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スイートルーム宿泊に歓喜し過ぎて…夏

青い空、透明度の高いプール。そこで戯れるグッドルッキングガイを見ながら「叶姉妹はこういう日常を送ってるんか」となぜかしみじみとした。
「いや、叶姉妹はもっとすげえホテルに泊まるだろうよ」と夫がいう。
そうか、我々にはここが頂点に思えるが、世界は広いんだな。
しかし、もうここが頂点でいい。これより上なんて、内臓がもたない。
私は、そう心から思った。


ちょっと聞いて頂きたい。
この度、人生で全く縁のなかったスイートルームに宿泊してきた。
どれぐらいご縁がなかったかといえば、これぐらい。


私もついにここまで来たか……。
ワイングラスを傾けながら独りごちる。

いや、違う。今回は完全にラッキーが降り注いだだけで、どこにも来てやしない。
なんと、ホテルスイートルームペア宿泊券を頂いたのだ。
なぜこれを手に入れたかは割愛するが、悪に手を染めるようなことはしていない。ただただ訪れた幸運に歓喜。
娘の宿泊費だけプラスして、私たち家族はひと月ほど前から「何着てく?」とはしゃぎ倒した。

ちなみに宿泊券はペアで10万円の選べるスイート。
2,000円のライダーズハウスに泊まった経験はあれど、一人一泊5万円などという贅沢、身の丈に合わなすぎてバチが当たるのではないかと、安倍晴明あたりに相談に行くレベル。寿命取られないか心配である。

ホテルに着いたら、駐車場には堂々たるベンツや、名前はわからないが、とにかくピカピカの外国車が複数台並んでいた。
我が家のファミリーカーが愛くるしい笑顔でその間に収まる様子がむしろ尊い。
出迎えてくれたホテルスタッフが、仰々しく両手で荷物を受け取ってくれる。薄汚れてるその旅行バッグこそが、こんな扱いを受けたことない!と一番緊張しているように見えた。
私たちは、ニヤニヤと謎の笑みを浮かべて、興奮を隠せずにチェックインの手続きをする。
「プールにすぐ入られますか?」
エントランスから見えるプールに、目を輝かせる娘の様子を見ながら、スタッフはにこやかに聞いてくれた。
「ええ!こちらのホテルを余すことなく堪能するつもりですので、すぐプール入って、明日も朝からプール三昧するつもりでやってきました!」
隠しきれない庶民感。抑えられないプールへの渇望。

部屋に通されると、これまた、今まで経験したことのない広さの部屋だった。
ベッドルームとリビングルームがそれぞれ別にある。やけに扉が多いと思ったら、トイレも2つあった。そしてお風呂が全面ガラス張り。すごい広さのガラス張り(2回言う)
クローゼットも二つ、テレビも2台。
広々としたリビングには、フッカフカのでっかいソファ。
冷蔵庫にはぎっしりビールとドリンクが入っていて、全て無料ですのでどうぞお気兼ねなくと伝えられた。
窓から見える景色は、180度、全面オーシャンビュー。広々としたウッドデッキには、これまたくつろげそうなテーブルと椅子が用意されている。
なんやこれ…明日死ぬんか…!?
あまりにも慣れない豪華さゆえ、脳がバグを起こしかけ、生命の危機を感じる始末だった。
家族一泊13万円で生命の危機を感じるのだ、テレビでたまに見る、一泊30万円などは、多分即死してしまうだろう。

水着に着替えてプールへ向かうと、そこではファミリーがキャッキャと戯れていた。あ、よかった、なんかホッとする。
そう思って、私たちも、プールで思う存分暴れることにした。
ところでプールには、バーが併設されていた。
ファミリーたちが休憩中、当然のように、そのバーで各自飲み物を飲んで楽しそうにおしゃべりに興じている。娘がその様子を見て「私もジュースが飲みたい」と言った。
そうね、せっかくだし、プールサイドバーを楽しみましょうとメニューに目を走らせるとまず、オレンジジュース1500円が目に入った。
いや…ランチやん…!!
呼吸が荒くなる。最安値を見ると、かき氷が750円だった。
もう私には、それが安いのか高いのかわからなかったが、全力で「かき氷!かき氷を食べな!暑いもんな!暑い日はかき氷!」と声高に叫び、娘を納得させた。
夫が「娘の宿泊費だけしかかからないから、他は奮発しようね!って言ってなかったっけ?」と私の耳元で囁いた。
確かに言った。しかしだ。パートの時給を上回るたった一杯のオレンジジュース、私の娘にそれを味わえるDNAは多分、ない。
隣では、ファミリーたち(7名様)がそれぞれに飲み物を楽しみ、お祖父様に至っては2杯目のカクテルを注文していた。あのファミリー全員分の飲み物で、私たちが普段泊まるホテル代の一人分になりそうな勢いだった。

夜。ディナーはフランス料理のフルコースをお願いしていた。ホテル着ではなく私服でご来店くださいとのことである。プールで散々はしゃいだ後であったため、とりあえずフルメイクをしなおした。
服は綺麗めに見えてればよし。それぞれが寛いでいるホテルの店内である。割とリラックスして席に向かうと、椅子を引いていただいたうえ、スッタフがあれやこれや入れ替わりでやってきた。思ってたより本格的な対応に慄き、申し訳なくて「招待券でやってきました」といちいち伝えたい気持ちになった。
その中に、ソムリエバッチをつけている人を発見。
娘に報告すると「ソムリエバッチってなに?」と返ってきたので、慌てて説明をする。
「名探偵コナンに出てたでしょ!事故で味覚障害になって、その復讐で殺人事件を起こした、ワインの味を確認する人!コナンくんに、水に塩入れられたあの人、ソムリエだったじゃん!」
ソムリエの説明の方向をだいぶ間違ってしまった。
「え、あの人は殺人犯じゃないよね」
当然である。

そして私は、「とりあえずビール」の女であった。シャンパンなど飲むと、大概早く酔いが回って気分が悪くなってしまう体質なので、ソムリエバッチをつけている方におずおずとビールを注文する。さすがプロ、全く嫌な顔などせず、美しい手つきで、完璧な泡立ちのビールを持ってきてくださったが、その能力を如何なく発揮させることができず、心苦しい限りである。
それでも乾杯を済ませ、ディナーを楽しんだ。
淡路島の野菜がふんだんに使われた美しい料理の数々が、私たち家族を魅了した。
唯一、娘が「え、これ少な!」とか「次、いつくるん?」とか言うので「ちょっと庶民感を封印してくれ。今お母さんは、北川景子のつもりでご飯楽しんでるから」と伝える。
高級料理を食べる北川景子ごっこ、最高の遊びである。
それであまりに気分が高揚したので、メインの牛肉が出た時に、ついソムリエにグラスワインを注文してしまった。
ソムリエは軽くワインの説明をしてくれたが「全く分からないのでお任せしたい」と伝えると仰々しく頭をさげ、私の前で美しい赤い飲み物を入れてくれた。
北川景子ごっこ、ここがピーク。
普段、アルパカワイン500円を最高!と言いながら飲んでいるのだ(いや本当に最高なのだが)。香り高いワインに、ほとばしる肉汁のステーキ。
「最高の夜だね」
まるで、行き慣れたホテルであるかの如く、夫(DAIGO)に微笑む。

しかし、最高だったのはここまでだった。
部屋に戻って、酔いが回った体をベッドで休ませる。ウトウトと30分ほど寝た後、体が冷えたので、全面ガラス張りの風呂へ入った。
まだらに赤く染まっている、だらしない体が鏡に映る。
「北川…景…子…どこ行ったん…」
現実とは、これほどまでに非情なのか。そう思いながら、湯船にたっぷりお湯を溜めてゆっくり浸かった。
ところで私は、アルコールにはあまり強くない。全身が赤く染まっていること自体、あまりよろしくない兆候だというのに、そこで長湯をしてしまった。
風呂を出た瞬間から、猛烈に気分が悪くなった。リビングで、百人一首に興じる、貴族な娘と夫の声がする。
酒により気分が悪くなるなどという失態、バレてはならぬ…!
私は必死に自分を鼓舞した。しかし、内臓は荒れ狂っている。
ほどなくして、トイレにて、本日のディナーも1杯数千円したワインも、全てが水に流されて行った。
全てが夢幻…!!ちょっと泣きそうになった。
何も気付いてない娘が「お母さんも百人一首しようー!」と誘ってきたので、青白い顔のまま、朗々と百人一首を読み上げた。切なさに拍車がかかって、図らずも読手に相応しくなっていた。完璧な夜の続きをしよう。私は失態を取り戻すべく読み続けた。
しかし夫にはその顔面の青白さで失態がバレていたらしい。悔しい、そして恥ずかしい。

翌朝、朝食を済ませ、再度、プールへ飛び込む。
貸切だとはしゃいでいたら、外国人男性を連れたスタイルのいい日本人美女が現れた。さながら、グッドルッキングガイを連れた叶美香さんである。
彼らのプールの入り方がまた、なんというか、水辺で戯れる貴族。そこへ、容赦なくボールを投げ入れる娘(わざとではない)に私は慌てる。
彼らは、耳元で愛を囁きながら、水中でお姫様抱っこしつつ回っていた。
そんなところへ、ボールを取りに泳いで行く母の気持ちを察して欲しい。北川景子ごっこはとうに強制終了されているのだ。
プールサイドでは、パソコンを持ち込み水着で仕事をする男性がいた。よく分からないが、多分仕事相手はニューヨークにいる。自分の上司が、水着で浮かれてリモート会議に出てたら「くっそ!」という気持ちになりそうなのでそう思うことにした。
夫は、携帯でYouTubeを見ている。せめて本を読んだらいいのに、と伝えると
「今、東出昌大が鹿を捌いている、めっちゃ勉強になる」と言っていた。ラグジュアリーなホテルで何故狩人な動画を。


かくして、11時のチェックアウトのその瞬間まで、私たちは存分に楽しんだ。
まぁ夕食は流してしまったが、味は覚えているので大満足だ。
「奮発してまた来たいね!ゆっくり過ごす贅沢もいいかも」と可愛く伝えてみたが、「来年娘が中学生になったら、大人料金やで」と言われて、発言を取り消した。
行ける時は行ける。行けない時は行けない。
またいつか、行ける日を信じて、私たちは尊いファミリーカーに荷物を入れ、高級ホテルを後にしたのだった。


高級ホテルで八つ墓る犬神る娘
ちなみに、暑すぎてお湯


室内からオーシャンビュー(朝5時)
美しい料理たち(バターが淡路島の形)
幻のメインとワイン
美しいデザートも今となっては幻
朝食
淡路島のタマネギボーイは湯だっていた
ソフトクリーム瞬間で溶けた🫠
息が出来ないほど暑かった


地震の不安で、キャンセルが増えているとのこと。
地震前だったので楽しめました。
何事もなく過ぎますように。でも備えはしておかねばと気を引き締めてます。

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