ラジオドラマ脚本 011
タイトル【運を呼び戻すため。】
登場人物
主人公:佐伯 透(サエキトオル)45歳
■ 強運の持ち主だと信じて疑わない
奥さん:佐伯 美穂(サエキミホ)40歳
■旦那が嫌いではないが添い遂げる気はない
隊 員:田中 健太(タナカ ケンタ)
主治医:藤堂 俊(トウドウ シュン)
SE:玄関の開く音
透 「ただいま!」
美穂「あら?今日は、早いのね?お風呂湧いてますよ? ご飯は?」
透 「ご飯すませてきたから、風呂はいって、少し早いけど寝るよ。」
美穂「あなた、大丈夫?このところ疲れてるみたい。」
SE:勢い良くドアが閉まる音
美穂(M)この人とは、もう、意思の疎通が出来ないのかも?
透(M)大好物のカツカレー大盛り残したな。俺は強運の持ち主だから。
SE:スマフォのアラーム
透(M)気持ちの良い目覚めだよ。やっぱり気のせいだったんだ。よかった。
美穂「あなた!早く起きてください。ねぇ、何度も言わせないでよ!」
透(M)あれ?さっき返事したはずだぞ。変だな?我が奥方も耳にきたの
か?お互いに歳とったからな。さて、起きるか!
SE:ドアの開く音
美穂「もう、返事くらいして下さい。あなた!てっば!」
N:旦那さんを起こそうとする。その時、旦那さんの顔が歪んで見えた。
美穂「どうしたの?ねぇ?なにが、あったの?」
透(M)そんなに顔を近づけるな!気持ち悪いなあ。
美穂「あなた、その顔、いったいどうしたの?救急車を呼ばないと、スマォ!
は、どこ!」
透(M)顔って何だよ!
SE:携帯の119を押す音
美穂「しゃべれる?今、救急車、呼びましたよ!しっかりして!。」
透(M)何言ってるんだ。ほら!
N:透、懸命に言葉を出そうとするが、言葉にならない。
透 「ら、ら、ら、ら、じょぶ! はら、おっ?」
透(M)左手が動かないよ?どうした?言葉もでないよ?
美穂「もう、冗談はやめて下さい。くだらない事やめて下さい!」
N:美穂、透の身体を揺さぶる。
美穂「ほら? ほら?ほら?」
透(M)動かすの! やめろ! やめろ!自分で動かすから、やめろ!
美穂「答えて下さい。もう!ちゃんと!」
SE:救急車のサイレン音
透(M)美穂!君が、まず、落ち着け! 俺も、落ち着け。
SE:ドアベルの音
美穂「透さん、ちょっと、下に行きます。少し、待ってて。救急隊員を連れて
きます。絶対!動かないでよ!」
透(M)馬鹿じゃないのか?こんな状況で逃げるわけないだろう。
SE:隊員発ちの階段を駆け上がる音
美穂「こっちです。」
健太「奥さん、ご主人の容態を確認させて下さい。まず、あなたの声に反応し
ますか?」
美穂「なにか?もどかしげに反応しました。」
透(M)おい!さっきから、大袈裟なくらい反応してるぞ!
健太「身体の方は、動きますか?」
美穂「さっき、動かしてみたんですが、ぴくりともしませんでした。」
透(M)揺さぶられて、余計に気持ち悪くなったぞ!
健太「ご主人のこの顔の歪みですが、ずっと、この感じですか?」
美穂「最初に、異常を感じた時と変わりません。涎も垂れ流し状態です。」
透(M)恥ずかしいから、拭いてくれ。
健太「だいたいの様子が分かりました。緊急で入院出来る病院を探します。」
透(M)なんか?呑気すぎないか?本当に死んでやるぞ!
美穂「すみませんが、近所にERのある病院が有るんですが、そこでは、
ダメですか?」
SE:電話でのやり取りの音
SE:ストレッチャーの音
美穂「主人は、大丈夫でしょうか?」
藤堂「今は、薬で寝ています。何とも言えませんが、検査の結果を見て」
N:数時間後、透の意識も戻り、聞き取りづらいがしゃべる事もでき一安心。
SE:ドアの開く音
美穂(M)夫の具合は、どんな事になってるの?頭の中がぐるぐる回る。
私が、今は、しっかりとしないと。だめ!だめ!
藤堂「今回は、薬でなんとかなると思います」
美穂「えっ?ほんとうですか?」
藤堂「はっきりと言いますが、旦那さんの命は、今のままであれば、保証でき
ません。」
美穂「意識?ありますよ?」
藤堂「血栓が出た位置が、致命傷にならなかっただけです。次回は、
即死の可能性も。覚悟は必要です」
美穂(M)もう、脅さないで!
藤堂「病状に関しては、私の方から話をしますが、本人の気持ちの確認を」
美穂「確認?どんな?」
藤堂「まずは病気について、私が話した事を伝えて下さい。その後、
本人の治りたいという気持ちが重要です」
美穂「わかりました。意思の確認ですね。」
美穂(M)どのように、伝えたら、いいかな?プライドだけは高い人だし。
N:廊下で、他の患者とぶつかりそうになる。美穂さん。
SE:ドアをノックする音
美穂「あなた?大丈夫ですか?」
N:天井を見つめながら、必死にうなずこうとする。透さん。
美穂「今、主治医の先生から、あなたの状況の説明を受けてきました。
現状は、薬であなたの血の粘度をサラサラにして、血栓が出来ないよう
にしてる状態です」
美穂(M)分かってるのかしら?
透(M)そんなに悪いのか?ビールが飲みたい。
美穂「ビールが飲みたいんでしょ!顔に描いてある。その生活を改めないと」
透(M)なんだ?気持ち悪いな。オレのこと嫌いだろう?
美穂「いずれにして、次に発症したら、もう、ダメのようです」
透「あ り が と う」
美穂(M)えっ?今?ありがとうって言ったの?
美穂「大丈夫?無理しないで下さい。」
透(M)あれ?美穂のやつ、どうしたんだ?困惑してるような顔つきだな。
なんでだ?
美穂「ねぇ、あなた、今後の事を、少しだけ話したいのだけど?大丈夫?もし、
気分が悪くなったりしたら、遠慮なく言って下さい。」
透(M)なんども、気分の事聞くなよ!脳みそは絶好調だぜ!
美穂「藤堂先生のお話だと、一番重要なのは、あなたの気持ち。治りたいと
思えるかどうか?」
透(M)美穂のやつ腹くくってるのかな?今までみた事のない形相だな。
俺も、このまま動けないのも、しゃくだしなぁ。そうだ!
N:透、顔を少しだけ、ゆっくり動かして 美穂に、ゆっくりと話しかける。
透 「俺の方もこのままという訳にはいかない。」
N:少しずつ、息を吐きながら弱々しく話す透さん。そして、唐突に。
透 「特大カツがのったカツカレー、よ ろ し く」
美穂「えっ?」
【完了】
※無断転載を禁じる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?