とあるリスナーからのおたより。

 Podcast『こじらせゲイのひとりごと』第26回より。


 おはようございます、こんにちは、こんばんは。こじらせゲイのダイキです。皆さんいかがお過ごしでしょうか。この番組は都会の隅っこで暮らすしがない拗らせゲイ男子の僕が、リスナーさんからのおたよりを中心に気ままにトークするゆるゆる雑談番組でぇす。番組の感想はハッシュタグ『#こじゲイ』でつぶやいてくださいますと尻尾振って喜びま〜す。

 はい、今週も始まりましたけれども、もう26回ですか。去年細々と初めたこの番組なんですけれども段々と聴いてくださる人も増えてきて、友達なんかにも「聴いてるよ〜」って言われたりしてすごく嬉しい限りですね。そろそろ30回も見えてきたし、その時に何かしようかな。何が良いかなぁ。ゲスト呼ぶとか? 誰か出たい人いますか。いるわけないか、こんな弱小底辺番組に、ははは。もし出てやっても良いよ〜っていう神がいらっしゃいましたらDMしてくださ〜い。ははは。

 みなさんは今日どんな1日でしたか。僕はといいますと、最近はもっぱらリアルリアルの毎日で先日もすごく可愛い子とリアルしたんですよ。あ、リアルってわかりますか。マッチングアプリとかで出会った人とリアルで会うってことです。これってゲイ用語なのかな。まぁいいや。それでこないだの金曜日にめっちゃ可愛い子とリアルしてすごく良い感じなんですよ〜。これは3年彼氏なしの僕にも春が来たのかなぁ。

〈インターホンの音〉

 あぁ、すみません。何だろう。もう。

〈椅子から立ち上がり、遠ざかる足音〉

〈数秒の無音の後、椅子に座る音〉

 宅配便でした。多分実家からですね。米とか肉とかよく送ってくれてありがたいんですけど、タイミング悪いなもう。空気読んで欲しいです。はは。それともお前の惚気話はつまんないからカットってこと? 母さんに操作されてる? この番組。なんて。はははは。

 さぁそれでは今回も皆さんからのおたよりを読ませていただきます。いつもありがとうございます。みなさんからのお便りは全て読ませていただきたいのでどんどん送ってきていただけると嬉しいです。

 こじらせネーム「バーガー王子さん」からのおたよりです。

「毎週楽しいラジオを聴かせてくれてありがとうございます。バーガー王子と申します。ダイキさんの優しい声と軽快なトークが心地よく、更新されるのが毎回すごく楽しみです。」

 あぁ、こちらこそありがとうございます。励みになります。

「さて、私事ではありますが最近彼氏ができました。恥ずかしい話なのですが生まれてこの方、僕には恋人というものができたことがありませんでした。というのも、僕自身ゲイということを受け入れられたのがかなり遅く、男性と恋愛をしようなどという考えに及んだことすらありませんでした。ちょっと前まで女の子と無理をしてでもお付き合いをして、結婚しなければならないんだと本気で思っていたので、彼氏ができるなんて何だか不思議な気持ちです(笑)」

 素晴らしいですね。無理をして女性と付き合ってもお互いのためにならないし、傷つく人が増える一方ですからね。初彼氏、おめでとうございます!

「彼氏と初めて出会ったのはとあるゲイナイトの会場でした。その日、僕は友人に誘われて飲みに出ていたのですが、お酒が苦手だったので端の方でソフトドリンクをちびちび飲んでいました。友人はというと、クラブに行き慣れていて、早いうちからテキーラショットを何杯も飲み、会場に来ていた知り合いに声をかけられ、あっという間に僕の前から消えてしまいました。爆音の音楽が鳴り響く中、ひとりぼっちになった僕はどうすればいいのかわからず、帰るわけにもいかないのでただ音楽に身を任せているふりをしていました。正直、流れている音楽はどれも知らない曲ばかりでした。

 彼と出会ったのはその時です。うるさい音に耳がおかしくなってきたので少し離れたところに行こうと歩き出したところ、前から来た人にぶつかってしまいました。気を抜いていたところだったので、僕は持っていたドリンクのコップを落としてしまいました。といってもドリンクはほとんど飲みきっていて、床にこぼれたのはほぼ氷だけでした。するとぶつかってきた彼は慌てて『わぁ、ごめんね! どうしよう。弁償します』と氷を拾いながら言いました。僕は大丈夫ですと断ったのですが、彼は『そんなわけにはいきません』と言い、強引に僕の手を引いてバーカウンターへと向かいました。彼の掴んだ手が妙に熱く、さっきまでうるさいくらいに感じていた音楽が遠くなっていくような気持ちがしました。

 それから僕たちは少しだけ会話をしました。うるさいナイト会場ですから、お互いに聴こえるように顔を近付けて話しました。彼からは甘いお酒の香りがして、僕はすごくドキドキしました。こんな気持ちは、小学校の頃に担任の若い男の先生に感じた以来のことでした。先生は既婚者でしたが、ある朝、図工の時間のために用意した段ボールをたくさん持って登校していた僕をこっそり自分の車に乗せてくれたことがありました。車の中は芳香剤とほのかにタバコの匂いがして、なんだかドキドキしたことを今でも覚えています。彼に対する胸の高鳴りは、そのときと全く同じでした。

 彼と連絡先を交換した僕は、さっそく彼をデートに誘いました。うそです。僕からは誘えませんでした。恋愛経験などまるでなかった僕は、彼からの連絡を待つ以外に、どうすればいいのかわからなかったのです。数日間、スマホを確認しては何も届いておらず、落胆のため息を何万回もつきました。やっぱりクラブでちょっと話した程度の男のことなんて、覚えてるはずがないよな。そう思うと妙に期待していた自分が恥ずかしく、痛い人間のように感じました。あぁ。ばかばかしい。もうどうでもいい。僕は自暴自棄になっていました。今思うと、何も始まってもないのにあんなにも感情が上がり下がりしていて、その様子は側から見ていてさぞ滑稽だったと思います。それでも僕は、恋をしていたのです。

 彼から連絡が来たのは、5日後のことでした。

『お疲れ様です! こないだのナイトで話した奴なんだけど、覚えてますかね?笑 もしよかったら今度お茶でもしませんか』

 天にも昇る気持ちとはこのことを言うのでしょう。じゅわりと甘い蜜が胸の中を見たし、これまでの鬱々とした気持ちが一瞬で晴れ渡ったような気がしました。僕は鼻息を荒くしてすぐにメッセージを返しました。もちろん答えはイエスです。絵文字は多過ぎず、スタンプも狙い過ぎていないやつを添えました。返信は少し待った方が駆け引きになるとか言いますが、それは我慢ができませんでした。

 翌日の夜に、僕たちは新宿の居酒屋に集合しました。彼はタバコが吸いたいということだったので、半個室で話しやすくタバコが吸える店を選びました。僕はお酒が飲めないので、欲を言えばおしゃれなご飯屋さんとかがよかったのですが、彼は気軽に会いたい派だったようです。店に到着して、彼は最初にビールを二つと、おつまみを適当に頼みました。すぐに届いたビールのひとつが僕の前に置かれ、彼が『乾杯』と、ジョッキを差し出してきました。お酒が苦手なことを言いそびれてしまいましたが、ここは空気を読んで僕はビールをぐいっとあおりました。冷たくて苦い液体が喉を通過し、胸が熱くなりました。いつもならそこで不快な気分になるのですが、彼と一緒だと思うとそれもまた愛しいと感じました。僕たちはそれからたくさんおしゃべりをしました。彼の仕事のこと、彼の好きな食べ物のこと、彼の好きなタイプのこと。お酒も回ってきて、僕は彼のことばかり聞いていた気がします。

 気がついたらトイレにいて、キスをされていました。
 お酒と恋に酔っていて経緯は覚えていないのですが、駅のトイレの個室に2人で入ってキスをしました。個室の外には人がたくさん行き交っていて、そんな中で僕たちは貪るようにお互いを求め合いました。彼の口づけはタバコとビールの味がしました。ダイキさん、モラルのない迷惑行為を許してください。反省しています(笑)

 彼はそのまま大きくなった僕のモノに触れました。こんなところでやるのか、と僕は一瞬焦りました。外には人がたくさんいるし、あまり怪しいことをすると駅員さんがきてしまうかもしれません。僕は彼にホテルに行かないかと提案しましたが、彼は『もう終電近いから今度ね』と耳元で囁きました。その声が心地よくて、僕はさらに興奮してしまいました。そういえば彼の声って、なんとなくダイキさんに似ているような気がします。だから僕はこのPodcastが好きなのかもしれませんね。僕はそのまま、トイレの中で彼にイかされました。彼はトイレットペーパーで手を拭って、先に外に出て行きました。一緒に出ると怪しまれますからね。床に飛び散った精液を拭いて、僕もトイレを出ました。終電ギリギリだったため、僕たちは早々に別れました。もう少し一緒にいたかったけれど、仕方ありません。

 帰りの電車で、僕はこの上ない幸福に満たされていました。好きな人と結ばれると言うことは、なんと素晴らしいことなのでしょう。冷え切っていた体が、ぽかぽかと暖かくなるような心地の良さ。終電に乗り合わせた全員にこの幸せを分けてあげたい。本気でそう思いました。僕はさっそく彼に今日のお礼のメッセージを送りました。今度は勇気を出して、文末に『また遊びましょうね』と添えました。既読はすぐについて、彼から『了解!』とネコのキャラクターが敬礼をしているスタンプが届きました。少し強面な彼に似合わない可愛いスタンプのチョイスに、思わず僕はにやけてしまいました。

 その日の思い出だけで、二週間ほど僕はニヤニヤしていたと思います。初めてできた彼氏と次はどこにデートしようかなんて考えていたら、仕事が全く手につかず、なんども上司に怒られました(笑)前は居酒屋デートだったから、今回は僕の要望も聞いてほしいな。次はちょっとおしゃれして景色の良いレストランで気取った食事をするのもいいかもしれない。慣れないレストランにドギマギする彼の表情を想像すると、また笑みがこぼれてきました。

 彼とのメッセージは二週間前にスタンプが送られてきたっきりです。僕自身本当は四六時中メッセージを送り合いたい派なんですが、彼はそう言うタイプじゃないと居酒屋でも言っていたので、この二週間は意味もなくメッセージを送るのを我慢していました。声が聞きたいなと思い、一度電話をしてみたことがあるのですが、忙しい時間だったのか繋がることはありませんでした。そろそろ次のデートに誘ってみてもいいかもしれない。僕はSNSを駆使して素敵なレストランを探し出し、意を決して彼に連絡をすることにしました。彼の喜ぶ顔を思い浮かべながら、メッセージを送ります。想いが溢れ過ぎて長くならないように簡潔に。胸の高鳴りを鎮めながら、送信ボタンを押します。すぐに既読がつきました。嬉しい。彼もまた、僕のメッセージを心待ちにしてくれていたのです。僕は彼の返事を待ちました。しかし、仕事中にスマホをいじるなと上司に怒られ、渋々スマホをポケットにしまいました。

 15分後、どうしても気になってトイレ休憩のふりをしてスマホを確認しました。彼からのメッセージはありませんでした。あれ。既読はついているのに返信がまだです。きっと仕事が忙しいのでしょう。こんな時間に誘ってしまってすごく申し訳なくなりました。僕は慌てて謝罪のメッセージを送りました。今度は既読もつきませんでした。仕事が終わっても、3時間経っても、次の日になっても、既読はつきませんでした。

『ごめんね、レストランの予約の時間とかも決めちゃいたいから、お返事いただけると助かる〜!』

 僕はもう一度メッセージを送りました。きっと彼にも事情があり、メッセージを返せない状況なのかもしれません。それなのに催促のメッセージを送るなんて、図々しい奴だと思われていないだろうか。僕は心配になりながらも、彼からの返信を待ちました。それでも、既読はつきませんでした。もしかして何かトラブルに巻き込まれたのかもしれない。僕は心配になりました。だとすれば、彼は今も僕の助けを待っているのかもしれません。

 しかし、僕は彼の住所を知りませんでした。まだ2回しか会ったことがないのですから、仕方がありません。彼氏のくせに大切な人のピンチに駆けつけてあげられないことが、悔しくて悔しくてたまりませんでした。

 それでも僕は諦めませんでした。彼と出会った新宿に行けば何かわかるかもしれません。新宿には彼の友達もいるかもしれない。クラブで彼と会った時に一緒にいた彼の友人の顔を、なんとなくですが覚えています。彼らに聞けば住所もわかるかもしれない。居てもたってもいられず、僕は新宿へと向かう電車に飛び乗りました。

 金曜日ということもあり、新宿は人で溢れかえっていました。誰もが楽しそうに笑っていて、僕は腹立たしくなりました。こんな時に何が面白いんだろう。ただの八つ当たりなのはわかっています。それでも許せませんでした。僕は道ゆく人にぶつかりながら、彼の友人の姿を探しました。いないいないいないいないいない。どこにもいない。あああああああああああ。どうしたらいいのでしょう。彼はこうしている今も僕の助けを待っているのです。僕は頭をかきむしりながら走りました。

 気がつけば、見覚えのある店の前にいました。僕と彼が初めてデートしたあの居酒屋です。思い出の場所。お店を見上げていると、なんだかあの日が遠い過去のように感じて、涙が込み上げてきました。

 ふと、二階の窓際の席に座るお客さんに違和感を感じました。涙を拭って目を凝らしてみると、それは彼でした。彼は楽しそうにお酒を飲んでいました。楽しそうにタバコをふかしていました。向かい側には知らない男がいました。知らない男はハイボールを飲んでいました。知らない男は枝豆を食べようとしてうまく口に入らず、床に落としていました。彼はそれを見て笑っていました。知らない男も笑う彼を見て笑っていました。ふたりはそれから2時間その店で飲んでいました。知らない男は大きなハイボールを6杯も飲んでいました。彼は『付き合うならやっぱ一緒に酒飲めるやつがいいなぁ』と嬉しそうに言いました。知らない男はそれで調子を良くしてもう一杯頼んでいました。閉店まで居酒屋にいたふたりは店を出て、酔った体を互いに支え合いながら歩き出しました。酔った2人は照れることもなく手を繋いで歩き始めました。すれ違う人が一瞬彼らを見て固まりますが、そんなこと2人にはどうでもいいといった感じでした。彼らはそのまま新宿二丁目に向かって行きました。そのまま彼の行きつけのゲイバーで3時間お酒を飲んでいました。深夜過ぎ、彼はふらふらしていましたが、まだ意識はありました。彼は知らない男の手を引いて、また歩き出しました。僕はクラブで彼に手を引かれたあの日のことを思い出しました。ホテルに入ろうとする彼に、僕は声をかけました。振り返った彼は僕の顔を見て一瞬首をかしげましたが、すぐに笑顔になりました。

『あぁ。お久しぶりです〜またこんど飲みましょうね』

 そう言って僕に手を振りました。知らない男は僕の顔をチラリと見て、すぐに目を逸らしました。彼らはすぐにまた振り返り、ホテルへと入って行きました。

『今の、知り合い?』

『こないだ一回だけ飲んだ、人』

『そうなんだ』

 そう言って笑う知らない男の声は、どこかで聞き覚えがありました。

 なんだか想いが溢れてしまって、たくさん書いてしましました。ダイキさんも過去最長のお便りにさぞ驚かれてることと思います(笑)でも、ダイキさんにはどうしても知って欲しかったんです。あなたには聞いて欲しかったんです。お前には絶対に読ませたかったんです。お前。お前だよ。お前。

 このおたよりと一緒にダイキさんへのプレゼントも送りました。もう届いてる頃でしょうか。

 あの後、僕はもう一度彼に会いました。何度もメッセージを送ったんですが既読無視された挙句ブロックされたので仕方なく仕事帰りを狙って家まで着いて行きました。居酒屋で仕事のことは聞いていたので、案外時間をかけずに済みました。玄関の前で声をかけた時の彼の顔、忘れられません。

 彼の部屋の中はタバコの匂いがして、担任の先生の車の中を思い出しました」

〈椅子から立ち上がる音〉

〈段ボールを開ける音〉

〈男性の叫び声〉


※以後、Podcast『こじらせゲイのひとりごと』は更新停止。第26回のみ無編集でアップされていたが、誰が公開したのかは不明である。

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