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コミカライズするときには「方針」を決めよう 魅力的なプロット作りの基本④

ある題材をプロットにするときに、前回書いたようにアレンジを「加える」ことも必要ですが、今度は逆に「この要素はいらないな」と「削っていく」作業も必要になってきます。

このいる要素/いらない要素をどうやって判断するか、を僕は自分で決めた「方針」に沿って決定して行きます。



「方針」などといってもやたら小難しいスローガンを決めよ、といっているのではありません。


例えば、僕が古典落語を題材にコミカライズするときに決めた「方針」は「噺のオモシロさそのものだけをマンガにする」でした。


一見とても当たり前だし、シンプルにすぎる、と思ってしまうでしょう。


「方針」とはこれくらいシンプルな方がいいのです。


例えばあなたが自分のオリジナルストーリーをプロットにしていく場合を考えて見ましょう。
あなたが作品を作り上げていくとき、きっとキャラに思い入れが強くなりすぎてそのキャラが(勝手に動き出して)暴走したり、物語を追いかけていくうちに横道にそれたりすることもあるでしょう。そうすると、ここで死ぬべきキャラが無理やり生き残ったり(下手をすると生き返ったり)、最初はギャグマンガを描きたかったはずなのに気付いたらバトルものになってた…なんてことも。
しかし先に「方針」を決めておけば、「ああそうだ、私はこんな物語を作りたかったのだった、だけど今のプロットはその方針から外れているな」という風に見直しがきくのです。
”針”の字が象徴しているように、まさに作品づくりの「羅針盤」の役割を果たしている、といえばうまく伝わるでしょうか。


「テーマ」とは違うのか、と言われそうですが、明確に違います。

例えば僕が「まんがで読破 地獄の季節」を作っていた時の「方針」は「BL青春ラブストーリー」でした。これを「テーマ」とは言わないでしょう?


世間に多く出ているコミカライズ作品をみてみると、この「方針」を決める、というやり方(手法の呼び方がなんであれ)がちゃんとできていないのかな?と思われる作品もあって、マンガの中に描かれている事物は確かに原作の中に書かれていることだけども、あれもこれもと要素を詰め込みすぎていたり、一字一句を漫画にしようとしていたりで散漫な印象になり、結果マンガそのものが面白くない、ひいては原作の印象もマイナスになる…、という残念な作品も少なくないのです。
つまり「文章」を「漫画」にうまく翻訳できていないわけですね。エクストリーム翻訳みたいなものです。



さて、いざ古典落語をマンガにしようと思っていろいろと情報を集めたり調べたりすると、落語という文化そのものが深みを持っているため、ひとつの噺を取り巻くあらゆる要素がとても魅力的な素材だらけなわけです。


ひとつの噺にまつわる要素があまりに魅力的な素材に溢れているため、プロットにしようとするときに、あれも入れたいし、これも入れるべきでは…などと悩んでしまうことがしばしば。

そういうときに先に決めておいた「方針」によって、いる要素/いらない要素を判断し、バッサリ切っていくことができるわけです。



それでは実際にコミカライズの例をみてみましょう。

この記事では、古典落語「猫の皿」をコミカライズしたものを例にしてみます。

まずはあらすじを読んでみてください。

古典落語「猫の皿」

さて読み終えましたか?面白いですよねー。大好きなんです、この噺。


ではまず、自分でプロットを組み立ててみてください。その際はぜひ先に「方針」を立てましょう。


いかがでしょう、うまくプロットを作れましたか?




それでは僕の作ったプロット作成の過程をみて行きましょう。


落語を実際に聞いてみると、噺に入るまでの導入にまくらが語られたり、噺に関わるうんちくを交えたりして、一つの演目に結構なボリュームの情報が詰まっています。

この「猫の皿」という噺だと、端師(はたし)という目利きがモノの価値を知らない田舎のおやじを騙して高級な骨董品を手に入れようと悪巧みを巡らせるが、実はおやじの方が一枚も二枚も上手の知恵もので…という噺ですよね。

噺の中で、端師(はたし)という耳慣れない職業のうんちくや高麗の梅鉢についての情報などがふんだんに語られていくわけです。


これらは「落語の文化」をマンガにする、という「方針」を僕が立てていたなら是非とも取り入れて行きたい要素ですが、僕は先に「噺のオモシロさそのものだけをマンガにする」という「方針」を決めていたので、それに沿って描くべき要素を絞っていってプロットを作りました。


僕がこの噺の「オモシロさ」だと感じる肝は、端師(はたし)と茶店のおやじの知恵比べと、そして最後におやじの悪知恵の方が凄まじかった、ということが一発でわかる「オチのセリフの鮮やかさ」だろうと考えました。


その「方針」を中心にプロットを組み立てていくと、噺に含まれている情報はボリュームがあるが、噺自体は皿を前にした端師(はたし)とおやじのやり取りだけという、ほとんど動きのない地味なものです。

それに端師(はたし)についてのうんちくや骨董に関する情報は特に伏線にもなっていない訳で、プロットに取り入れるとやや冗長になると考えました。そこでその部分はバッサリとカット。


すると端師(はたし)という名称についてはなんの説明も入れないことになるので使用すること自体をやめて、代わりになるだけ簡潔に読者にわかりやすく伝えるために「古道具屋」という名称に変更したのです。骨董を扱うプロということがぼんやりわかれば良い、という設定にアレンジしたわけですね。


すると僕のプロットはこうなりました。


いかがでしょう?元の噺よりはずいぶんスッキリした作りになっていますね。

登場人物のやり取りとオチの鮮やかさだけを際立たせようと意図した結果、先に決めていた「方針」によっている要素/いらない要素を判断し、こんなプロットに落ち着いたのです。



言わずもがなですが、あなたが作ったプロットが間違いで、僕のプロットが正解などということではありません。

あなたが立てた「方針」によってプロットの様相もかなり違うはずですもんね。

そうすると全く同じ原作でも、一味もふた味も違う味わいのコミカライズ作品が並ぶことになるのです。贅沢な話だ。

しかし、もしあなたがなんの「方針」も立てず、一字一句アタマからプロットにしていたら、それは確実に失敗する、ということは断言しておきます。先にも書いた通り、それはエクストリーム翻訳に過ぎないので、漫画として成立しないからです。


いかがでしょう、「方針」を決めることの重要性がうまく伝わったでしょうか?

この「方針」を決める、というのはほんとに重要で、特に文学作品ではないコミカライズ、例えば宗教書や経済論文など、「そもそも物語ではない」題材をマンガにするときには最重要と言っても過言ではないでしょう。これはまた「マンガでわかる」系のコミカライズの作り方を説明するときに詳しく書いてみたいと思います。





それでは「猫の皿」のコミカライズをご覧ください。



お後がよろしいようで。





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