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パブリックコメントの書き方攻略大全〜みんなでつくる地域政策〜

1.そもそもパブリックコメントって?

あなたは「パブリックコメント」(パブコメ)という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
e-Gov(電子政府の総合窓口)では、次のように説明されています。

国の行政機関は、政策を実施していくうえで、さまざまな政令や省令などを定めます。これら政令や省令等を決めようとする際に、あらかじめその案を公表し、広く国民の皆様から意見、情報を募集する手続が、パブリックコメント制度(意見公募手続)です。
パブリックコメントは、国の行政機関が政令や省令等を定めようとする際に、事前に、広く一般から意見を募り、その意見を考慮することにより、行政運営の公正さの確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益の保護に役立てることを目的としています。

出所:e-Gov「パブリックコメント制度(意見公募手続制度)について」(https://www.e-gov.go.jp/help/public_comment/about_pb.html)

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つまり、「法律を決めちゃう前に、国民みんなの意見を聞いてみよう!思うところがあったら言ってね!」という制度です。

例えば「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律施行規則の一部を改正する省令案」、「出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令の一部を改正する省令案」、「食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針」など、136件の案件について意見募集中です(2020年1月12日現在)。
現在、募集中の案件一覧は次のリンクからご覧いただけます。

また、国だけでなく、ほとんどの地方自治体においても「意見公募手続等実施要綱」が定められ、市の条例や計画を策定する際にはパブコメが実施されています。

パブコメのよいところは、国の法律や地域の政策に対して、誰でも意見を提出することができる点です(意見を出したからと言って必ずしも反映されるわけではありませんが)。

あなたも居酒屋でお酒を飲みながらあーだこーだ政治談義をする、みたいなことがあるかもしれませんし、ニュースを見ながら「最近の政治はてんでなっちゃいねえな!」と憤りを感じることもあるかもしれません。
ただ、思うだけでは法律や政策をつくる人たちには届きません。

ですので、もし「もっとよいアイデアがある!」とか、教育や貧困、環境などあるテーマ・問題に関心がある場合、ぜひ気軽にパブコメを提出してみましょう。

2.自治体のパブコメを出してみよう

とはいえ「国の法律とか読んでもよくわからん」「省令って言われてもイメージがわかない」という方も多いかと思います。

なので、まずはお住まいの自治体について考えてみましょう。
自分たちのまちのことですから、国の法律よりグッと身近に感じられるはずです。
例えば、筆者の住む掛川市では、次のページにて、意見募集中の案件や実施予定の案件について掲載されています。

きっとあなたのまちでも、自治体がパブコメを募集するページがあるはずですので、ぜひ一度チェックしてみてください。

3.パブコメ攻略法:反映されるパブコメの書き方

さて、募集ページを眺めて、「お、これはちょっとおもしろそうじゃねえか」と案件が見つかり、さっそく一筆パブコメとやらを書いてみるか、となったあなた。

パブコメは、幅広い意見が市民から出ていることが肝要です。
だから気軽に自分の意見を出してみることも大切です。

一方で……どうせ書くなら、ちょっとでも反映された方が嬉しいですよね??
そんなあなたに「パブコメが計画に採用される可能性がちょっと上がるかも」というヒントをご紹介します。

3-1.パブコメ募集の位置付けとタイミング

と、その前にそもそもパブコメが自治体の計画策定において、どのような位置付けなのかを確認しましょう。

掛川市にて、昨年度策定された「第2期掛川市教育振興基本計画」を例に見ていきましょう。
同計画では、2018年12月28日〜2019年1月28日の期間でパブコメが募集されていました。
また、次のページでは、計画の概要と策定経過が掲載されています。

これを見ると、パブコメ終了後の3月に第5回策定委員会が開かれ、「パブコメの結果について」が議題として挙げられ、この委員会を経て、計画は策定、公表されたようです。

こうした策定経過からわかることとして、次のことが挙げられます。

・パブコメ実施前に何度も委員会が開かれ協議されている
・パブコメ時の計画案はほぼ確定案である
・パブコメ実施後の委員会は1回のみで公表までの期間はわずか

ですので、パブコメのタイミングでは、ほぼ最終案が提示されており、ここから抜本的な変更がなされることは現実問題として難しそう、となんとなく想像できます。
なお、筆者の前職はシンクタンク研究員で、さまざまな自治体の計画策定をお手伝いしましたが、概ねどの自治体のどの計画でもこの事例と似たような状況でした。

3-2.パブコメの結果と回答の実際

上記のような事情により、原則としてパブコメによって大きな変更は難しいことがわかりました。
次のページで、パブコメの結果と市の回答が見られるのですが、実際「ご意見として伺います」「そのように推進します」といった回答が多く、実際に計画本文に反映されるものはわずかになっています。

これは「市はパブコメを蔑ろにしている!」というわけではなく、そもそも意見が計画に反映してほしいという趣旨のものではなかったり、出された意見の内容が元々ちゃんと記載されていたりすることによるものがほとんどです。

3-3.狙うのは「意味ある文言の追加・変更

「なんだよ、じゃあ意味ねえじゃん」と筆を折りそうになったかもしれませんが、そこをなんとかもう少しお付き合いください。

一方で、実際にパブコメが反映された事例として「掛川市緑茶で乾杯条例」を見てみましょう。

このパブコメでは、茶業関係者の役割について

意見:この条例は、飲食店をはじめ茶業関係者だけでない事業者(飲食、サービス業、観光、小売等)が重要なので、その旨を明記しては?
回答:すべてを列挙するのは難しいので「緑茶等を提供する事業者」として
表現するよう字句を整理する

出所:掛川市「(仮称)掛川市緑茶で乾杯条例骨子案に関する意見公募について(結果)」(http://www.city.kakegawa.shizuoka.jp/data/open/cnt/3/18795/1/pabukome_kekka.pdf)

といった意見とその反映がされています。
これは文言の軽微な追加ではありますが、条例が関係する事業者の範囲を拡大するという実質的な変更でした。

このように、①具体的な修正箇所を指定し、②具体的な修正案を提示する、という2つのポイントを押さえると、実際の条例・計画に反映されやすくなります。

3-4.総合計画に重要テーマが盛り込まれているか?

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続いて、掛川市で現在パブコメ募集中の総合計画について考えてみましょう。
総合計画とは、自治体が策定する自治体のすべての計画の基本となる、行政運営の総合的な指針となる計画です。

近年では策定義務もなくなり「形骸化している」といった批判もある総合計画ですが、自治体の最上位計画であり、分野別計画はほとんどの場合、総合計画に依拠しながら作られます。

そのため、もしあなたがあるテーマ・課題に興味があって、その推進を後押ししてほしい場合、総合計画でしっかりそのテーマ・課題について記載してもらうことが重要になります。
総合計画への記載の有無は、自治体が中長期的に政策課題として取り組むかを否かを左右するからです。

例えば、現在世界中で大きな議題になっている「気候変動」について、あなたが「もっとうちのまちでも取り組むべき!」とお考えだとしましょう。

その場合、総合計画にきちんと「気候変動」というキーワードや具体的な施策案が盛り込まれているかどうかをチェックし、もし盛り込まれていなければ「記載すべきでは?」という意見を出してみましょう。

実際に「第2次掛川市総合計画改定版(案)」について見てみると、「3.今後のまちづくりに必要な視点(3)環境面で持続可能であること②地球環境への負荷が軽減されていること」という項目において、気候変動について触れられています。
また、「4.持続可能なまちづくりの実現に向けた掛川市の主要課題」においても、地球温暖化の防止と再生可能エネルギーの利用促進が掲げられるなど、しっかり盛り込まれているようです。

さらに具体的な施策としては「3-① 省エネ・省資源、再生可能エネルギー普及の促進」に位置づけられていますので、この内容を確認してみましょう。
ここでも気候変動への対策が述べられていますが、ただ施策の方向や主要事業のほとんどが気候変動の「緩和」に関わるものであることが少し気になります。
ただ、現状と課題では、「緩和策、適応策双方からの視点」が必要と謳っているようです。

環境日本一を目指す本市は、市民・事業者・行政の協働により進めてきた省エネや再生可能エネルギー普及の取組を進めてきましたが、これまでになく高い温室効果ガス削減目標を実現するためには、環境・経済・社会の総合的な向上に繋がり、地球温暖化の緩和策、適応策双方からの視点による施策展開が必要となります。

出所:掛川市「第2次掛川市総合計画改定版(案)」(http://www.city.kakegawa.shizuoka.jp/data/open/cnt/3/19613/1/2kakegawa-soukei-kaitei.pdf)

そこで、このケースでは、「気候変動の適応」について、もっと盛り込むべきではないか、といった提案が考えられます。

あくまで参考例ですが、具体的な提案イメージを書くとすれば次のようになるかと思います。

3-① 省エネ・省資源、再生可能エネルギー普及の促進について
現状と課題において、地球温暖化の緩和策、適応策双方からの視点による施策展開が必要とされているものの、施策の方向、主要事業には適応策に関する記述がないように見受けられます。・・・①
掛川市においても、学校における児童・生徒や高齢者の熱中症対策、農作物の品質低下予防など、気候変動適応に関する施策の検討が求められるのではないでしょうか。
また、気候変動適応について、2018年6月に気候変動適応法が公布され、市町村においても、地域気候変動適応計画策定の努力義務が明記されています。・・・②
これを受けて県内でも、静岡県気候変動適応センターが設置され、また近隣の島田市では2019年3月に策定された「第二次島田市環境基本計画【後期基本計画】」において適応への取組が位置付けられるなどの対応が進んでいます。・・・③
そこで、少なくとも施策の方向に「気候変動の適応に必要な取組の検討」など、検討を進めていくことを記してはいかがでしょうか。・・・④

ここで、反映されやすいパブコメを書くポイントとして、4点工夫しています。

①計画内の対応関係に着目する
現状の課題認識対応する施策・事業がないという計画内での対応関係の不足について指摘しています。
課題があるのであれば対応すべきでは?という指摘ですね。

②国の動き(根拠の強化
新しい法律ができ、今後国が推進していくようなので、市でも取り組むべきでは?という指摘です。

③県・ほかの市町村の動き(根拠の強化
県やほかの市町村も取り組み始めていますよ、という指摘です。
②、③については、なぜしなければならないかという理由として(また計画策定担当者が上司や委員を説得する時の材料として)、筆者の勝手な想像や個人的な思いだけでなく、国や県も動いているよ、ということを示しています。

④記載のハードルを下げる
とはいえ、先述の通り、パブコメ実施後のわずかな期間で担当課やステークホルダーと調整し、事業を記載できるかと言うのは難しいところがあります。
そのため、記載内容としてはあくまで「検討する」程度を提案しています。

3-5.まとめに見せかけたちゃぶ台返し:出すのが大事

いかがでしたでしょうか。
ここまでがんばれば、計画に反映される可能性はそこそこあるのではないかと思います。少なくとも委員会では取り上げられて検討の俎上に載せられるはず。

一方、はじめに書いた通り、パブコメは、幅広い意見がたくさんの市民から出ていることに価値があります。

ここまでひたすら結果を出すためのパブコメの書き方を考えてきてあれですが、あまりパブコメが反映されるかどうかにはこだわりすぎず、気軽な気持ちで書いて出してみてください。

そうした多様で幅広い意見の厚みが、地域の政策の充実を支えます。

4.掛川市の総合計画を読んでパブコメを書いてみよう

さて、掛川市では1月19日(日)まで「第2次掛川市総合計画改定」のパブコメを募集中です。

ぜひこの機会に掛川市民あるいは掛川市にゆかりのある方は意見を提出してみましょう。

また、1月13日(月・祝)には「第2次掛川市総合計画改定案を読む会〜2025年の掛川をイメージしよう!〜」を開催します。

「なかなか自分だけだと考えにくい」「他の人がどう感じたか、どう思ったかを聞いてみたい」という方は、ぜひご参加いただければと思います。

繰り返しになりますが、パブリックコメントは法律や政策に対して、誰でも意見を出すことができる制度です。
そして、多様で幅広い意見が、地域政策をつくる厚みになります。

パブコメを通じて、ぜひ地域政策、地域づくりに参加してみましょう。


Photo by Marco Oriolesi, Med Badr Chemmaoui on Unsplash

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