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いいかげん、という言葉に救われた話

「いい加減にしなさい!」と聞くと、のび太やしんちゃんのお母さんが怒るシーンが再生される方も多いかと思います。
この言葉の意味は「本格的ではない・おおざっぱ・なげやり」といった、上述したシーンで使われます。
しかし「適度」という意味もあり、冷静に考えると捉え方が難しい表現のような気もします。

仕事中、この言葉でトラブルに巻き込まれたことがあるのですが、結果的には救われた思い出があります。

いいかげん、という誤解


環境関連の法令は50種以上あり、企業はそれぞれの法の適用範囲において順守することが義務となります。
ただし、この法の順守というのが曲者です。適用されるか否かという判断基準はある程度法令で示されていますが、運用実態としてはグレーな場面に直面することが多々あります。

例えば、焼却設備は法の適用を受ける、と基準にある場合。会社には溶解炉があり、通常は金属の塊を「溶かす」設備なので非該当です。ところが、その金属の塊を結束しているバンドごと溶解していました。その一連の作業を市の職員の立ち入りの際に目撃され、「焼却している」と詰め寄られたことがありました。
双方の言い分や背景は長くなるので割愛します。結論としては、作業として「焼却している」という事実はあるものの、設備は「溶解炉」だということで非該当になりました。

こういった法対応について会社内で意見が割れたことがあります。
とある法令の適用条件で、当社が該当するかどうか不明確な状況で対応策の相談をしていました。

①法令の文面を全て受け入れ、対策を完璧に行い役所へ謝罪する
 (対応費用2500万円)
②法令の文面で適用条件を役所と交渉し、最低限の対策をする
 (対応費用200万円~)

直属の上司は断然①を進めようとしていました。しかし、経営層や私を始めチームメンバーは②を推していました。
第三者から見れば①が良い判断に見えると思いますが、役所に相談する前に全部対策してしまうという、ある意味の隠ぺい工作でした。
②は真実を役所に申告した上で、対策の必要な点をピンポイントで進めるやり方なのです。

この対応方法について中々前に進まない会議をしていたとき、同じチームの定年退職カウントダウン中のおじさんが一言発したのです。

「いいかげんに、終わらせちゃおう」

ヘラヘラっとした口ぶりで、周囲に愛想笑いを振りまきながら。
法令順守という重たい内容に相応しくないその態度に、上司が激高しました。

「法令対応を軽く考えるなっ!」

結果として①の対応を経営層に進言しました。無論、対策メンバーの主力は私となっていました。
事前準備として対策(設備改造)の見積もり取得、稟議書作成、製造部門との日程調整、該当工場の工場長への状況説明、ガントチャート作成などあらゆることをやらされました。
(会社内での私の置かれていたポジションについては以下の記事で)

ところが、経営層は②の対策を指示してきました。
経営層から私に直接、「早いところ、役所とうまく交渉してくれ」と頼まれました。その瞬間、事前準備に費やしたことはすべて白紙と化しました。

上司は茫然とし、本件についてはそれ以降指示することは無くなりました。
その後はトントンと事態が進むことになり、3か月後には無事に対応を完結することが出来ました。

発した言葉の意味


状況説明が長くなりましたね。
結局のところ、定年退職間近のおじさんの「いいかげん」な一言が事態を動かし解決に導いた事になったというエピソード。

ちょうどその言葉を発して上司が激高し会議室を退席した直後、残った若手メンバーにこんな補足をしてくれました。

「いいかげん、ってのは、『良い』『下限』って意味なんだよな。
適度に最低限の品質や条件をクリアすることが、上手く生きていくコツだ」

じつはこのおじさんは、会社の中でも主力の技術部門で30年以上勤めており、長らく会社の事業を支えていました。ただ、脱力感のある方でリーダーには向いていない為出世はされておらず、残り2年を私の部署で過ごしました。人間味のある人でしたが、この一件から上司とは最後まで打ち解けないまま静かに退職されました。

何事もくそ真面目に取り組んでしまい自分の首をしめる私にとって、今でも自分を落ち着かせるための魔法の言葉なんです。
あなたは、良い下限で生きていますか?

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