等で資料が傷んだとしても致し方なしとして許容することを折り込み済みだから蓋つき飲み物を許可しているのでは? と思いました。

公共図書館でも利用者の利用に供するために資料を収集・提供してはいるので上記の点では同じです。
しかし大学図書館と異なるのは、地域に根ざす公共図書館には、郷土資料を保存しておくという役目があることです。
郷土資料は一般流通している書物と異なり、個人出版の本だったり地域限定の配布物だったりしてそもそもの絶対数が多くありません。
もちろん保存用と閲覧用に、多めに受入していますが閲覧用資料に汚破損や紛失があった場合、閲覧用として提供できる資料がなくなってしまいます。
そういう本を水濡れから守るために、飲食禁止としているのではないでしょうか。

本を守りたい図書館と、館内でくつろぎたい利用者のミスマッチゆえに、「館内では飲食禁止です」vs「どうして飲み物を飲んじゃいけないんですか?」が発生するのではないかなあと思いました。
大学図書館では多分そのミスマッチが起こりにくいんですよね。

ちなみに。
私の知る大学図書館は全開架式で、学生でも自由に手続き不要で書庫に出入りし、そこで作業をすることも出来ましたが、書庫内では飲食禁止・書庫外では蓋つき飲み物のみ可というルールでした。
このことからも、保存用資料と頻繁に利用されることが前提の資料とで、水濡れから防ごうとする基準が違う気がします。

そして3点目。
「水濡れしたら新しいものを買えばいいんじゃない?」
「汚れてもいいように多めに買っておけばいいんじゃない?」
というような声もあるかと思いますが、どの図書館もそんなにお金がないというのが実情です。
あと複本を置いておくよりは様々な本を揃えたい。

とくに公共図書館では、その運営費は税金で賄われているため、資料は公共の財産という意識が強く、また色んなものを買うのに手間がかかる申請が必要です。
利用者が借りて行って家で汚しました、という事例ならともかく、もし館内でコーヒーをこぼして書架のここからここまでの部分とカーペットが濡れました、とかの事件が起こったらと思うと……

大学図書館では蓋つき飲み物ならまだ汚れる心配は少ないだろうと許容できても、公共図書館では「館内では飲食しないでください」とお願いするのが結局一番楽なのです。

大学図書館はもう少しフットワークが軽いのではと思いますが、もちろん大学図書館だって学生の学費で資料や備品が購入されています。色々購入するために申請が必要なのも変わりないでしょう。
とにかく図書館の本はみんなの財産なんだから、大切に扱って欲しいのです。


というわけで、ざっくり結論としては

  • 大学図書館はそもそも飲み物飲みたい層が利用者の多くを占めることが想定されている上に、提供資料の汚破損リスクも加味した上で飲み物可としている。ただしなるべくリスクを抑えるため蓋つきに限る。

  • 公共図書館はなるべく低コストで資料保存・提供したいため飲食禁止だが、飲み物飲みたい層の利用も多い。

という感じになりました。

利用者の一言から飲食ルールについてちょっと考えるきっかけになりましたが、それはそれとして飲み物飲みたい層は飲み物飲めるところでくつろぐか諦めて飲み物しまってください

以上です。
読んでいただきありがとうございました🙏


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