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映画レビュー:友よ、風に抱かれて(1987)〜たったひとりの「死」を通して描かれたヴェトナム戦争、勝利なき戦争を終わらせたものは何だろう?

ストーリー

 1968年、アメリカ。ヴェトナム戦争の最中、ウィローは陸軍歩兵となったが、配属された陸軍第3歩兵連隊「ザ・オールド・ガード」の仕事は、アーリントン墓地に兵士の遺体を埋葬する、という意に沿わないものだった。その部隊の曹長で歴戦の勇士、クレル・ハザードは、戦友の息子であるウィローに父親のように接するが、彼とその上官の〝グッディ〟ネルソンは、この戦争に疑問を抱き、ウィローにもそのことを隠さず伝える。しかし父の死、幼馴染のレイチェルとの再会などを通して、ウィローは士官となって戦地へ赴きたい、という思いを強くしてゆく。一方クレルは、何もできずに兵士らが遺体となってくるのを待つことにいたたまれず、兵士たちの一人でも、生きて戻ってくることができるように訓練したいと願っていた。反戦デモにも身を投じる新聞記者、サマンサとの出会いを通してその思いを深めた彼は、ある行動に出る…。

レビュー

 1979年、ヴェトナム戦争をテーマにした超大作「地獄の黙示録」でカンヌ映画祭の最高賞、パルム・ドールを獲得したフランシス・コッポラが、再度ヴェトナム戦争を取り上げて制作した作品だが、「地獄の黙示録」とは対照的に、戦争の場面はまったくなく、それどころかヴェトナムでもなくアメリカ、ワシントンのごく限られた場所で、ある一人の若者の入隊から戦死までを描いた佳作である。

 映画の舞台となっている陸軍第3歩兵連隊は「ザ・オールド・ガード」と呼ばれ、戦没者を埋葬するアーリントン国立墓地の警備、葬儀と埋葬という任務にあたっている。映画は、ある戦死者の棺が運ばれる場面から始まり、その美しい軍装と威厳に満ちた儀式に目を奪われる。同時にそれは、登場する人物の誰かがやがて戦死するだろうという悲しい予兆でもある。

 「墓を守るより、前線で戦いたい」と願う若者、ウィローに対して、のっけから「ヴェトナムに前線はない」とその意を挫くような発言を繰り返すクレル。アメリカの理想、軍人としてのあるべき生き方に疑問を抱かない若者と、ヴェトナム戦争の戦地に赴いた経験から、この戦争の無意味さに気づき、それを伝えようとするヴェテランとの対比が、クレルとサマンサ、ウィローとレイチェルという2組の男女のラブロマンスをまじえて描かれてゆく。戦時とは思えないほどゆったりとして、戦死者の埋葬という仕事以外に「戦争」を感じさせるものはまったくない。それが、アメリカ本土で経験されてきた戦争そのものなのだろう。

 しかし一方で、クレルの恋人サマンサを通して、アメリカ国内で激しい反戦デモが起きていること、軍人に対して反戦家たちの敵意が向けられていることが描かれる。ヴェトナム戦争の戦地の状況は、テレビ映像で挿入されるのみなのだが、この時代、はじめてマスコミが戦地に赴き戦争をテレビ中継したことで、その生々しい戦争の状況が遠く離れたアメリカ本土にもリアルタイムで伝えられ、そのことが、反戦という機運を醸成するに至った、といわれている。また、クレルは葬儀の中で、この戦争での戦死者の数は数えられている、ということをいうが、それもまた、ベトナム戦争の特徴である。前線のないこの戦いでは、拠点攻略は意味をなさず、ただ遺体の数だけが勝つかどうかの指標となっていた。この戦争には勝てない、ということも、彼らは1日に埋葬する遺体の数の多さで感じているのだ。

 それでも「この戦争には反対」と率直にいうサマンサに対して、軍は家族だ、と組織への愛着を隠さないクレルは反発するが、根底には同じものが流れている、と感じる。大切な人を、これ以上失いたくない。そしてその思いが、クレルを突き動かしてゆく。

 幼馴染のレイチェルとの関係を取り戻し、結婚したウィローは少尉となって戦地に赴く。そこで現実を目の当たりにし、はじめてクレルの真意を知る。その姿は、若々しく、希望に満ちて、そして力ある大国として世界にその正義をもたらしたい、と願っていたアメリカが、この泥沼といわれる戦争で挫折してゆくプロセスのものである。ひとりの若い兵士の変わってゆく姿を通して、コッポラはアメリカ全体の味わった失意を描こうとしたのだと感じた。

 クレルとサマンサ、軍人と反戦家という組み合わせは、名作として名高い映画「追憶」を思い出させる。元軍人で作家のハベルと、反政府運動に身を投じるケイティのラブロマンスは、互いの主義を譲れないまま終わりを迎える。本作での二人は主義主張では対立するが、それを超えて結ばれる。第二次世界大戦後も激動の時代を生きぬき、冷戦も終わりを間近にひかえた80年代のアメリカが得た成熟が、そこにはあるのかもしれない。

 原題の「Gardens of Stone」(石の庭)は、アメリカ軍人が葬られるアーリントン国立墓地のこと。邦題があまりにも残念すぎて、この映画の良さが伝わってないと思う。

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