いつかギャングと銃犯罪がなくなる日を夢見て

「パン、パン、パーン!」

夜8時過ぎ、いやなタイプの銃声がした。

よく聞こえてくる単発なら試し打ちだろうなぁと流せる。今回はたぶん誰か撃たれたんだろう。こういうの、ニュースにもならない。

ちょうど2週間ほど前、ぼくがよく乗り降りするバスターミナルから徒歩1分のところで拳銃殺人事件があったばかり。夜8時過ぎのことだった。

被害者は22歳のギャングの青年。前年、首を撃たれて生還していたこともあり今回もギャング同士の抗争として処理されている。世論は、殺された青年の自業自得となっているようだった。その青年も何人か撃っていて恨みをかっていたらしい。

セントビンセントの治安は周りのカリブ諸国と比べると良いとされているけれど、人口10万人あたりの殺人率だと世界第8位で堂々のトップ10入り。

日本の150倍以上の殺人率。

けれど、これ一応最新データということになっているけれど、4月頃に政府から発表された2018年のデータだとたしかもっと減っていたはず。それでも日本の80倍くらいだろうけれど。

治安は良いとされている理由は、そういう凶悪事件はギャング絡みであることが大半で、一般人には縁がないとされているから。日本と比べるとそんなことは決してないのだけど。

ギャング同士は縄張り争いで殺し合いをしてるけど、そこから離れていれば安全だよね理論。危ないエリアには近づかないで。暗くなる前に帰りましょう。夜は出歩かないで。

ここセントビンセントの離島部分、グレナディーン諸島はアメリカへ密輸される麻薬の中継地として使われていると言われている。南米でつくられたコカインを積んだ飛行機がこのあたりで給油に立ち寄るということなんだろうと思う。

そりゃあギャングの縄張り争いも起こるよなあ。だってその給油を仕切れれば、ほとんど何もせずともお金がじゃんじゃん入ってくるんだから。その莫大な不労所得は魅力的過ぎる。

日本もかつての仁義なき戦いの時代は抗争で発砲事件も頻繁に起こっていたようだけれど、今じゃ暴力団自体絶滅しかかっている。

経済発展すれば、そういった稼業は割に合わなくなっていくものだとぼくは思っている。

セントビンセントの悲劇的な点は、麻薬の出荷元が発展してくれないことには永遠と中継地となってしまうことだろう。自分が頑張ったところで、産地の地域が貧困である限り現実は変わらない。ギャングは存在し続け、抗争は続く。

4年ほど前の話だけれど、大阪で出会ったペルー料理屋のオヤジさんは「日本はヤクザおるけど、ペルーに比べたら天国みたいなもんや。ペルーでこんなふうにレストラン始めようと思ったら何人もみかじめ料払え言うて来よるで。日本は1か所だけでええし、ちゃんとなんかあったら守ってくれるさかいな」と言った。

お酒が入っていたし、おっけーアミーゴ!みたいなノリでひたすら陽気だったからどこまでほんとかわからないし、何年前の話なのかもわからないからその時点でoutdatedだったのかもしれないけれど、いっしょにいた中南米に滞在歴があってペルーに彼氏が住んでいる友人も同調して「新しいことを始めるのには難しいと聞きますね…」と言っていたから一定の事実はあるんだろうと思う。

トルストイは「幸福な家庭は互いに似ているが、不幸な家庭はそれぞれに不幸である」とアンナ・カレーニナで語っていたけれど、不幸な理由がそれぞれの地域に別個にあって、時にそれらが絡み合っていて、だからこそ複雑でなかなか解決できていないんだろう。

昔、台北の女の子とデートしていたとき「日本はさ、夜が早いから退屈じゃない?」と言われて驚いたことがある。コンビニ以外に夜中必要だと思ったことないんだけれど。たしかに台北は24時間誰かしら起きて働いているような気がしたけれど。彼女の発言の意図は知らないけれど、ひょっとすると台湾の人たちはぼくらが知らない夜中の楽しみ方を知っているのかもしれない。

ここじゃ、夜が早いもなにもナイトライフが皆無に等しいから夜は存在しないも同義。

銃が減れば、ギャングがいなくなれば、治安が良くなれば、この国の夜も活気がでて、人も集まるし、経済は回るし、発展するスピードも上がると思うんだけれど、鶏が先か卵が先かみたいな話になってしまった。

現在現地時間午前1時、2,3発の銃声とともに一斉に犬が吠えはじめ、目が覚めてしまった。

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