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『パターソン』と『いろがみの詩(うた)』 シネマと戸田デザイン研究室 Vol.5

映画大好き!な、戸田デザイン研究室 広報・大澤がテーマを設け、素敵な映画作品と戸田デザイン研究室の作品をご紹介する【シネマと戸田デザイン研究室】。

第5回目のテーマは詩。【自らを見つめたとき、人は皆、詩人である。】テーマにご紹介します。

『パターソン』 監督:ジム・ジャームッシュ

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』『ナイト・オン・ザ・プラネット』など、独特な間とユーモアで唯一無二の世界を作り続けるジム・ジャームッシュ監督。こだわりの音楽、チャーミングな俳優陣を起用することでも定評がありますよね。

そんな監督の溢れる詩情が静かに優しく描かれた作品が今回ご紹介する『パターソン』です。(個人的にも近年のベスト3に入る程、大好きです!)

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ニュージャージー州のパターソン市に暮らすバス運転手パターソン。(この時点でなんだか笑える。)寡黙で心優しい彼は、個性的で愛らしい妻ローラと今ひとつ自分に懐かない愛犬 マーヴィンと静かに暮らしています。

妻の手作りお弁当を持ってバス会社に向い、家に戻れば独創的な妻の話しを聞きながら、時に独創的過ぎる手料理を食べる。愛犬を散歩させるついでに馴染みのバーでいつもの一杯。バスの乗客の話に耳を傾けてクスっとしたり、思いがけない人と交流したり、時に小さな事件に遭遇しながらも心静かな日常を送っています。

そんなパターソンの趣味は、詩を書くこと。乗客や同僚の会話から考えたこと、愛する町パターソンの自然を眺めて湧きあがったイマジネーション、最愛の妻への思い…。

特別大きな出来事や声高なメッセージを綴る訳ではありませんが パターソンの紡ぐ詩の世界はとても豊か。
普段の誠実で寡黙な彼から想像できないほどの彩り豊かな声に溢れ、ひたひたと胸に沁み込んでくるような魅力を持っています。

ちなみにパターソンと妻のローラが愛する詩人が、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ。アメリカ20世紀を代表する詩人だそうで、写実的でシンプルな表現に得も言われぬ詩情をのせる天才だったようです。

劇中でパターソンは妻にせがまれ、ウィリアムズの『言っておくよ』という詩を朗読します。夫が妻に伝える何気ない日常のひとこまを詩にしたものですが、まさにこれこそパターソンの世界。

私たちの生活は、毎日が華やかな出来事に満ちている訳でもなく、大半が単調な繰り返しの積み重ねで出来ています。時に思いがけない挫折や別れだってやってきます。だからこそ誰の人生にもドラマがあり、それぞれの詩が生まれる。

詩と聞くとついつい構えてしまうこともあるかもしれませんが、自分の人生を見つめ愛することができれば誰でも詩人なのかもしれない…。
そんなことを感じさせてくれる優しく美しい映画です。

『いろがみの詩(うた)』 色:とだこうしろう 詩:のろさかん

いろがみの詩見開き_群青

戸田デザイン研究室には、知育絵本というジャンルにとらわれない詩情豊かな作品があります。それは時に子ども、大人という境界線を軽々と飛び越え、読む者の感覚を呼び覚ましてくれる力があると思います。(広報の私はそう信じています!)

その代表格が『いろがみの詩(うた)』。

ページを開くと右ページには色のみ。左ページにはその色からイメージされた詩が綴られています。単純に色のみ、と言っても色彩に強いこだわりのあった作者とだこうしろうが選りすぐり、色そのものだけで世界観を作り上げたもの。

「ぎんいろ」「ひまわりいろ」「なんどいろ」。時に濃淡が混じり合い、かすかな模様も見える色をじっと見つめていると優しさや切なさ、そして時に怖さのような感情も湧き上ってきます。

そんな強く胸に響く色を受けて、詩人のろさかん氏が詩をつけています。幼い子でもわかるシンプルな言葉ながら、大人の胸にも時に優しく、時に切なく響く詩の数々。ここで一つ「ももいろ」の色と詩をご紹介します。

色と詩が静かに深く響き合う世界に、心を委ねてみてください。

いろがみの詩見開き_桃色

ももいろは おかあさんのいろ  おかあさん なんでも なくても よんでみる

パターソンが単調に見えて愛おしい日常から溢れる詩情を綴ったように、詩と言うのは「何かを感じた自分と向き合うこと」で生まれてくるもの。音楽、自然、会話、時に心乱される出来事。そして色と言うのも、自分の心の声を聞くのにとても強い力を持っています。

ぜひこの『いろがみの詩(うた)』を開いて、皆さんもそこから聞こえてくる心の声に耳を澄ましてみてください。パターソンのように、自分の人生を生きることでしか紡げない詩(うた)がきっと聞こえてくると思います。