2週間前に出会った男と何やかんやあってオサラバした。

 何度かきたメッセージを何度か返さないようにしたら、本日「お世話になりました」とだけきてブロックされていた。

 いい人だったし、身長も高くて顔も良くて頭も良くてたくさん努力もしてる人だったけど、まぁオサラバするような理由もそれなりにあった。

 会って2週間の人だし、そこまで落ち込むこともない。こういったことを、もう何度もループしている。

 気分転換にカフェで本を読んだ。

 おばさまたちが多くて、飼ってる犬の話とかその場にいない友人とのLINEの話とかをしている。

 大きな珈琲を頼んで、昨日買ったエッセイ本を読む。集中したりしなかったりを繰り返しながら読み進めていると、隣からいい匂いがしてきた。

 見ると、隣の若い男性客がピザトーストを頬張っている。さく、さく、さく。彼がピザトーストをかじる音が、音楽のように響いている。

 おばさまの声とピザトーストをかじる音がだんだん心地良くなってきたところで、隣の人が席を立った。

 私はまた本に目を落とす。隣の人が戻ってくる。

「お待たせしました」

 間をおいて隣のテーブルにカツサンドが運ばれてきた。すごい食べるじゃん。本を読むふりをしながら意識が隣に吸い寄せられる。彼はカツサンドをほおばり始める。ソースの甘酸っぱい香りがしてくる。

 秘密の話になったのか、おばさまが声のボリュームを落として顔を近づけながら話し始める。珈琲をひと口飲む。

 なんか、そういうのが、全部。

 全部生きてるなって感じがして、急に泣けてきてしまった。また本を読むふりに戻る。

「1番好きな友達はどんな人?」

 2週間でオサラバした男に、ふと言われたことを思い出す。ご飯を食べている時。急に。

 途端に頭の中に自分の好きな人たちが浮かんで、好きな人たちの好きなところでいっぱいになった。

 たぶん当たり障りのないことを言ったと思うけど、その瞬間をくれたから、ありがとうと思ったよ。

 それじゃあね。お世話になりました。



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