大武法者時代
荒野。太陽は天頂。横倒しの駅馬車。
周囲には御者、護衛、乗客の死体。生者は私と三人の無法者だけ。
そこに何処から現れたものか、また一人生者が増えた。
牛追帽に外套を纏った少女は恐れを知らぬのか、無法者たちに問うた。
「武法に背く御法度と知っての狼藉か?」
少女が脱ぎ捨てた外套は風に舞う。
その下からは牛追靴に極度に短く切り詰めた青帆布袴、腰の銃帯には大小二本の刀、たわわに実る果実の如き胸を覆うは僅かばかりの布地であった。
畳三枚分の距離。
その豊満がたゆん、と波打つ。
油断無く拳銃を構えていた無法者の視線は彼女の得物から胸へと滑る。
滑らされる。
一閃。
「え」
一体何が起こったのか理解出来ず、宙を舞う首が叫ぶ。
魔技・揺乳!
「こいつ、サムライだ!」
その後方で此れから起こる筈だった殺戮ショーに粘つく笑みを浮かべていた仲間が、事態の異状さに気付き小銃を構えようとした時、既に喉を刀身が貫いていた。
女は一人目の無法者の頸を切断した勢いで弧を描き、胸の重量も遠心力に乗せて得物を投擲したのだ。
その速度は最早常人の知覚出来る範疇に非ず。
魔剣・乳流!
「な!?動くな!動けばこいつの頭をぶっ飛ばす!」
人質の頭に…私の頭に散弾銃が突き付けられる。
「助けて下さい」
声を絞り懇願する。
「カタナを捨てろ!早く!」
「……」
観念したのか、彼女は脇差しを足元に投げ捨てた。
「手を上げ」タターンッ!
軽い銃声二連。
彼女の手にはいつしかデリンジャーが。
まさか胸の谷間に隠し持っていたのか?
隠技・乳鉄砲!
男は片眼を潰されながらも銃口を彼女に向け…だが遅かった。
既にその頸は切断されていた。
「御侍様、有難う御座います。お陰で」
彼女が此方を向いたかと思うと、先程まで私の首の有った位置を白刃が通り過ぎていた。
「お前、私の動きが見えていただろ?」
三回後方回転をして距離を取る。
「此れがテキサス☆タイ捨流ですか」
「名乗れ」
「四代目小太郎、メキシカン風魔頭領」
【続く】
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